第183話
「お待たせ~。サンオイル買ってきたよ~。って、なに? なんなのこの状況?」
ミケが用意したパラソルとシートとデッキチェアなどで作られた我らが陣地に買い忘れてたというサンオイルを買ってきた多美が合流。開口一番ぶっ倒れた伊鶴を見て怪訝そうな顔でおっしゃりました。
うん。気持ちはわかる。それしか言えないわなこれ。
「伊鶴がそこのアメリカ人に殺され――」
「てない……っ」
「いて」
近くにあったペットボトルを投げつけられる。なんだ生きてたか。残念。
「で、なにがあったの?」
「それがね~」
さっき教えてやった伊鶴とアレクサンドラのあれこれをミケが語る。するとみるみる渋い顔に変わっていく多美。
「良い年してなにやってんですかあんたらは……」
うわぁ~めっちゃ蔑んでる目ぇしてるぅ~。そっちの趣味を持ってたらたまらんかもってくらいの目付き。
……いや目付きは元々良くはなかったな。肌の色も相まって黙ってたらヤンキーにしか見えなかったわ。超失礼だけど。
「本当にアイムソーリー。オールギルティイズマインでござりゅよ~……」
小学生が覚えたての単語を並べたような英語をしゃべりながら土下座をする。全部の罪は私のものってか? 壮大すぎるわ。
でも英語と違って土下座は綺麗だ。普通逆じゃね?
「伊鶴も普段大概だしそこまでやる必要ないですけども……。もう少し落ち着いてくださいね?」
「ははー」
わかってるかどうか微妙な返事だな。
「とりあえず肌焼けるの怖いんで。サンオイル塗りましょ。アレクサンドラさんも塗りますよね」
「オフコースアンドサンクス。濡らせてもらうよ。それとミーはここではサンディで通ってるからそう呼んでくれ皆の衆」
「わかりました」
「OK.とても光栄に思いますミスサンディ」
「断る」
「なんでだよ!?」
クワッと詰め寄られる。こんなことに人域魔法を使わないでほしい。ビックリするから。
「なんでだよぉ! なんで断るんだよぉ! もしかしてミーが嫌いなのかボーイ!? 昨日はアツい夜を過ごしたじゃないか! ミーの事は遊びだったのかい!?」
「あんたとそんなことをした覚えはない……っ」
だから周りの連中俺を変な目で見てんじゃねぇ。眼球潰すぞ。
「あーもうわかったわかりました。あだ名で呼べば良いんでしょアレックスさん」
「サンディな?」
俺の密かな抵抗だっての。マジな顔で訂正すんな。
「アレックスっていうのは親しくもないヤツが馴れ馴れしくも愛称で呼ぼうと思ったときに真っ先に浮かぶから。好きじゃないのさ」
哀愁のある顔で言われましても知ったこっちゃない。
「イチャついてないで早く塗りましょ。これ以上焼きたくないんで」
「あ、僕も。これ以上黒くなったら困るよ」
「……」
話を遮ってくれたのは助かるけど……。これは笑って良いやつなのだろうか? 多美とミケがそれ言うとネタかどうか判断に困る……。真面目に。
「ほらあんたも起きな。昔からオイル塗らずに遊んだとき肌が痛いって泣いてたんだから」
「うぃ~……」
ナメクジみたいに這いずって多美のほうへ向かう伊鶴。気持ち悪いな。
「……なに?」
「別に~? ちょっとナメクジみたいで気持ち悪いなって思っただけで特には」
「めっちゃ失礼って自覚あるかいさっちゃん。回復したら覚えてろよテメェ?」
「お前がなんのことを言ってるのかさっぱりわからねぇな」
「早速忘れてんじゃねぇよっ!」
「良いから早く塗るよ!」
「ちべたい!?」
騒ぐのを無視してオイルを塗り始める。テキパキとした手慣れた動きだ。
いや実際慣れてるのか。古い付き合いっぽいしな。
「……ん?」
「……」
なんかミケにジーっと見られてる。期待を込めた眼差しで。まぁ……うん。そういうことなんだろうよ。
「背中だけだぞ」
「もちろんさ! 僕が終わったら才のもやってあげるね!」
「いや、俺はロッテにやってもらう」
「(´・ω・`)」
「その顔やめろ。腹立つ」
男がしょぼんっとしたって需要ねぇんだよ。少なくとも俺には。
「……ん?」
「ジー……」
今度はサンディ(そう呼ばないとめんどくさそうだから諦めた)に見られてる。期待を込めた眼差しで。
「あんたはあっちにやってもらえ」
「えー」
えーじゃねぇよ。別に他に手があるならそっちで良いだろが。俺にこだわんじゃねぇよテメェら。
にしても。ロッテたちはまだかなぁ~……。なぜかリリンもいねぇし。どこで油売って――。
「にゃあーにゃあー! フンス! フンス!」
遠くでコロナが走っては足を止めキョロキョロ。走っては足を止めキョロキョロしてる。
「おーいコロナ。当てもなく探しても迷子になるだけだぞ」
「にゃーにゃー!?」
小走りで追ってきたロッテに振り向き様「どこだ!?」ってニュアンスで大声を張り上げるコロナ。
……あそこまで自分で激しく動くコロナは戦闘中以外じゃ初めて見るな。俺を探すのは戦闘並みに忙しくなるような事柄なのか。
「それしか言えんのか……。いや、それ以外ほとんど言わんかったな。お前は」
「にゃーにゃー!!?」
「はいはいわかったわかった……。あっちだあっち」
「っ!」
ロッテがこっちを指差し、コロナも振り向いて俺と目が合う。おうおう眉つり上げて唇結んで珍しく表情筋が大きく動いてるなぁ~。それくらいご立腹なんだろうなぁ~。めんどくさい。
「にゃあああああああ! にゃあああああああああ!」
あんのバカなりふり構わず走ってきやがる。おっぱいがすんごいぶるんぶるんしてるよ。ワンピースタイプの水着で良かったな。ビキニとかならこぼれてたぞ絶対。
さて、と。あの勢いのままこっちに突っ込まれたら大変なことになる。シートやらなにやらぐっちゃぐちゃになるのは明白だな。一応移動しとこ。
「にゃーにゃー!」
そのまま腹にタックル……かと思ったら宙返り。足を肩に引っかけて体を起こし頭にへばりつこうとしてきた! なんで!?
「うがあ!」
「こんの……っ」
更衣室前の失敗は繰り返さん!
「ほっ!」
「あう!?」
コロナの状態が起こりきる前に膝を落としつつ後ろへ下がる。肩から足が外れる。
よし。少なくともこれで顔面に張り付かれるのは回避しただろう。
「うがあ!」
綺麗に着地したコロナは改めて飛びついてくる。今度はキャッチ。いつものだっこの体勢。
さすがにこれはかわさない。かわしたら絶対さらにうるさくなるからな。譲歩した結果である。
「ふんふん! フンス~!」
あ、俺からちょっと強めに抱き締める+いつもより布が少ないぶん直接触れる部分が多いからちょっと機嫌が直った。案外チョロいよなぁ~。お前。
「やれやれ……」
チョロいけど。本当に手のかかるヤツだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます