第212話
「それじゃあ改めてえんちゃんとの出会いを祝し乾ぱ――べぼ!?」
「うるさい。学食で騒がない」
「……い、いやいや。ここは盛大に歓迎の意を示さなくては」
「場所を弁えろつってんの♪」
「アイアイサ! 理解したので笑顔で拳を固めるのはやめていただきたいであります!」
いつもの面子と合流すると、やっぱり伊鶴が音頭を取る。そしてシバかれるまでが1セット。懲りねぇヤツ。
「うふふ。お気持ちは嬉しいよ。おおきにね」
「おうふ。雅やか」
カナラにお礼を言われて頬を染める伊鶴。
いくら伊鶴でも上品な雰囲気を含むこの美貌にはたじろぐんだな。教室では早々に乳について尋ねてたけど。
「伊鶴のバカデカい声での歓迎はともかく。せっかくクラスメイトになったんだし私らも自己紹介くらいしよっか。私は
突如始まった自己紹介だが、多美は無難なあいさつだな。いつもながら見た目に反して硬派で交換が持てるッス。
「
さらりと寂しいことを言うな。俺は身内にすら毛嫌いされてるけども。
「えっとえっと。
自分の見た目に気を遣わない点では似た者同士だぞお前ら。何気に一番気が合うんじゃなかろうか。カナラもインドアな遊び嗜んでるし。……囲碁とかだけど。
「ぼ、僕はマイク・パンサーと言います。皆からはミケと呼ばれています。……レディ。貴女は僕が今まで出会った女性の中で一際美しい……」
ひざまずいて愛の告白じみたことを抜かすミケ。
うん。目を潤ませて赤くなった面を見れば真剣なのはわかるんだけどな。残念ながらカナラはきょとーんっとした顔してるわ。これは間違いなく伝わってない。
「ミケ……さん? 三毛猫みたいで愛らしいあだ名やねぇ~。それと、おおきにね。お世辞でも嬉しいわぁ~」
あ~言葉からも本気にしてませんよってのがビンビン感じるわ。絶対社交辞令って思ってるやつー。
「Beautiful.か、可憐だ……っ」
でもま、ミケは気にしてないようだし。いっか。
「ではでは復活を果たした私の番。小柄ながらにそこそこのバスト。ファンキーなド
「わぁ~」
決めポーズをする伊鶴を冷ややかに見つめる俺たちとは違い温かく拍手を送るカナラ。
無理に付き合わなくても……。いや、この目ははしゃぐ子供を見るおばあちゃんの目だ。
さすが年の功。伊鶴のバカに付き合うことができる数少ない生き物だなお前ってヤツは。
「ありがとうありがとうそしてありがとう! で、だ! 真打ちたる私が
「いや俺さっきしたからパスで」
「ぶち壊しかお
この辺りはカナラと打ち合わせ済み。俺たちはここでは初対面であとは流れで話を合わせる。
カナラの表情って読みやすいからアドリブは不安だけど。まぁ大丈夫だろ。
「せやねぇ。さっき坊とは挨拶し――あ」
速攻やらかしましたこの女ァ!
俺を! 坊って! 呼ぶんじゃ! ないよ! 公の! 場で! さ!
「ほうほう。坊とな?」
ほーら伊鶴が食いついた。いや伊鶴だけじゃない。他の連中もなんか興味津々に見てるし。これはピンチというやつでは?
「あ、えっと……その……。つい口についてもうて……ごめんね?」
「別に。次から気を付けてくれれば気にしねぇよ」
「ほんま? おおきに。……でも。もし良ければなんやけどな? このまま坊って呼んでもええ? なんや呼びやすくて」
な、る、ほ、ど~。そう来ますか己は。
正直人前で呼ばれたくないが、先々を考えると了承した方が……良いよなぁ~。カナラおっちょこちょいだし。予防としてここは受ける……かぁ~。
「好きに呼べよ」
「え? ええの? 嬉しい。おおきに。坊♪」
「……どういたしまして」
心底嬉しそうな顔ですね。こっちは不承不承だっつの。ビンタして良いですか?
そんなことしたら俺がヘイト集めるだけだからやんねぇけどな。クソ。
「じゃあ私も。ぼ、n――」
「黙れ。袋に詰めて捨てるぞ」
調子ぶっこいた伊鶴までもからかい混じりに呼ぼうとするもんで半ギレ。その減らず口二度と開かないようにしてやろうか?
