第189話

「ぶっ倒れるまでシュート! シュート! そしてシュート!」

「いった……!?」

「うあ!?」

「ほらほら! 避けろ避けろ! 実戦だったら死ぬぜ!? 相手デスオアすか自分ダイが死ぬか! それが野生の掟だぜ!?」

「野生に帰った覚えはねぇ!!!」

「そもそも一方的でオアになってなくありませんか!?」

 伊鶴と夕美斗に撃ち込まれる砂の玉は最低でも時速200㎞を超えてる。プロテニスプレイヤーのサーブ並みの速度だ。常人が対応できる域は優に超えている。

「あだ!? いだ!?」

「ふっ! ……いっ!?」

 だが流石は夕美斗。実戦演習でも自らの肉体を駆使して戦っているだけあってすぐに慣れてきてかわせるようになっている。

 一瞬目をアレクサンドラへ向け、軌道を読み、体を捻り、ステップを挟み、狙いを絞り辛くする事で被弾数を減らしていく。

 怯む時間が減り、伊鶴にももう追い付いた。

「げ!? ゆみちゃんいつの間に!? いっだ!?」

 伊鶴の方はというと、未だ対応出来ていない。勘の良さはあれど、体がついてこないのだ。

「……余所見してる余裕なんて――あふっ!?」

 慣れてきたとは言っても完全に回避はしきれない。半分程は食らってしまう。

 だがそれでも、アレクサンドラが感心を向けるには十分だった。

(ん~。夕美斗は良いモノを持ってるね。マナの使い方はつたないしというか下手だけど。それを補って余りある肉体能力センス。しかもあの勘の良さで召喚魔法師志望だわ人域魔法使ってるわ。色々将来が楽しみ過ぎるぜ)

「んの……っ! だぁ! もう知らん! かかってこいやぁ!」

「お?」

 伊鶴はもうアレクサンドラの方へ注意を向けるのをやめる。代わりに頭の中で数を数え始めた。

(1……2……3! 1……2……3!)

「ハハッ! そう来るか!」

 三つ数えるごとにマナを放出し、被弾時のダメージを減らしにかかる。

 常時軽減というわけにはいかないが、怯む回数は大幅に減った。

(とんでもない力業。でもあんな雑な使い方して全然堪えてない。マナの総量が桁違いだな。伊鶴こっちも未来の姿を見てみたいなぁ~。……ミッチー。君が羨ましいぜ。こんな面白い子達の面倒を見れるんだからさ)

「にひ。まだまだ行くぜぇ!!!」

「来なくていい!」

「自重願いたい!」

「ノー! それは許されなぁい!」

 さらに激しさを増すアレクサンドラによる砂弾。折角慣れてきた二人だが再び苦戦を強いられる。

 やはりアレクサンドラの浮かべる笑みは悪魔のモノだった。

 しかしそのアレクサンドラにも不満はあった。

(にしても残念残念。の事ももう少し観察してみたかったなぁ~。砂玉多サービスくしてやったんだけどなぁ~)

 変にムキになって追いかけなくて正しかった才である。



「だぁ……はぁ……おヴぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

「はぁ……はぁ……」

「夕美斗! ウィン!」

((そ、それどこじゃない……!))

 大した距離じゃなかったが妨害が激し過ぎて息切れを起こす二人。

 訓練を終えての休暇のはずがズタボロにされてしまった。

「ん~……! 良いね良いね~。全力を出しきってぶっ倒れるなんてまさに若いって感じがするね~!」

「む、むしろサンディが汗一つかいてないほうがどうかしてる……。この気温であんだけ走ってなんで息切れもしてないんだ……。スタミナお化け……」

「ま、魔帝の凄まじさの一端を垣間見た気がする……」

「ハッハッハー! こんなんで魔帝になれたら誰も目指そうとか思わないけどね! イージー過ぎるわ!」

「「……」」

 理解できる次元じゃないと察し、考えるのをやめて二人は体力回復に努める。

 一介の学生に世界トップの一人を理解できると思う事がまずおこがましかった。

「ん~。にしてもなぁ~。やっぱ気になるなぁ~。どうしても気になるなぁ~……ってことで閃いた! ナイスインスピレーション!」

 悩んだ時間実にコンマ三秒。閃くにも程がある。

「ちょっとお姉さん一肌脱いじゃう♪」

(自分の好奇心の為に♪)

 思考をやめた二人はとりあえず聞かなかった事にした。自分達の心の平穏の為に。



「……なんでお前ら二人は砂まみれでぶっ倒れてるんだ?」

 追いついた時には夕美斗と伊鶴は満身創痍。どうしてこうなった。

「……答えなきゃダメかいさっちゃん?」

「……いや、やっぱ良い」

 なんとなくわかるし。そこのハツラツとしたクレイジーな金髪女がなんかやったんだろ。悪ノリ的なやつを。

 ずっと伊鶴が振り回されっぱなしおもしれぇけど同時に恐ろしいよな。普段伊鶴が振り回す側なのに。

 これ、伊鶴が振り回されてる側だから良いけど、伊鶴とアレクサンドラが両方振り回すほうへ回ったら……。おおう。想像するのも嫌だ。やめよう。

「とりあえず早く起きろ昼飯だ昼飯。コロナがもう限界なんだよ」

「ガブガブ」

 このままじゃ俺の肩肉が本当に食われちまいそうだ。早くこいつの腹を満たさないと。

「もう少し休ませろ鬼畜男~」

「私ももう少し休みたい……」

「最初に悪ノリはじめたお前も。それに乗った夕美斗も自業自得だし」

「「……」」

 ぐぅの音も出ないようだな。反論するのがめんどうなだけかもだが。

「そうだそうだー! ミーもハングリーだぞ~! 早く店に入ろう!」

「あんたが一番反省しろ。これあんたのせいなんだろ?」

「(´ーωー`)ソウネ」

 絶対反省してないやつだなその顔。

 ガキ二人ダウンさせてんだからせめて反省の姿勢だけでも見せろっての。引率おとなだろが。

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