第191話
とりあえず。まずはコロナを下ろさないとな。コロナがいたまんまじゃ気が散るし。下手に暴れられても困るからな。
「コロナ。ちょっと待ってろ」
「や――むぐっ!?」
下ろそうとすると案の定強烈な拒絶が来そうだったので先んじて口を塞ぐ。
……ちょっとよだれがついた。
「良い子にしてろ。わかったな?」
「……」
声は落ち着いたまま目で本気度を訴えると渋々ながら頷いた。よし。いつもそのくらい素直だと俺は嬉しいぞぉ。
じゃあまず、騒いでる伊鶴を退場させないとな。
「テメェらみたいに親の金でイキってるくされチ○ポなんざ願い下げつってんだよ! そんなに盛ってんならお互いのしゃぶってろボケカス!」
「こんのチビ
「ぶっ殺すぞドブスが!」
「さっきまで可愛いだのスタイル良いだの絶世の美女だの言ってたろうが!? 自分の言葉に責任持てや図体ばかりデカくなったクソガキが!」
「絶世の美女とは言ってねぇ!」
「言えよ!!?」
……いつの間にかヒートアップしてるし。やめろよ。煽んなよ。余計めんどうになるんだから~……!
くそ! これ以上熱くなる前に横槍入れないと!
「はいはいそこまでにしてくださ~い」
「「「あぁん!?」」」
なんで
「夕美斗……伊鶴押さえるのは任せた」
「あ、あぁ……。わかった」
伊鶴たちの口喧嘩についてけなくて困ってた夕美斗にも指示を出したし。あとはこのナンパ男をどう退散させるかだな……。
とにかく伊鶴とナンパ男の間に入って遮っておく。
「は? なにそれ? もしかして守ってるつもり?」
「勇ましいね~。女の子ばっかだから見栄張りたいのはわかるけどさ~」
「そうだぞ邪魔だぞさっちゃ――」
「大人しくしてるんだ……!」
「むぐぐぐぅ!」
ナイス夕美斗。そのままその猛獣を隔離しといてくれ。
「とりあえず邪魔だからすっこんでろよ!」
「……っ」
ナンパ男の一人が俺の肩を押した瞬間ロッテとコロナが立ち上がろうとしたが影を見えないように細くしつつ伸ばして足を押さえる。
お前らが出たらまたややこしくなるんだからおとなしくしててくれ。
「……あんまり騒ぐとほら。周りの目もありますから」
「知るかよ。だったらその子らが俺たちについてくればよくね? 俺らの泊まってる部屋広いから全員来ても余裕あるしよ」
「未成年も混じってますから」
「へ~。若い子好きだし別に良いけど?」
「法律とか……」
「バレなきゃ問題ねぇだろ?」
ダメだ。そもそも討論する気がない。平和的な解決は望めなさそう。
え~どうしよう。暴力沙汰とか起こるとめんどくさいよな~……。アレクサンドラがもみ消してくれるなら全員まとめて動けないようにしてやるんだけど。
「あ~もううっざいわ。陰キャっぽいなよなよしたしゃべり方とかコミュ障丸出しの腰の引けたところとか。女の盾になるために出ても全然かっこついてねぇんだけど? 黙ってどっか失せろよ!」
男が一人殴りかかってきた。当たっても痛くないだろうけど……。うん。向こうから手を出してくれたならまだ都合が良い。このまま受けよう。
「うぐ!」
普通の人間のテレフォンパンチじゃ最早ハエが止まるのと変わらないレベルだな……。
ビクともしないのは可哀想だから声出して派手にバターンと倒れてやったわ。
「う、うぅ……」
殴られた痛みでうめく演技もサービスだ~。
「大根め」
小声でも聞こえてんぞリリン。お前みたく急に幼女になりきったりできねぇんだよ。凡才素人なもんでね!
まぁお前はどうでもいい。この三人さえ騙されたらな。
殴ったってことで、やっちまったって思って急に冷静に判断して焦って逃げてくれると良いんだが……。
「うわマジだっさ! あんなんも避けられないとかガチもやし?」
「最近じゃちょっとした荒事は当人たちの責任つってまともに取り合ってくれないこともあるんだぞ~」
「だからちったぁ~鍛えないと世の中生きてけねぇよ? ぼくぅ~?」
ダメでした。騙されてはくれたけどダメでした。
え~……。めんどくさ~……。いくら多少のゴタゴタは見逃してくれる時代になったっつっても一方的な暴行は捕まるんだぞぉ~。わかってんのか~?
「ふん!」
あ、やば! コロナのやつマナで影を吹っ飛ばしやがった……! こっちに駆け寄ってくる!
「うがぁ!」
「なに? お兄ちゃん殴られて怒ってんの? ウケる」
ニヤけながら近づいてくるコロナへ足を伸ばそうとする。
バカが。コロナと接触したらその足粉砕されるぞ。
……あ~もう! 本当にめんどくさい!
「……っ」
「うごぁ!?」
「はぶぅ!」
倒れたまま足を絡めて床へうつ伏せに倒し、上へ乗って拘束する。さらに近づいて来るコロナを抱き寄せて暴れないようにホールド。
とりあえずこれで大事は避けられた。
避けられたんだが……。
「テメッ! なめた真似しやがって!」
「んなことして覚悟できてんだろうなぁ!?」
仲間の一人がやれて逆上。
そうなるよねぇ~。なっちゃうよね~。
それだけならまだマシだよね~。正当防衛だから。
それよりも問題は……。
「ぷはぁ! よくやったさっちゃん! こっからは喧嘩だバカ野郎!」
「あ、こら暴れるな!」
「離せゆみちゃん! 私はあいつらのうずらの卵割らなきゃ気がすまない……!」
「う、うずら? 持ってるようには思えんがとにかく落ち着け!」
「なるほど! うずらじゃなくいくらってか! そんだけ小さいと将来大変だな!」
あそこで羽交い締めにされながらも暴れてるバカ。口を開けば汚ぇことしか出ねぇのか己は。
お前の罵詈雑言のせいでさらに頭に血が上ってるぞ~この人たち。
今、こっちにヘイトが向いてもコロナと下敷きがいるから困るし。かといって伊鶴のほうへ行けば絶対流血沙汰。
いや、もしかしたらアレクサンドラが止めてくれるかもだけど。あの人なに考えるかわかんないから論外。
「マジでどうし……ん?」
「……Hey」
「「!?」」
困っていたら思わぬ助け船が来た。
思わぬっていうかナイスタイミングだな。ミケ。
「僕の友達と楽しく遊んでたみたいだね? 混ぜてもらっても良いかい?」
後ろからナンパ男二人の間に入り肩を組むミケ。
言葉とは裏腹に筋骨隆々の黒人が低い声で怒った顔で訪ねてきたらいくらグローバル化が進んだ世の中でも怖いわな。完全に戦意喪失してる。
「良い……かい?」
これ以上絡むならわかってんだろうな的な意味を含めて念を押すようにささやく。
やだ。今のミケかっこいい。掘れそう。たまには筋肉だるまも役に立つのね!
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