「なんでだよおい差別か?」
「分別だ」
「私はゴミか!?」
「
「うぐ……っ」
やや本気めに威圧すると危険を察知したのかそれ以上は呼ぼうとしなくなった。いつもそうしてろバカタレ。
「は、話を戻して。自己紹介はしたとしても。だよ。私は気になることがあるのさ」
「気になること? またおかしなこと聞いたら……わかってるね? ん?」
またカナラの乳について聞こうとしたらへし折るぞと言わんばかりにゴキゴキいわせていらっしゃる。おーこわいこわい。
だけど伊鶴は余裕の笑みを浮かべてるな。なにか策でもあんのかね? それか別のこととか。どちらにせよろくなことじゃない。
「焦るなよタミー。私が気になることってのは……さっちゃんのことなのさ!」
「あ? 俺?」
「いえあ! 自己紹介を終えたそれはわかった。しかしきっとさっちゃんのことだ。名前しか教えていないんだろうそうなんだろう?」
「うん。まぁ。そんな感じ」
「それじゃあつまらんだろうがバカチンがぁ!」
いや別に俺は面白さ求めてねぇし。自分の価値観押し付けないでください珍獣。
「えっと~。それで……結局なにが言いたいんですかね?」
「さっきミケちゃんは熱烈に褒め称えていたっしょ? 私もえんちゃんはすげぇ美人さんって思うわけよ。皆もでしょ?」
「まぁそれは……そうね」
「同意はする」
「でしょでしょ? そんでここで本題よ。さっちゃんはえんちゃんをどう思ったか気にならない?」
八千葉に促されて本題切り出したのは良いけどやっぱりろくでもねぇな。
しかも別に興味ねぇだろ。俺の好みなんて――。
「あ~それは私も気になる。なんかいつも無気力で女に興味ないって顔してるし」
「才くんにそういう気持ちがあるのかっていうのは興味ありますね」
「私もそういうのは疎いが……桃之生さんはとても女性として魅力的だと思う。才君の目からどう映ってるかは聞いてみたいな」
「才。紳士ならここは答えるべきだよ?」
おいお前らなんで乗ってんだよ。いつものごとく無視か止めるかしろよ。
「……」
カナラ。お前まで期待と不安をはらんだ目で見てくるんじゃない。逃げ場がなくなったろうがっ。
「「「……」」」
……あ~もう。クソ。わかったよ。言えば良いんだろ言えば。無言で圧力かけて来やがって。いつか仕返ししてやるからな覚えてろよ。
「はぁ~……。まぁ俺が会ってきた中じゃ一番好みの女だよ。今のところは」
「……………………はうっ!」
正直な感想を口にしたらカナラが顔を真っ赤にして胸を押さえる。今にも鼻血噴き出しそうだな。
ふっ。そうなることはわかっていたぞ。ざまぁみろ。
「はぁ~。意外や意外。さっちゃんにも性欲というものがあったのか。しかもミケちんのはあっさり流したのに満更でもないえんちゃん……。これはもうフラグおったった?」
「ですね。ビンビンですよこれは」
伊鶴と八千葉が顎をさすりながら目を光らせてる。
伊鶴はともかく八千葉までゲスな勘繰りやめろ。すでに攻略済みだから。
「くっ! 親友のために身を引くとはこんなにも辛い気持ちなのか……! だけどミス艶眞のあの顔を見たら諦めざるを得ないっ!」
いや別に諦めなくても良いよ。カナラ意外とチョロいから落とせるんじゃねぇのって思うし。
「大丈夫だマイク君。まだまだこの先出会いはいくらでもある」
夕美斗お前も真面目な顔で慰めるな。なんかやっちゃった気持ちになるだろ。
「も、もう……。坊ったらほんまに……かなんわぁ~……」
眉を寄せて両手で両頬押さえながら顔を赤らめるな。何事かとチラ見したヤツら男女問わず釣られて顔赤くなってるぞ。
さすがの破壊力だがこの先俺への周りの視線が痛くなりそうな雰囲気しかねぇよ。
というかすでに……。
「フンス! フンス!」
コロナが鼻を鳴らしながら不機嫌になってる。
「……っ」
ん? 急にどこへ……って。
「ふがぁ!」
「あいたっ!? え? なに!?」
カナラを蹴りに行きおった。
これまた何事かと周りの視線を集めるが、美幼女が美少女と戯れてるようにしか見えないらしくほっこりさせてる。
あ~。うん。顔赤らめたカナラが周りを魅了するよかマシだな。
コロナがカナラをシバいてる間に俺は食事を終わらせよう。
「の、暢気におまんま食べとらんで助けてぇ~」
ハッ。丁重に断るわ。しばらくコロナの猛攻(?)に悩まされてろ。
「ふがぁ!」
「な、なんでそない私の事嫌ってるんこの子ぉ!」
ふむ。まぁそのくらいは答えてやるか。
「女の嫉妬だろ? たぶん」
「え、えぇ~……」
訳がわからないって顔だな。気持ちはわかるぞ。コロナはパッと見子供だからな。行動含め。
しかし実はこいつこっちの基準では……
と、さらりと衝撃の事実をぶちこんでおく。
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