第214話

「はいっと」

「おわ!?」

 カナラと夕美斗の手合わせ。

 最初、夕美斗は遠慮がちだったが今は結構本気で向かっていってる。

 向かっていっては軽々とさばかれ、投げられてる。それの繰り返しだ。

 人域魔法やニスニルの風を使ってもカナラには通じてない。

「はぁ~……。なんじゃありゃ。えんちゃんヤバくね? 超ヤバくねぇ~?」

「夕美斗ちゃんの攻撃さばくとか人間技じゃないでしょ……」

「しかもあれ魔法使ってる様子ないですよ……」

 いや正確には使ってないわけじゃない。

 夕美斗の纏ってる風の鎧? 籠手って言うべきかな? を、マナで吹き飛ばしてるからなあいつ。しかも人間の出力の範囲でな。

 マナで無効化してるってことは素手と素手の組手になってるわけだな。

 単純な肉体技能で言えば夕美斗は間違いなく天賦の才があると思うんだが……相手が悪いよなぁ~。

 なにせ何千年と生きてる幾千錬磨の超人だもの。

「筋はええんやけどねぇ……。動き固いよ? 魔法? 使って強うなるんわええけど。カチコチしとったら動き読みやすくなってまうよ? そんなんならいっそ使わん方がええよ」

「……っ。ま、まだ慣れてないだけだから! も、もう一度!」

「はいはい。何度でもおいでぇ~」

 突っ込む夕美斗を綺麗にさばく。またループが始まったな。

 にしても本当に綺麗だな。陳腐な言い方をすれば無駄がない。

 突きが来れば側面から叩いて軌道を変えるし、蹴りが来そうと思えば踏み込んで先に潰してる。

 うん。実に参考になるな。

「えんちゃんもすごいけどさ。あっちはあっちですげくね?」

 あっちと言うのはこっちだな? たしかにすごいことになってるよ。

 ん? どうなってるかって?

 真剣を白刃取りしてるよ。俺が。

 せめて峰を向けろ峰を。このままだと俺斬れちゃうだろ。斬るつもりなんだろうけど。

「余所見とは余裕だな害虫。そのまま気を逸らしていろ。そして大人しく斬られると良い」

「お断りだわ」

 誰が好き好んで斬られると思うんだがこのお侍様は。

 つーかなんでそんなに目の敵にされなくちゃいけないんだカナラに好かれてるからだな知ってる。

 自分よりも俺を気に入ってるからって妬むなっての。

「言っておくが煙魔様は少々感性が壊れておいでだ。自分を醜女と思い続け言われ続けた為に容姿で判断する……のを飛び越えて最早区別しかできないでいる」

「……は?」

 急になに? 何が言いたいの。

「つまりは顔の良し悪しがわからなくなってしまっている。だから貴様のようなパッとしない男でも奇跡的にお気に召すこともある」

 ほっとけ。俺だって別に自分がイケメンとか思ってないってーの。

「だから勘違いするなよ! たまたま貴様の行動が珍妙でたまたま煙魔様が気に入ってしまっただけで決して惚れてなどいない!」

「……」

 そう思い込みたいのはわかったから面の奥の鋭い眼光を鎮めてもらえないものかね。怖いから。

 つーかなんで俺が相手しなくちゃいけないんだ? 俺学園長との賭けで演習は自分で戦えないから訓練しても意味ないんだけど。

 ってことでバトンタッチしようか。

「おい。コロナ。いい加減俺の背中にへばりついてないで働け」

「……ん」

 だっこじゃなくおんぶなのが不服ということもあり返事が不機嫌そう。これでも妥協した結果だぞ甘えん坊。

「貴様! そんな子供身代わりにするというのか!? この外道! やはり斬り伏せなくては気が治まらんぞぉ!」

 あーもう本当あんためんどくせぇなぁ!?

 仕方ないだろ! そういう仕組みなんだから!

 あとコロナは精神年齢はともかく肉体年齢は俺より上だっつのっ!

「死ぃぃぃぃいねぇぇぇぇぇえい! ――ん?」

「おっと」

 いやはやさすがだな。コロナの不可視の籠手をかわしやがった。

 まぁ俺としては距離を取ってくれただけで上々。あー怖かったー。

「……なるほど。ただの子供ではない、と」

 構え直すと同時に雰囲気が変わる。

 さっきは力任せに殺しにかかってきたけど、今は力が抜けて落ち着いた雰囲気。

 うぇ。なに本気になってんの。やめろよおっかない。

 相手は子供だぞー大人げないぞー。

「……ふん!」

「あ、おいなにして……コロナ? おーい」

 シャツの中にぬいぐるみを突っ込み、背中から下りてコロナも臨戦態勢。雪日に当てられたのかな。

 ……やる気になったのは良いことだ! そのまま注意を引き付けてくれ。俺に殺意が向かないようにな!

