第196話
バトルパート
天良寺才
VS
リリン
リリンの軽口に答えると同時に才はマナにより足の神経伝達を一時的に遮断。強制的に筋肉を脱力させる。
体を前傾にしながらマナを流し込み遮断を解除しつつ身体能力を上げて砂を巻き上げながら一気に駆け出し、数メートルを一瞬で詰める。
距離を詰めるだけならば今までのやり方でも変わらないと思うだろう。
だがこのやり方では肉体への負担が身体能力のみの時よりも低い。マナという燃料を用いてるからだ。
そして何よりも。従来より格段に速度が上がっている。
(神経伝達の遮断はできたが、電気による筋肉の反射的硬直を利用した振り幅はまだ出せないな。まず電気が出せねぇ。この体になって日が浅いし。そうポンポン上手くはいかないな)
「クハッ!」
才が接近するも、リリンは短く笑うだけでその場を動かない。待ちの姿勢だ。
(……なるほど。観察か目的だしな。だったら動く必要もないか。まぁ影があるし動く必要性がないわな。相手が俺だし、ロッテみたくマナで弾けないと思ってんのか? もしそうなら悪いな。そりゃ――)
「が!?」
(検討違いだ)
真正面から突っ込んできた才は拳をリリンに突き出した。
リリンは当然影を展開するもマナで弾き飛ばされもろに顔面へ拳が叩き込まれ、吹っ飛んだ。
が、影を展開し即座に立て直す。
「……ま、こんなのが通用するわけないわな」
「フム。そうだな。しかし……ククッ。クハハ! クハハハハハハハ!」
少し間を置いて堪えきれないと言わんばかりに笑い始める。理由は単純。嬉しくて堪らないから。
「良いなぁ。良いなぁ! 本当にお前は我を飽きさせない! 今のは普段の比ではない痛みだ! 人畜生として生まれてここまで至るか! あぁ、最初からわかっていたがここまで早いとは思わなんだ! この分ならばもう二年もあれば我と対等にもなろうよ!」
「ずいぶん饒舌だな」
(それに超高評価どうも)
「クハハ! 許せ! それ程までに我を火照らせたのはお前なのだ!」
「……」
わざわざ体をくねらせ、抱き締め、血流を操作して頬を赤らめるリリン。
本気半分悪ふざけ半分のその行為を才は無視。最近特に酷いリリンの悪癖に付き合う余裕は今はない。何故ならば。
(垂れ流すマナの量が膨れ上がりやがった……)
本気ではない。だが現在の才を遥かに凌駕する規模のマナ。
黒きモノで例えるならば、実に五体分に匹敵する。
(この体になったからこそわかる。リリンの底知れねぇ力。俺が勝ってるのは将来性と、あとは……)
「ふぅ……」
短く息を吐き、才は影を展開する。
「ん?」
(あれは……油断すれば足元を
何かを察したリリンは影を伸ばし、才を捕縛しようとする……が。
「……っ!」
「お……!?」
才の影がリリンの影波を阻み、リリンは再び驚かされる。まさか影が防がれるとは思わなかったのだろう。
(なるほど。マナの密度の差が出たか……!)
リリンのマナの量も密度も桁違い。全世界を見渡しても類を見ない程に良質。
しかしそれ以上の規格外が才である。今はまだリリンの規模には遠く及ばないが、密度だけならば出会った時から才のが上だ。
「クハハ! やるじゃないか! お前どこまで我を楽しませるつもりだ? ん? 腹が捻切れるまでか?」
「驚く余裕があって羨ましい……よ!」
「お? おお!」
才はリリンの影に自分の影を絡ませて道筋を作る。そこを足底の影で滑るようにリリンに再び接近を試みる。
「これはまた面白い事を! しかし、我に通用するかな?」
リリンの影は広範囲に広がり多方面から才に襲いかかる。
「こん……の!」
才はスケートボードやサーフィンの如く巧みに影で道筋を作ってかわしていく。
「ほう! ではこれならどうだ?」
今度は体を滑り込ませれる隙間を完全に無くし、包み込もうとしてくる。
「ふざけろ……っ」
才は全身を影でコーティング。影に圧し潰されるのを防ぐが、影に飲み込まれてしまう。
(捕まえたぞ。影の鎧で密着は免れたようだが。このまま閉じ込めておけば先に音をあげるのはそちらだぞ。さぁ、どう打開する?)
似たようなシチュエーションは経験している。だが前回は完全に打開したとは言い難い結果に終わっている。
(このまま闇雲に影を泳いでいっても待ち伏せされるか影ごと移動やら広がるかして現状を維持するだろうな。あいつ影で触れてるもんは認識できてるし。影に包まれてる以上、動けば絶対にこちらの意図は把握されるだろうよ。だから――)
才は両の手のひら部分だけ少しの空間を作る。
(一瞬で脱出する……!)
手のひら部分だけ影を解き、真下へ可能な限りのマナを放出。
リリンの影が手のひらに届く前に地面までの影を吹き飛ばす事に成功。そこへ影を伸ばして黒きモノがやったように影で穴を掘り、逃げ込む。
「クハ! やってくれる!」
身を影で包んだまま穴を掘り進めてリリンの方へ向かう。見えていなくてもリリンの位置は頭に入ってる。
理由は単純にリリンの性格上基本的に必要がない限りその場から動かずに戦うからであるが、自分が捕らえられた場所とリリンの位置を記憶し、その場まで正確に向かえるようになったのは大きな成長の証だろう。
(フム。動くか動かざるか。また待つか迎え撃つか。悩ましいな)
笑いを口にせず内心に留める辺りほんの少しだけ真剣になるリリン。
考えている内容はまだ
認めているからこそ。リリンは一つの結論に至る。
(よし。叩き潰そう。世の広さをその身で知ると良い)
リリンは影を解いて才が襲ってくるのを待つ。才の影の使い方は大雑把で拙い。故に接近戦しか選択肢がないと気づいている。待っていれば標的は現れるのだから動く必要はない。
才の予想は当たっているが、リリンが攻勢に出るとは思っていない。だからこそ特攻をかける事ができるのだが、この考えが裏目に出る。
「来たか」
「……っ!?」
背後から現れた才は目を見開いて驚く。
また影を使って捕らえに来ると思ってたのが影を出していないのだから一瞬混乱してしまう。
戦闘においてその一瞬の硬直は許されるものではない。
「こうか?」
「ぉ……ぁが……っ」
大量そして超密度のマナの奔流は才の影を容易く消し飛ばし、過多といえるマナに肉体が耐えきれなくなり機能不全を起こす。
外傷はない。しかし内部に多大なダメージを負った才はまるで死体のように血流も呼吸も止めて動かなくなってしまう。
「フム。便利だなこれ。それにお前がもう少し強ければ最初に使ったアレも試せていたな」
「……」
「クハッ。答えられんか」
突如として終わる才とリリンの手合わせ。未だ霞んで見えない遥か頂きの一端を肌で感じた才であった。
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