第210話

「この時期にこの学校へ転入?」

「百パーわけありじゃん。大丈夫かな……?」

「いや。っていうかそんなことよりもあの子」

「も、ものすごく……」

「か、可憐だ……っ」

「……」

 新学期が始まり、午前の授業が始まる前に突然のお知らせ。

 なんとこの落ちこぼれ学校のさらに落ちこぼれのクラスに転入生が来た。

 いや、うん。まぁそういうこともあるだろうよ。別に良いんだよそれだけなら。

 それだけならな……。

桃之生もものき艶眞えんま言いますぅ……あ、って、言います。どうぞよろしゅ……く、頼みます」

 俺、転入生あいつ知ってるぅ~……。すげぇ見たことあるぅ~……。

 なんでいちいち言い直してるんだろうか。訛り気にしてんのかな? 今のご時世訛ってるヤツのが少ないしな。ごくごく希にいるけど。

 ……って、んなこたぁどうでも良いな。

 それよりも、なんでがここにいるのかが気になりすぎるわ。なにやってんのあいつ……。

「桃之生は家庭の事情だかで急遽二学期から学園に入ることになった。なので週末の演習にも基本的には参加しないので。そのつもりで」

 若干投げやりな説明だけど。家庭の事情……ねぇ~?

 いったいどんな事情わけがあって生徒として来たのかわからないしあとで聞けば良いけど。

 問題はあいつの俺に対しての言動だ。こういうの場でのな。

 既知の仲と知られたら絶対面倒だぞ~。今のこの空気的に。

(あ! ぼん~♪)

 おいやめろバカ。早速こっち見てあからさまにご機嫌な面になるんじゃない。やめろ。手を振るな。

 すでにクラスの連中は美人転入生お前と仲良くなろうと画策を始めてるんだぞ。

 なのに入試成績最悪で、にも関わらず演習での勝率は高く、変に目立つ契約者ばかり連れてる俺と面識があると知られてみろ。いじめられちゃうかもだろ!

 仮にいじめられても別に深刻な問題じゃないけど、面倒ごとは避けたいんだよバカ。察せよ。

「……」

「……っ」

 おいボケ。知らないフリしようと目を逸らしただけで悲しそうな面をするな。お前が美人過ぎるお陰で表情にまでは気が回ってないから助かったが。今のはあからさまだぞわかってんのかコラ。察せよ。

「紹介はもう良いだろう。一つの机につき三人まで座れる。どこか空いてるところに適当に座れ」

「はぁ~い。先生。え~っと。それじゃあ……」

 カナラは迷ったフリをしながらも真っ直ぐ俺のところへ向かってくる。

 う~ん……。わっかりやすい。でも今の空気感なら……バレない……かな? たぶん?

「ここの真ん中。空いてるよねぇ? そこ、え……良~い?」

 俺の座ってるところは一番前のど真ん中。で、さらに真ん中を空けて俺とミケが端っこに座ってる。

 最初の頃はリリンが座ってたんだがめっきり来なくなり、でもなんとなーくずっと空いてるんだよなここ。

 そして、その空いた席に目をつけた女が一人。かぁ~。なんたる運命。ちょうど良いにもほどだクソ。

「どうぞ。お好きに」

 この場合、断るほうが不自然だし。ここは受け入れよう。

 にしても相変わらず甘ったるい香り撒き散らしやがって。エロいな(?)。

「じゃ――」

「ほんなら失礼して……よいしょっと」

「「「!!?」」」

 こ、こいつ……! な、なんてことをしやがる……!

 事もあろうに俺が一度立ってカナラを真ん中へ座らせようとする前に――俺の膝の上に座りやがった。

 すぐに体を反転させて下りはした。したけども……。

 一度乗ってる時点でアウトだよバカっ!

「ごめんな? 重かった?」

「……別に」

「なら良かった♪」

 謝るくらいなら最初からやってんじゃねぇぞ♪

 その笑みを歪めてやろうかこの野郎。

 まぁ、その前に……。

「なんて大胆な……!」

「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい!」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 俺がいじめられそうですね。

 二学期も素晴らしく愉快に過ごせそうだよお前のお陰で。

 ちなみに。二週間ぶりのカナラの体は相変わらず柔らかかった。やはり良い尻。その尻に免じて今だけは大人しくしといてやろう。

 今だけはな!



