第213話

「「ノーブラでした」」

 聞いてもないのに伊鶴と八千葉が鼻血を垂らしながら堂々とカミングアウト。俺はそれを聞いてどうしたら良いのだろうか。

「とりあえず。あれだ。女子としてその発言はどうかと思うぞお前ら」

「いや私らじゃねぇから」

「桃之生さんのことですよ」

 じゃあ人としてどうかと思うわ。他人の下着事情をバラすんじゃない。

「服の上からでも素晴らしいモノを持ってることはわかっていた」

「ですがあそこまでとは……!」

 なにを染々言ってんだ鼻血まで垂らしやがって。

 にしてもそうか。ノーブラか。

「なぁミケ。桃之生ってノーブラなんだってよ」

「わざわざ僕に振らなくて良いよっ!? 聞こえてるし!」

「おうそうか。すまんすまん」

 カナラのことずいぶん気に入ってたみたいだからついな。

「お待たせぇ~。先生はまだ来とらん?」

 と、話してたら本人が来たな。運動着になると今度は見事に美脚が晒されてるな。

「あれの下つけてないんだってよ」

「だから言わなくて良いよ!!!」

 黒い肌でもわかるくらい顔真っ赤にしちゃってまぁ。初心うぶなことで。

 お前って本当色々見た目に反するよ。

「……? 何楽しそうにしてるん?」

「い、いや! なんでも! ないですから! お気になさらず!」

 近づいてくるカナラからあからさまに視線を逸らすミケ。超意識してんな。

 良いもの見れたし、お前への報復はこれで許してやろう。

「……???」

 こっちもこっちであざといハテナ顔してんなぁ~……。

 かといってお前には特に言うつもりないけど。内容が内容なもんで。



「にしても、午後もお勉強? するんやね」

 午後の授業が始まる直前。暇なのでストレッチを始めていると、カナラが疑問を口にする。

「ん~? そりゃそうっしょ……ってそっか。転入してきたから知らないか」

「それもあるんやけど、ほらさっき午後は授業ない~って言ってる子もおったし。あとなんや少ないし」

「あ~……それは……」

「あはは~……言いにくいですよね~……」

 伊鶴から始まり夕美斗と八千葉が答えようとするが、伊鶴は目を細めて唇を尖らせつまらなそうな顔になり他二人は困り顔。

 気持ちはわかる。忘れがちだけどこのクラスは問題点しかねぇからな。

「簡単に言うと。私ら以外はサボり。先生公認だけどね」

「はぁ……おサボり……」

「やる気のない人間に無理強いしても効果ないからってことらしいよ。同感だけど。心配になるよね」

 ほぼ仕事放棄してるもんなこれ。でも俺たちがメキメキ成績伸ばしてるから……どっこいなのか? な?

「じゃああの子らが嘘ついてた事になるんやね……。ふぅん」

 疑問が解決して満足したのか最後のほうは興味なさげだな。

 ま、お前は俺だけ見てれば良いのさ。フッ。

 ……おえ。口にしなくても気持ち悪。柄じゃねぇわ。

「準備運動は終わってるようだな。じゃあ始めるか」

 と、先生のご到着か。

 そんじゃ久々の午後の授業。行きますか。



「まずは新しく桃之生が参加するわけだが……。学園長からは即戦闘訓練に参加させて良いと言われてる。戦力は折り紙つきだそうだ」

「「「お~……」」」

 でしょうね! って言葉が出そうだったよ。ええ。

 カナラとか絶対俺より強いもん。だってこいつ影とか斬るんだぜ? そんな化物に勝てるわけねぇじゃん。なんもできずに殺されるわ。

 で? そんなカナラが戦闘訓練に参加? え? 大丈夫? 俺たち死なない?

 まぁ、実際は手加減してくれると思うからそこまで心配はしてないけどな。カナラはそのあたり弁えてるだろうしな。年齢的にも性格的にも、な。

「だが、正確な実力を知らないのも事実。なので先に誰かと手合わせしてもらおうか。桃之生。選べ」

 え、デモンストレーションは良いけどカナラに相手選ばせるの?

 お、おいおい。それだと俺を選ぶ可能性がかなり高いんじゃないか?

 無理。嫌だ。

 遊びならともかく訓練とはいえ戦うのは嫌!

 俺が今戦いたくない人一位が学園長。二位がカナラだからな! 三位はもちろんリリン!

「それなら……。えっと~……」

 めっっっっっっちゃ俺のほう見てる! やめろ! やめて! 俺まだお前とやりあいたくない! せめてもう少し成長してからお相手願うわ!

「じゃあ和宮内さん。よろしい?」

 よし! 良い子だカナラ! 俺の意識した苦い顔をよく読み取った! あとで尻でも撫でてやろう! ……普通セクハラだけどお前なら喜びそうだな。

「私……? 良いのか? 才君の方が良いんじゃ……」

 おい。余計な気を回すんじゃない。たしかにカナラの好意はわかりやすいけども。

「え、ええのええの! よ、よう考えたらあんま長い事直視でけへんし……。相手勤まらんわ……」

 あ、別に俺の表情読み取ったわけじゃないんだ。尻の件はなしだ。残念だったな。

「んじゃ他は見学で。えんちゃんのパワー見てから組み合わせ決めよっか」

「そうだね」

 ってことで俺たちはちょっと離れたところに――。

「待て」

 移動しようとしたところでガシッと肩を捕まれる。いつの間にか現れた物騒な仮面の女にな。

「……なに?」

「あの小娘は煙魔様御一人で相手なさるつもりだ。が、この学舎では御供の実力が重要なはず。そうだな?」

「そうッスね」

「では私の相手も必要ということになるな?」

「あいつ自身が夕美斗の相手するんならそういうことになりますね」

「じゃあ私の相手はお前だ。来い」

「……」

「来、い」

「………………はい」

 嫌そうな顔も通じず。結局俺もやるんすかそうですか。

 カナラよかマシかもだけど。殺気ビンビンの雪日こいつと戦うのも嫌だなぁ~……。

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