第211話

 午後の授業のこともあるし昼飯の前にコロナを迎えに行く……ところなんだが。

「で、なんでついてきてんの? お前は」

 なぜかカナラがついてきてる。

 一応他の施設も見たいというていだけど。二人になるのはちょっと早くないか? と、思う。

「え? 坊がお昼一緒にって誘ってくれはったんやないの。せやのにその言い方は……傷つくよ?」

「いや、先行ってろつったじゃん……」

 だから涙目を浮かべるな。誰かに見られたら誤解されるだろ。

 あとでたっぷり泣かしてやるから今は我慢しなさい。

「まぁでも。ええやな……良いでしょう? ここら人あんまいいひんし。あ、いないし。久し振りに二人でお喋りしたかったんよ」

「たしかに俺も聞きたいことはあるんだが……。まずそのいちいち言い直すのやめろよ。手間だろ」

 時々直すのも忘れてるけど。思い出したようにまたやられると気になるわ。なんでこんな面倒なことしてるんだよこいつは。

「だ、だって……おのぼりさんに見られるやろ? このしゃべり方……。ぼ、坊と一緒にいるなら同じ口調が良い……し……」

 照れ顔可愛いな。そのナチュラルメイクがなければ完璧だぞ。

 どんなに薄化粧でも化粧は化粧。改めて見てもやっぱすっぴんが一番綺麗だよお前は。

 と、そんなことは置いといて。今はしゃべり方だったな。

 いちいち言い直されるのも耳障りだし。普通に言っても聞きそうにないし。手っ取り早く行くか。

「とにかく。その言い直しやめろ。俺、普段のお前のしゃべり方のが好きだし」

「うん。わかった。もう無理に直すのやめるわ」

 チョロい。そしてチョロい。

 信念なんて欠片もねぇなお前。



「コロナちゃ――」

「にゃーにゃー! あぶっ」

「早速飛びついてくるんじゃない。外でのだっこは控えていくって話をしたろうが」

「今日も呼ぶまでもなかったねー」

「ぁぅ~……」

 瓶津知みかつち先生が呼ぶ前にすでにスタートダッシュを決めていたコロナ。ここまではいつも通りだが、今回は片手で頭をキャッチする。

 そう毎回飛びつきゃ抱き止めてもらえると思ったら大間違いだぞ甘えん坊。

「ほう。その子が坊の契約者?」

「う?」

 とりあえず下ろすと、カナラとコロナの目が合う。

可愛かいらしいねぇ~。うずうずさせて。坊にいっぱい甘えたいんがようわかるわぁ~。……私と同じやね♪」

「……っ!?」

 おい。ご明察だけど最後のはいらねぇだろ。

「天良寺くんやっるぅ~愛されてるぅ~モッテモテで羨ましい~」

 貴女も乗らないでくれ。うっとうしいから。

「……」

 あれ? なんかコロナがカナラの顔をジッと見てる。

 リリンやロッテで美人は見慣れてるはずだし。初対面に限らず俺以外には人見知り全開のコロナが他人に興味とは珍しい。

 これはもしや……良い傾向?

「ん? どうしたん? 私の顔に何かついて――」

「……っ! ふん!」

「あいた!?」

 和やかな雰囲気を出してるカナラのスネに蹴りを入れるコロナ。なんで?

「う~……っ!」

 敵対心剥き出し。ここまで感情を出すってことは俺に関わることなんだけど。なんで?

「え~……。なんでそない怒ってはるのこの子ぉ~……」

「いや、わかんね……」

 本当になんでそんなにカナラに対してわっかりやすく唸るほど敵意があるのか……。

「ん?」

「ふん! ふん!」

 コロナのヤツ。やたらとふんふん言ってる。鼻が気になるのか?

