第190話

「思ったより空いてるな。待つ必要がなさそうだ」

「良かったな才。もうすぐコロナから解放されるぞ」

「……本当にな」

「あぐあぐ」

 泳いでないのに肩がもうべちゃべちゃでふやけかかってるし一刻も早く離してほしいね。

 あとこの空いてるのってたぶんお前らの美女オーラとさっき騒いだ三馬鹿のお陰だろうな。皆さん遠巻きに見てるよ。

「天使に甘えられてあまつさえ可愛いお口にはむはむされて文句言ってんじゃねぇぞロリコン野郎♪ 嫌なら代わりやがれ♪」

「だってよコロナ。あっち噛むか?」

「フンッ!」

 鼻息で拒否りやがった。

「はぁん……!」

 拒否られて悲しいけど拒否り方が可愛い的な複雑な顔だな。

「ははっ……。にしても本当に仲が良いな」

「こいつが甘えてるだけだ。俺としては俺以外にももう少し目を向けてほしい」

「はぐはぐ」

「……今は口を離してほしい」

「噛み癖は……直した方が良いな。うん」

 夕美斗すらも微妙な顔になってコロナを見るか。ほれ見ろ。最近のお前調子乗りすぎだぞ~。俺も悪かったけどいい加減にしとけよ~。

「とりあえず席につこう。マイク達が来る前に椅子を取られたらたまったもんじゃないぜ」

 そりゃそうだな。この遠巻きに眺めてくれてる人たちが我に返る前に人数分の席は取っておこう。



 と、ミケ、多美、八千葉の席を取っていたのだが。それがまた問題を呼んでしまった。

「ねぇお姉さんたち~。相席良~い~?」

「ちょうど三席空いてるしさ? 良いよね?」

「こんなに可愛い女の子ばかりなのに男一人っていうのも物足りないでしょ?」

「ちょっとはおすそ分けしてほしいなぁ~。良いよねぁ~?」

 いつの時代だろうがどこだろうがこういうのはいるんだな。

 ナンパと言えば……いやあれをナンパと言うかプロポーズだったけど。ロッテはすでにされてたよな。一回されたってことは俺の見てないところでもあるんじゃなかろうか。

「なぁロッテ。お前ナンパされるの何度目?」

「船に乗ってから一人の時も含めて八回だ」

「わお」

 背がその辺の男よりも高いから敬遠されるかなと思ったけど意外や意外。割りと多かった。

「おいおい。ナンパなんて人聞き悪いんだけど」

「混んでるから相席お願いしてるだけだって」

 おっとっと。まだ声色は柔らか目だがちょっと不機嫌になったっぽい。そもそも女の中に男が一人ってシチュがもう妬みの対象だからあんま関係ない気もするけど。

「いっそそんな根暗そうな男じゃなくて。俺たちみたいな明るくて楽しい男と食事しない?」

「それはナイスなアイディアだわ。俺金持ちだからおごっちゃうよ~」

「こいつお坊っちゃまなんだよ。この島に来るのもおごってもらっちゃってさぁ~」

「お坊っちゃま言うなしw金づるみたいで腹立つわw」

「あながち間違ってないやつぅ~」

「フォローしろwww」

 ケラケラと三人だけで笑い騒ぐ。周りから冷たい目で見られてるのに気にしない性格が羨ましい。

「とりあえず座っちゃうね~」

「待ってくれ。この後三人合流するんだ。お店側にも話は通してあるから困る」

 夕美斗がバカ正直に制止に入る。大丈夫かな? 若干堅物っぽいから変に丸め込まれそう。

「へ~。そこに女の子っている?」

「いる……が」

「お♪」

 つい答えてしまった夕美斗の言葉に喜ぶナンパ男たち。

 今のは悪手だぞ~。女目当ての男共に女増えるとか言っちゃダメに決まってんだろ。あとで反省会です。

「他にも女の子いるんだ~。ねぇ可愛い? 君くらい可愛いならすごい嬉しいんだけど」

「は? いや……そういうのは好みもあるし」

「マジレス笑う。え~どうしよう。こういうスポーティーで真面目っぽい子って結構激しかったりするから好きなんだよなぁ~。この子だけでもお持ち帰りしたいかも」

「激し……? お持ち帰り……? ……???」

 あ、いまいちわかってなさそう。そしてその無知な反応が余計に興奮を煽ったっぽいぞ。ナンパ男たちの心拍数が少し上がったようだからな。

「うわこの子わかってねぇ! 絶対処女じゃん! あ~もう無理。食事とかホテルで取れば良いからさ。とりあえず一緒に行かない?」

「だぁー! もう! 空気読めねぇなぁ!? 断ってんだよわかんねぇのかよ!? 猿でも教えれば芸の一つも覚えるわ!」

 夕美斗の腕を掴もうと伸ばした手をブロック。さらに画なり立てる伊鶴。

「会話の成り立たねぇテメェらなんぞよりもな! まださっちゃんのがマシだっての!」

「おーい比べるのは失礼だぞー」

 俺に。

 少なくとも会話はできるしエッチなことも自重してるんだよー。……自重。してるんだよ?

「え~何でそんなに怒ってるの? あ、もしかしてこの子誘ったから嫉妬とか? 構ってほしかった的な?」 

「うっわーなにそれ可愛い。よく見たら発育も良いし」

「よく見たらは余計だわ(怒)」

 ぶちギレ数秒前って面だな。いつ爆発してもおかしくなさそうだわ。

 ……ところで、なんでアレクサンドラはなにも言わないんだろうか? 助け船とか出してくれないのか?

「……」

 と、思って目を向けたらサングラスかけて顔を見づらくして気配まで消してやがった。

 口の端を見ると若干上がってるからこの状況も楽しんでやがるな? あれか? 俺たちがどう切り抜けるか見ようってか? クソッタレ。

 真意はどうであれ、手助けする気はなさそうだし。伊鶴もキレそうだし。夕美斗は困惑してるし。ロッテもリリンも当然コロナも矢面に立ったら……それこそこいつらが悲惨な目にあう。

 ……はぁ。となると、俺がなんとかするしかないか。できるかは別として、な。

 はてさて、どうしてくれようかこの状況。

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