「では、参ります」

 うっわ。速いな。

 いや単純な速度ならたぶん今の俺のが速いとは思う。

 ただあいつ独特の体の動かし方をしてて相手の視覚を誤魔化してより速く見せてるな。

 さぁコロナはどう対処を――。

「あう!」

 鎧を展開。

 ですよねー。お前には選択肢なんてなかったよ。

 明らかなに鈍足パワー型のコロナと俊足テクニック型の雪日。いやー面白い対戦カードですね。どちらが勝つでしょうか。

「おか~。ってあっちいなくて良いのかよ」

 アホなことを考えつつ。伊鶴たちと合流。

 さらにアホな伊鶴が質問してきやがっているが、気まぐれな俺は答えてやろう。

「契約者同士の交流に水を差すつもりはないってことで。マナさえ送ってればあいつも戦えるし」

「……その通りなんですけど才くんが言うとものすごい違和感がありますね」

「散々自分の肉体で戦ってきてるからね!」

「まさにどの口だわ」

 酷い言われようだ。否定できないけども。

「良いから見とけよ。真逆のタイプだから面白くなるかもだぞ」

「……たしかに真逆だ」

 今胸を見たな伊鶴お前? たしかに背もスタイルも真逆だけども。

「お?」

 目を戻すと可視化できるまで具現化させた鎧に四方八方から斬撃を浴びせてる雪日。

 傷一つつかないのはさすがだけど刃こぼれしないあの刀もイカれてんな。さすがカナラの私物だわ。

「……っ。堅い。……なら」

 斬撃が通じないと見るや刀を納める雪日。かといって諦める様子もない。ついでに言えば俺への嫌悪よりコロナへの興味が上回った様子。良し。

「もっと堅くしとく事を勧める。でなければ――」

「っ!?」

 刀に集めていたマナを右手に集中させてる。

 この流れは……アレですね?

「――思わず肝を潰しかねない」

 真っ直ぐ踏み込む雪日。コロナは危機を感じたのか胴体部分をほぼ完全に可視化。めちゃくちゃマナを食いにかかってやがるな。それくらい怖いってことか。

 でも納得。アレクサンドラほどでないにしろあの打撃は重たいぞ絶対。

「歯を食い縛りなさい!」

「むぐ!」

 コロナ違う。頬を膨らませろじゃない。歯を食い縛るの。

 俺以外の言うこと聞きたくないからって違うことしなくて良いの無視したら良かったの。

「はぁぁぁぁぁあん……がわいい~……」

 伊鶴お前は黙っとけ。リアクションだけでもうざいから。

 っと、今はそれよりもコロナたちだな。さてさて。どうなったか。


 ――ゴォォォォォォオン!!!


 腹の奥まで響く轟音。あそこまで具現化させたから音がかなり現実的リアルだな。

 で、リアルだから音だけでもわかる。鎧は砕けてない。

「……」

「むぐぅ~……ぶひゅっ……」

 無言の雪日にまだ頬を膨らませてるコロナ。

 膨らませ過ぎてちょっと唾が漏れてる。汚ぇな。

「セツぅ~。あんま苛めたらあかんよ~」

 一段落ついたのかカナラが呼びに来たな。

 うんちっちゃい子いじめに見えるよな。実際は引き分けだけど。

 たしかに鎧は砕けなかった。ただコロナの立ち位置が少しズレてる。だから膨らませるのにも力が入ったんだろう。

「ぷひゅひゅっ」

 唾が漏れるほどな。汚ぇ。

「……」

 それと、お前がいじめうんたらって言う? 夕美斗ぶっ倒れながらピクピクしてるんだけど。

 あれでも手加減してるんだろうけどよ。

「はっ。申し訳ございません。しかしこの娘。私達ともまともに張り合える強さです」

「それはわかってるよ。でもまだ童やよ? お姉さんなんやから花持たせな」

 だからそこに夕美斗が転がって……。いや、良いや。下手に突っ込んで標的にされたくない。

「さて、他の子らはどないする? 相手ならするけど?」

「「「……」」」

 カナラのこの発言で苦笑いを浮かべたのはきっと俺だけじゃなかっただろう。

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