第217話

「どっと疲れた……」

「だろうな」

 疲れた顔を浮かべながらも姿勢を崩さず廊下を歩くカナラ。

 これだけ見ると育ち良さそうだよなぁ~。実際はどうかわからないけど。周りが周りだからかな……。

「最近色々忙しかったしなぁ~……。しばらくゆっくりしたいわぁ~……」

「そんなに疲れてたなら断れば良かったんじゃね?」

 やらせた張本人俺だけど。嫌なら断っても良かったのに。強制的にやらせるだけだから。

 やらせたら思った通り面白い催しだったしな。やって正解。

「ん~。疲れたんは疲れたんやけど。やって良かったとは思うかな?」

「ほう? その心は?」

「一つは。その……坊が楽しそうというか……。時折目してる気がしたから……」

 あ~……まぁ……そうね。性的そういう目で見てましたたしかに。

 でもそれは仕方ない。カナラがエロいのが悪いのだから。俺は決して悪くない。だから反省しません。

 つか本人それが嬉しいみたいだしな。俺が反省する必要がないわけだ。

 もし誰かが俺を咎めようというのならまずこのこじらせスケベをどうにかしてどうぞ。この女人の寝ているところに忍び込んでいかがわしいことするような女なので。

「それで? ってことはまだあるんだろ?」

「うん。坊の言ってたことが本当ってわかって良かったぁ~って」

 どういうこと? 俺なんか疑われるようなこと言ったっけ?

「ほら。私がび、美人って……やつ……です……。~~~~~~//////」

「あ~そのことか」

 うん。言った。言いました。それ俺が言いました。はい。

 自称ブスのこの女にお前は美人だよーつったわたしかに。

「坊の事疑いたくはなかったんやけどね。やっぱり長い事そうだったわけやから。にわかには信じられんかったんよ。でもあの娘らの顔見てたら本当に私今の時代なら受け入れられる顔なんやなぁ~って」

「時代が追いついたってやつだな」

大仰おおぎょうな言い方すれば……そうなるかもしれへんね」

 少し前を歩かれて顔は見えない。でもなんかほんのりと言葉には寂しさがある……ような気がしないでもない。

 もしも生まれたときから今みたいな価値観だったら美人ともてはやされてただろうし。思うところがあるのかもな。

 かといって、俺も感傷的センチな空気に付き合ってやるつもりはないぞ。

「じゃあ俺の愛人になるのやめて他に男でも探すか? 俺より良い男なんて山ほどいるし。お前なら選り取り見取りだぞ」

 少し意地の悪い言い方をしてやる。どう答えるか見物。

 振り向くと、カナラは特に困った様子もなく拍子抜け。困らせるつもりだったんだけど不発とかつまらないな。

「それが本当でももう坊と口付けもしてもうたし。責任取ってもらいますからねぇ~。……でももし、坊の方が飽きてもうたら……。身の振り方考えんとあかんよねぇ~。それまでは坊の事。好きでいさせてくれる?」

「……」

 満点の答えですね。ヒロインか己は。

「なぁに~? その目ぇ~。思ってた答えと違って詰まらんって目しとるよ?」

「よくわかったな。一言一句違わずその通りだよ」

「もう。何が気に入らんかったの?」

「いんや別に? 答えは満点だったぞ。本当(都合の)良い女だなぁ~って思ったくらい」

 ただもうちょっとわたわたしろよとは思った。俺は焦るカナラが大好きなんで。

「え? そう? じゃ、じゃあ満点のご褒美とか……ない?」

 いつの間にか隣に戻っていたカナラが人差し指を自分の唇に触れさせながらこちらを見てくる。あざとい。

 これでなにを求めてるかわからないって言うんだろうなぁ~物語の主人公って。頭沸いてんのかな? それともただのバカ?

 まぁどうせ大人の事情だろ? はいはいご都合主義ご都合主義。

 ふむ。にしても。思いの外。

「積極的だな」

 顔真っ赤にしてるのは変わらないけど。求めることがちょっと過激じゃないかい? 学園内でキスとか風紀的にダメだと思うわ~。

「に、二週間もお預け食らっとるんやからええやないの……」

 何千年と生きてるくせになに言ってんだか。二週間なんて一瞬じゃねぇの? 逆にどういう時間感覚してんだお前。

「そ、それで……だ、駄目?」

 頬を染めて目を潤ませて完全誘ってやがるねこの女。

 いや俺もね? 時と場所と場合の都合が良ければ一回や二回やぶさかではねぇんだよ?

 でもさ? 学園内はダメだろ。いくら今人がいないつってもいつどこで誰が見てるかわからないし。それに……。あ、別に良いか。とりあえずは要望に応えようとはしてやろう。

「わかったよ。こっち向け」

「え、あ、う、うん……」

 立ち止まり、体ごとこちらを向く。

「あ……」

 顎に手を添え、くいっとやや上を向かせる。そしてカナラの口へ――。

「ふぎゅ……っ!?」

 コロナのお手てがべちんっと音を立てて襲撃。

 さっきまで寝てたんだけどな。不穏な空気を感じたらしくお目覚めのよう。

「うぅ~っ」

 おう。おう。寝起きってこともあって不機嫌に唸っておられる。こりゃもう空気ぶち壊しだな。よくやった。

「ってことでお預けだなカナラ。コロナの教育に悪いことはさすがにできないだろう?」

「うぅ~……」

 別の理由で目を潤ませてる。おいおいそんなにしたかったのかお前。

 うん。まぁ正直俺もしたい気持ちはある。それくらい俺はカナラのことは気に入ってるしな。

 仕方ない。そのうち機会を見つけて慰めてやるかな。

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