 あ、いや。匂いか。カナラは言い方悪いけど体臭キツいからな。あ、うん。良い匂いなんだけどさ。

 匂いが強いから気にな……。

「あ~そういう」

 コロナはカナラとは初対面だけど。知ってはいたんだな。

 そら風呂入ってたとはいえ二週間一緒にいて、最後らへんはずっと同じ布団で寝てたし。俺に匂いがついてたわけだもんな。

 そんで抱きついたときに匂いを嗅いで覚えてたわけだ。

 となると敵意剥き出しな理由はたぶん。

「がぅ~! うがぁ!」

「え、え~……ほんまになんなのぉ~……」

 俺に抱きついてカナラを威嚇するコロナ。

 うんこれは間違いなく。嫉妬だな。

 俺を取られまいとしての行動だわこれ。

 実は最近ちょこちょここの手の行動は取ってたんだよなぁ~。

 例えば――。



「おい。椅子」

「座椅子にはもう座ってんだろ」

たわけた事を抜かすな。お前が椅子になるんだよ」

 お前が母親になるんだよ的な言い方してんじゃねぇよ。

「まったく……」

 言いなりになるのは癪だけど。こいつとのスキンシップは求められたときくらいはできるだけ応えといた方が良い。じゃないといきなり襲われるからな。キス的な意味で。

「ほれ、来たぞ。どけ」

「はいはい。仕方のないヤツめ」

 お前か呼んだんだろ♪ 蹴飛ばしてやろうかこの野郎。

「ふがぁ!」

「なにをふるコロナ」

 と、思ったところで先にコロナが俺に座ったリリンの横っ面にドロップキックをかます。

「はぶっ」

 うん。受け身は失敗してるな。バカなのか? いやお前はバカだったな。すまん。

「……っ。ふんが――んぶっ!」

 再びリリンに攻撃を仕掛けようというところで今度はリリンが足を伸ばして先にコロナの顔面にめり込ませる。

「二度も食らってやる義理はないぞー」

 座ったままで片足だけすげぇ角度に伸ばしてるな。関節やらけぇ。

「お前その足どうなってんの?」

「ん? 気になるなら触ってみるか?」

「いや良い」

「即答か。色気のないヤツめ」

「だってお前喘ぐじゃん」

「決め付けるな。喘ぐけど」

 じゃあ触んねぇよ。そういうこと極力しねぇって言ってんだろが。覚えてねぇのかバカなのか?

 いやお前はバカだったなある意味。すまん。

「なんだその目は?」

「別にー」

 しつこいお前に呆れてるだけだよ。

「……ぅ。……ぁぅ」

 あとついでに、喧嘩売っといて一瞬で撃沈してるコロナにも呆れてる。

 本当になにがしたかったんだお前は……。



 と、いうこともあれば、他に――。



「あ~……やっぱ良いわ~……最高だわ~……」

「誉められて悪い気はしないんだが……ちょ、ちょっと長くないか……?」

 ふとロッテをモフりたくなって犬モードになってもらいかれこれ一時間。ずっと俺はロッテにしがみついている。ついでにコロナもしがみついている。俺に。

「だって飽きないし。しばらくモフってなかったし。お前も嫌じゃないだろ」

「い、嫌ではないんだが……。儂の心臓にも限界が……」

 たしかにさっきから心臓がバクンバクンうるさい。いい加減慣れろよお前もよ。

「はぁ……。よーしよしロッテぇ~。怖くないですよ~。痛いことなんてなんにもないからね~」

「……駐車を怖がる飼い犬みたいな扱いはやめろ?」

 だってガッチガチなんだもんお前。それにツッコミのお陰かちょっと脈落ち着いたぞ。ふっ。計画通り。

「んぅ~……」

 ロッテをからかい混じりに撫でてたら背中にしがみついてるコロナが撫でろと言わんばかりに頭をグリグリしてくる。

「いやお前。そこにくっついてたら撫でれねぇだろ」

 俺の関節は……まぁ柔らかいけど。それでも届かないところはあるんだぞ。

「んぅ~! うぅー!」

「いででで。やめろバカ」

 マナを込めて頭を押しつけるんじゃない。クソ。余計なテクばかり覚えおってからに。



 などということもあり。

 この二つも明らかに嫉妬。

 前々からそういう節はあったけど、最近はなんていうか如実。

 嫉妬からくる行動に激しさが加わってんだよね。迷惑なことに。

 ある意味これも成長っちゃ成長なんだろうけど。俺からしたらめんどくさいだけなんだよなぁ~……。

 初対面のカナラにすらここまでしてるわけだし。そのうちちょっと会話するだけでも威嚇するんじゃなかろうかこやつ。

「うがぁ! がぅあ!」

「……」

 育て方……間違えたかなぁ~?

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