第197話

「うむ……ちゅる……んはぁ……」

「……」

 意識が戻ると、よく知る味と匂いと感触が口の中を這いずり回っていた。

 目を開ければ白い肌と白金の髪が映る。やっぱりおリリンか。

 人が動けないことを良いことになにやってんだこいつは。

「ぷはっ。ウム。勝利の美酒と言ったところだな。甘露甘露」

「……なにが勝利の美酒だ。この痴女。最初から欠片も本気出してなかったくせに」

 最後のマナの放出も体を抜けるようにやってたからな。物理的な威力も加えてたら五体満足じゃいられなかったろうよ。器用な真似しやがって。

「クハッ。起きたか。だがまだ動けないようだなぁ~? 実に便利だなあれ」

 本当にな。たぶん選血者だからこその現象。マナを知覚できちまうから密度と量が一定を超えると神経が耐えきれなくなってショートするんだろう。

「フム。まだ時間がかかりそうだな。では」

「たしかに体はまだ鈍いけどなんで顔が近づいてるんだろうなぁおい」

「決まってるだろ? あむ」

 ……こんの野郎。人が動けないことを良いことにまたしても。

 別に嫌じゃない。むしろ気持ちいい。キスくらいじゃうろたえなくもなってる。

 ただ。単純に。腹立つんだよなぁ~……っ!

 好き勝手されるの腹立つんだよなぁ~!

「んむ……。ふぅ……れろ……ちゅぷっ」

 相変わらずねっとりしてやがるなぁ~もう……。コロナの教育に悪いだろが。

 ……そういや当のコロナはなにしてるんだ? いつもならすぐ突っ込んできてるはずだが。

「……ふん!」

「諦めたらどうだ? 水がないと無理だろ? 作れて山だぞ山」

「ふん!」

「無視か」

 ぷ、プリンリベンジしてる……。コロナは海で壊された砂プリンをまた作ろうとしてる……!

 ロッテも言ってるけど、ここの砂サラッサラで水気ないから無理だと思うぞ……?

 まぁ、注意逸れてるなら良いけどさ……。

 ……いや、良かないな。今は普通に邪魔しに来てほしかったかもしれない。教育には悪いし自分もしたがるからめんどくさいが。リリンに汚され続けるよりマシ。背に腹は代えられない。

 ヘルプ! コロナ! 今俺を助けられるのはお前だけ……って。お? 体が少し動かせるようになってきたな。

 よし。これならもうリリンもやめるだろう。動けないから襲ってきてたわけだし。

 まぁ、ただやめるだけじゃ許さねぇけどな。

「ん? もう動けるのか」

「……」

「んっ。あむ」

 無言で両手を頬にそえて、指を耳に這わせる。すると積極的になったと勘違いしたのかキスを続けてくる。

 バカが。そんなわけねぇだろ調子乗ってんじゃねぇ……!

「……ぶっ!?」

「ごほ!?」

 リリンにやられたようにマナを脳みそにぶちこんでやったらキスしたままだから口ん中で噴かれた。ビックリしたぁ!

 つ、次から気を付けよう。

「や……やって……く……れ……たな……」

 おおう! リリンがぐったりして動かなくなったぞ。すげぇなこれ。ハマりそう。

「油断したお前が悪いってことで。甘んじて受け入れろ痴女」

「嫌……じゃ……ない……くせに……」

「うるせぇ」

 それとこれとは別だっつの。襲うのは良いけど襲われるのはムカつくんですぅ~。黙ってくたばってろ。

「さて、と。帰るか」

「ぅぉ~……」

 グロッキーなリリンを脇に抱えてロッテたちのほうへ向かう。

「………………ふふん♪」

「不格好だが一番綺麗にできたな」

 ……あいつら。まだやってんのか。最後に満足のいく砂プリンが作れて良かったなコロナ。帰ったら本物食っとけ?

「おーい。帰るぞ~」

「っ! にゃーにゃー!」

 リリンが抱えられてるのを見て自分もってことだな。仕方ない。

「はいはい。ほれさっさと開け」

「ぅべぇ~……」

 飛びついてきたコロナも一緒に抱えてリリンにゲートを開かせる。情けねぇ声を出すな。

「おぼぇ……」

 お前もかロッテよ……。でも大分辛そうだな。帰ったらゆっくり休め。



 才がリリンとの軽い手合わせをしていた頃。

 魔法師達の端末に一つの連絡が入る。その内容は――。

『魔帝アレクサンドラ・ロキシーより。八月最終日BB島にてゲリライベントを開催。内容は指定された日時までに現地に着いた者にのみ明かされる。このメールは魔法師、または魔法師志望にしか送られていない。一般人は参加不可観覧不可閲覧不可となっていることをご理解願う』

 と、実に曖昧な内容だが、それでも名のある魔法師ならばあらゆる手段を駆使して島へ向かうだろう。

 何故ならば、魔帝であるアレクサンドラ主催のイベントなのだから。

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