第216話
「さぁて準備ができたようです! では張り切って参りましょう! 艶眞さんによるファッションショーでーす!」
服の着方とか教えたりその他なんかかんやの準備で時間は食ったが終わったようで、久茂井先輩のかけ声によりファッションショーとやらが始まる。
ご丁寧にカーテン付きのセットまで取り出しやがって。まずそれどっから持ってきたのか。どんだけスペースあるんだろこの部。
まぁ良い。知ったところで以下略。今はカナラの着せ替えを楽しもうじゃないか。
見た目や仕草や
「ではまずは私のチョイスから! まずは王道ということでメイド! なんですがぁ~? 桃之生さんの雰囲気を踏まえましてちょいとばかし趣向を凝らしてみましたぁん!」
「その結果が~こ~れ~だぁ~! ワン! トゥ! スリー! どーん!」
部員の一人の前置きと久茂井先輩の司会のツーコンボが放たれカーテンが開かれる。
現れたカナラの姿は――。
「刮目せよ! 私が選んだのは『和風メイド』! です!」
基本ベースは緑色の和服……それも軽い生地の浴衣かな。そこにフリルの多いエプロン。ヘッドドレスもつけちゃって見事に和洋折衷。悪くない。
しかもカナラの姿勢がめちゃめちゃ良いから様になってんだよな。デキる
「……何かご用事がお有りですか? この艶眞がなんなりと承りますよ?」
「……!」
せ、台詞まで仕込まれてるとは意外だった。しかもちゃんと言ってるあたり律儀。
「~~~~~~//////」
ただやっぱ恥ずかしいは恥ずかしいんだな。着なれない服に言い慣れない類いの言葉だもんな。だからこそそれが良いんだけれども。
「ガフッ! 最早確立されている和風メイド! しかも王道を往く
いや理性の前に鼻血飛んでるから。早く拭いてください汚いんで。
「じゃんじゃん行こう! お次は!?」
鼻血を無視して司会進行。失血死にはご注意を。
「私が行きます! 和メイドとかされたらこれしかないでしょう! いでよ! 『和ロリ』」
「……♪」
今回はなにも言わない。その代わり頑張ってウインクしてる。可愛いな。性格上キツそうだけど。
でも服自体は似合ってる。さっきよりフリフリが増えて可愛らしさがより強く出てる。普段のカナラは大人っぽい雰囲気だからギャップが良いわ。良い年ぶっこいて感癖になりそう。
「……ハッ! い、今心臓が止まっていたぜ……。射抜かれていた……。私はあの魔性の瞳に殺されるところだったぜ……」
とか言いつつ鼻血は出てないので和メイドのが良かったんだろうな。わかりやす。
「じゃあ次行ってみよう!」
「うぃっす! 私はあえてシンプルに行こうと思います! そう! この見た目! この雰囲気! であれば! 完全な和で行くしかないじゃない! ってわけで『着崩し遊女』。ご覧あれ」
「「「おお~!!!」」」
今までで一番反応が良い。それも無理はない。
着物を着崩して肩や足を出しながら手をつき座っているだけでなく、煙管(おもちゃ)をくわえて薄目を開いてこちらを見るのがそりゃあもう艶っぽい。
化粧も合わせて紅引いたりしてるから俺の好みとは違うけど。これはこれで悪くはない。
「どないしたん? そない見つめはって。あ、わかった。私に見とれてたんやろう? このび、美貌やものしゃ~ないよねぇ~? ふふっ。ええよ。好きに見て。旦那はんが買った女なんやから。好きにして?」
今美貌ってところ噛んだな。自分のことブスって思ってるから辛かったろうな。ブスがなに言ってんだって感じで。憐れ。
「いくらだ!? いくら出せば良い!? 金ならある! いくらでも作ってみせる!」
「ぶ、部長落ち着いてください! 彼女は非売品です!」
「なんだとふざけるな! 買われたと言ってるじゃないか! だったら私にだってお触りチャンスくらいあっても良いじゃない!?」
「あーじゃあ俺が買いました。今夜はお楽しみなんですっこんでてください」
「なんだと貴様!? 私も混ぜろよ!」
「嫌です。一人で味わいます」
「も、もう! 何言うてんのほんま! ぼ、坊とはその……まだ……」
「「「……」」」
ガチ照れしたカナラが愛らしすぎて被服部全員が一時的に戦闘不能に。気持ちはわかりますよ。こいつのこの顔本当良いよね。このときばかりは同士と認めよう。
その後。ブルマ。スパッツ。教師風スーツ。白衣。OL。ベビードール。きぐるみパジャマ。パンクロック。ライダースーツ。ゴスロリ。貴族風ドレス。ウェディングドレスなどなど……。
あらゆる服を着ては色々な台詞を言わされたカナラ。
特にポイントが高かったのは遊女と教師だな。
遊女はまぁその時代を知ってるだろうから納得できる。
意外だったのは女教師だよ。
台詞とドシンプルに「めっ」って軽く叱る~みたいなのだったんだがこれがウケが良かったんだよ。
子供叱るのに慣れてるから淀みもなかったし。実に堂に入ってた。
これを越えるのはもうないんじゃないかな? 少なくとも今回は……って思ってるんだけど。
なんとまだ久茂井先輩の番が残ってる。というか意図的じゃないかこれ?
「……素晴らしかった。本当に。どれも素晴らしかった。……しかし。……しかしだよ。最後はキッチリ私が飾らにゃなるめぇよ。部長の私がやらなきゃ誰がやるってなぁ~」
いや、皆うんうん頷いてるけどそこはこだわらなくても良いんじゃのかなって。
とか言ったところで無視されるのがオチだろうから大人しくしとくけども。
ってわけでどうぞ好きにトリを飾ってくださいな。
「さぁ。我がインスピレーションに畏れを抱け。私が選んだのはこ・れ・だ」
「「「……!!?」」」
こ、これは俺も驚いた。今までのがこう……コスプレってコスチュームって感じだったんだけど。
こ、これは予想外過ぎる。だ、だって……だってこれ……。
「はぁ~。正直疲れとったけど。落ち着くわぁ~。やっぱりこういうのが性に合ってるのかもしれへんねぇ~」
最後の衣装はなんと地味な和服に割烹着。ザ・昭和の様相だ。
今までで一番花がないはずなのに一番しっくり来るし一番グッと来るものがある。
さらには被服部全員ほっこりした顔してるし当人もほっこりした面してる。まさにほっこりの二重奏。
「皆の衆……。どうだい皆の衆? これが彼女がもっとも輝く姿だと思わんかね?」
久茂井先輩の言葉に染々頷く部員たち。俺含めその場の全員を納得させた。
あらゆる衣装を着たカナラだが、最後に割烹着を持ってきた先輩。侮り難し。
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