第182話
海の近くに建てられたレンタルショップ兼更衣室兼ロッカー。
かなり大きくて千人以上が利用しても平気らしいんだが、もちろん更衣室は男女分かれて利用するわけで。
そう男女は分かれなくてはなりません。
「やー! やーあー! うがああああああ! にゃあああああにゃああああああ!!!」
「……」
駄々をこねる幼女が一人。俺の顔にへばりついて剥がれません。
「着替えが終わればまたすぐ会えるだろうに……。ほら行くぞ?」
「やああああああああ! あああああああああああ!」
ロッテが諭そうとしても聞く耳持たず。これは割といつも通りだな。俺ですら駄々をこね始めると言うことを聞かすのに苦労するというかなんというか……。
はぁ……。まだ出会う前の夢の中のが素直だったなぁ~……。良い子にするって言ってたじゃんかお前。ウソツキめぇ~。
「我は先行ってるぞ~」
「……私らも行こっか」
「だね。長引きそうだし」
「あんまり騒いで周りに迷惑かけないようになボーイ!」
「パラソルとか準備してるから。ごゆっくりね~」
んにゃろう共め……。付き合うのがめんどくさくなって逃げやがったな? どーせいたところで役に立たないから別に良いけどな! クソッタレ!
「……」
にしてもどうすっかなこれ。
ただの幼女ならば男子更衣室に連れ込んでも別に良いんだけど。……言い方が悪いな。
ほらあれだ。お母さんが息子と一緒にプールの更衣室で着替える的なやつ。あれが言いたかった。
で、コロナの場合は身体的問題でそれができない。身長は140もないし小学校低学年くらいか? に、見えなくもないんだけど。問題は胸部。バストだ。
そう。こいつは
俺はともかく他の男性の目の毒過ぎる。あとは通報されたり、こんなおっぱいの女の子連れ込むなとスタッフさんに注意されることになるだろう。
うん。そんな事態は避けない。是が非でもコロナを剥がさなくてはいけない。使命感。
「……」
でもまず完全に引き剥がす前に、顔面に押し付けられた状態から抜け出さないと。話すこともできない。
「……っ!」
「あう? やああああ!」
肩を掴んで下にズラそうと試みるが、剥がされると思って抵抗してきたな。
ふむ。さすがにこのままじゃ話にならんな。口が塞がれてるだけに。
……最後に残ってくれた助っ人に望みを託そう。
「……ん?」
コロナの背中をタップしながらロッテに向かって高速で手招き。別に苦しくはないけど生き苦しいってジェスチャーをする。
「……おお! そういうことか! おいコロナ。才が苦しがっているぞ。せめて頭は離してやれ」
さすがロッテ。俺の意図を見事汲み取ってくれたな。あとでよしよししてやろう。
「ぅ~……」
見えてないからなんともだけど声でわかるぞ。お前渋々降りてきてるだろ? 俺が窒息しても良いのか! しないけど!
「……ぷはっ」
おっぱいを押し付けながらずりずり擦りつつ降りてやっと解放。コロナの可愛い顔が目の前にあるよ。
「よう。いい加減離れろわがまま娘」
「や! んがぁ!」
否定と共に口を大きく開けて近い顔面がさらに近づいてくる。角度的に鼻にむしゃぶりつくきだな?
「なにしてんだお前は!」
「はぐぁ!?」
おっと。つい首に手刀を入れてしまった。ちょっと力入れすぎたかな? 大丈夫か?
「……」
あ~……こりゃどうも失神したみたい。それでも手も足も離さずだっこ状態をキープしてるのはさすがと言わざるを得ない。手と足が引っかかってるだけでずり落ちかけてるけど。
そして図らずも難題かと思っていたコロナの着替えだが……これで解決したな! うん! 結果オーライ!
「ロッテ。あとよろしく」
「あ、あぁ……わかった。また後でな」
若干ロッテ……どころか周りが引いている。幼女をしばいたんだからまぁそうなるよな。
しかし俺はその白い目を受け入れよう。お巡りさんにお世話になるよか何倍もマシだからな。マシだからな!
……自分に言い聞かせないとやってらんねぇよ。注目浴びちゃうのちょっと慣れてきたけどさ。
「改めまして……海だ! おらぁああああああああ!!!」
本当元気だなあいつは。訓練疲れはどうしたよ。
「うお!? 筋肉痛が!?」
痛みが走ったのかピタリと止まったな。ほれ見ろ。
ホテル内でデカい声上げたり飯にがっつく程度なら問題ないとしてもいきなり全力疾走したら体が疲労を思い出しても不思議じゃないだろうが。
無理せず。大人しくしとけっつの。そのが静かだし。
「Fooooooo! 遊ぶぜぇ!」
おっと伊鶴と同レベルがもう一人。うるさいわぁ~。良い年してるんだから落ち着いても良いと思うわぁ~。
「Oh! 伊鶴! そんなとこでストップとはナンセンス! 海がミー達を待っているんだよぉ!」
「どわぁ!?」
走る勢いを落とさず、止まっていた伊鶴を脇に抱えてそのまま海に走っていくアレクサンドラ。
驚いた他の客の注目集めてるわ~。まぁすぐにアレクサンドラの美貌に目を奪われるんだけどな。面だけは良い女ばかりだよ俺の周りってさ。面だけは良いんだよ面だけは。大事だから三回言ってやったわ。心の中で。
「イン・ザ・シー――あ」
「へ」
あ。アレクサンドラが盛大に砂に足を取られた。
「「……っ!!!」」
そのまま浅瀬に顔面を突っ込むバカ二人。ざまぁ見さらせ。
「ぷは!? び、ビックリした!?」
いや、一番ビックリしたのはたぶん伊鶴だと思う。当の伊鶴は騒ぎたくても騒げなさそうだけどな。なぜなら――。
「……っ! ……っ!?」
抱えられたまますごい勢いで浅瀬に突っ込んだせいで顔面が埋まりじたばたしてるからだ。災難って続くんだなぁ~。
「い、伊鶴ぅ!? 大丈夫かぁ!?」
「ごぷは! じ、
顔を出したら出したで海水に目がやられたのかのたうち回る。悲惨だな。同情するわ。
「待ってろ伊鶴! 今助けてやる!」
いや加害者がなに言ってんの?
って、人域魔法で空気中の水分を集めて水の玉を作り出した。なるほど。あれで洗うのか。
「ぶぐぁ!?」
と思ったら伊鶴の顔面にぶつけ始めた。なんでやねん。
「伊鶴! 今! なんとかしてやるからな!?」
「ばふっ!? ぢょっ!?
一回で終わらず。何発も顔面に水の玉をぶつけられてる。抵抗してるようだけど話も聞いてもらえずやられっぱなしだわ。
……あのまま続けてたらあいつ死ぬんじゃないかな?
「そろそろ! 痛みは! 取れたかな!? ……おや?」
「……」
とうとう伊鶴は動かなくなった。
享年たぶん十六才。浅瀬にて溺死。南無。
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