 一波乱(?)あったものの。午前の授業は滞りなく終わった。

 そう。滞りなく、だ。

 カナラのヤツ。一切うろたえることなく授業を受けてたんだよ。

 おっかしいなぁ~。数百年は軽く文明は進歩してるんだけどなぁ~。

 なんで躊躇なく端末いじれたりするんだろうこのお婆ちゃん。

 ……………………………………。

 今深く考えるのは良そう。あとで聞けば良いことだしな。うん。

 でも、それも……。

「桃之生さん! このあとお昼なんだけど一緒にどうかな!?」

「午後の授業はないし色々案内も!」

「失せろスケベ男子共! 桃之生さんが困ってるでしょ! 桃之生さん私たちとお昼に行きましょ」

「いや! ここは間を取って私たちとだろん!? その服の上からでもわかる美乳っぱいの秘密を是――がふっ!?」

「やめんかバカタレ」

「あはは……。どないしよこれ……。あ、どうしよ」

 こいつらが俺とカナラを二人きりにしてくれたらだけどな!

 クソ! テンプレ行動取ってんじゃねぇ! 落ち着けバカ共!

 人がいないかのごとく易々と上に乗っかりやがって……って伊鶴テメェか! どけこのバカ!

 ……つかカナラすげぇな。女子までっていうかクラスのほとんどのヤツに誘われてるぞ。

 見た目、匂い、雰囲気とか一目で魅力的な部分はあるから仕方ないけども。

 にしたって異常過ぎる。神様のご意志? それとも今までドブス扱いだったから今ここでそのぶんを取り返してる的なアレ? うわ。超迷惑。

 俺のいないところでモテてどうぞ。

 と、俺が思ったところで自体は収拾するわけもなく。全員どんどんヒートアップしていく。

「こ、困ったなぁ~これ……」

「ん?」

 そうカナラが呟くとゲートが開く。

 その先から感じるこの気配は……おうふ。これも俺知ってる。

「喧しいガキ共め。煙魔様を困らせるとは万死に値する。二度とその煩い口が開かないように首を落としてやろうか?」

「「「ひっ!?」」」

 親指で刀をチャキッと少しだけ出しながら物騒なことを言うこの女は間違いなく雪日せつか。なんか変な仮面つけてるけど間違いなくヤツだ。

 こいつのお陰でクラスメイトは散っていったけど、空気的には最悪だな。めっちゃ殺伐としてる。

「もうセツぅ~。そないにさっき立たんでもええのに……。怖がらせたらあかんよ? 助かったけど」

「煙魔様……また……」

「あ、また私はもう~! どうしてもこれが舌に馴染んであかんわぁ~……」

「やはり無理に直そうとしなくとも……。会話は成立しますし……」

「でも……うぅ~……」

 カナラが雪日をたしなめて、それになんか訛りの矯正か? について雪日に指摘されてヤキモキするカナラを見て殺伐とした空気は緩んだ。

 でも雪日がいるこの状況でまた話しかける勇者はいない。

「こ、こえぇ~……」

 あの伊鶴でさえもビビってるわ。壁際まで逃げてやがる。俺からどけてくれてありがとうございます。物騒女侍。

 さて、と。このままだとただ時間が過ぎ去るだけ。あんまり目立ちたくないけど。仕方ないから俺が誘おう。

 ここで一回昼飯一緒にとればこのあと話しかけやすくなるしな。二人で話せる機会も作りやすくなるだろ。

 先を考えるなら。ここでリスクを負うのも必要。

「なぁ桃之生。もう面倒だから俺たちと飯行くか?」

「え♪」

「私の前で堂々と煙魔様を誘うとは良い度胸をしている。下心があるかもしれないので服を脱げ。貴様の汚ならしい一物をかっさばいてくれる」

 なんでだよ。知らねぇ仲じゃねぇだろふざけんな。

 これでも助け船出したつもりなんだぞ。その見返りが去勢とかデメリットしかねぇじゃん。やってらんねぇぞバカ野郎。

「あ、ちょ、セツ……! 何言うてはるのっ。もう。折角やし。お誘い、受けよかな? って思う。……から。えっと。せやからもうセツは戻って? ね?」

「……わかりました。貴様。煙魔様に余計なちょっかいかけるなよ。もしも手を出したら――」

「ええから戻ってよ! もう! ……べ、別に坊なら手を出されてもええんやし」

「……ではご用があればお呼びください」

 やっと物騒な女は自分家に帰っていった。

 教室の空気もやっと完全に緩んだな。

 た~だ。追い返したのは良いけど小声でとんでも発言混ぜてんじゃねぇ。はっ倒すぞ。

 なぜか周りは聞いてなかったから良いけども。聞いてたらどうしてくれるんだボケ。

「ほ、ほなよろしゅう頼んますね? えへへ」

 ……やっぱり可愛いな。お前。

 かといって許すつもりねぇけどな。絶対落とし前はつけさせてやる。

 さて、どうしてくれようか。グヘヘ。

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