第181話

「うぉおおおおおおお! 休みだ! 海だ! そしてそこに私は行くんだよぉ! あそぶぞぉぉおおおおあああああああ!!!」

「ホテル内で騒ぐな!」

「ごふっ!?」

 はしゃぐ伊鶴を力ずくで止める多美。この光景はもう日常だよなぁ~。

 にしても伊鶴あいつ朝から元気だな……。そんなに遊びたかったのかよ。

 まぁリゾート地なのに二週間ずっと肉体を酷使してたら無理もないか。特にあいつは。

「はっはっは! そんなに焦らなくても海は逃げないよ!」

 俺の横に立つのはアロハシャツが似合う黒人。前かっぴらいてるから発達した胸筋と腹筋の主張が激しいぞ。

「でも気持ちはわかる。パラダイスに来たと思ったらまさかのヘル……。そしてやっと苦しい時間が終わりやっと僕たちは海と観光を満喫できる! なによりも……」

「ぅ~……」

 一度言葉を切ってなぜ肩を組む? 暑苦しいぞボケ。

 ここ数日甘えに甘えたお陰か今日はコロナが珍しくだっこされずに俺の足にへばりつくだけに留めてると言うのにお前が肩組んだ瞬間不機嫌になっただろうがどうしてくれる。

「やっっっっっっと才と遊ぶ口実ができたからね! 入学以来才はあっちへフラフラこっちへフラフラしてて結局遊ぶ機会がなかった……。トレーニングだってプライベートで一緒にしたことなんてない……。こっちに才が到着したら才は別行動取って個人メニューでもやらされると思ったからあんまり期待してなかったけど……。でも! 才も休みになって! 付き合いが悪いのに珍しく一緒に海に行くと聞き! やっと! やっと遊べる! この嬉しさがわかるかいマイフレンド!?」

 気持ち大人しかった理由はそれか。だがしかし、コロナを不機嫌にさせた罪を償え筋肉だるま。

「お前も大分はしゃいでるのはわかった。わかったから黙れ」

 今回一緒に遊びに行くのも物のついでだし、あんまりはしゃがれても反応に困るんだよ。

 一番の目的はコロナを外で遊ばせることだからな。できれば俺抜きでも色々楽しめる子に育ってほしいんだよ。そのために経験は多いほうが良いってだけ。

「相変わらずクールだね……」

 ……寂しそうな顔すんな。ゴリゴリなヤツがそんな顔しても俺は萌えねぇんだよ。

「珍しいと言えばお前もだよな?」

「ん?」

 反対側に立っているのはいつも引き込もってゲームばかりやってるリリン。

 今日はまた布地の少ない新しい服を着てておしゃれセクシーだな。誘ってんのか?

「我とていつも引きこもってるわけでもない。たまには外に出たいとも思うぞ?」

 たまにって自覚はあるんだな。それだけで俺は嬉しいよ。

「で、なんか面子足りないけど。他は?」

「あ~。ミス八千葉が寝坊してるらしくって、同じ部屋のミス夕美斗から後で合流するって連絡が来てたよ。あとミスターは部屋で仕事するってさ。二日酔いで酷い顔だったし休暇も兼ねてるんじゃないかな?」

 八千葉と夕美斗はともかく先生引率じゃないの? お前らは先生と島には一緒に来てるからギリ引率と言える……のか?

「それで一緒に行けないけど生徒だけだと心配だから代わりを頼んだって言ってたよ」

 なるほどね~。代わりを……って。

「……それってまさか」

「グッモーニンボーイアンドガール! 昨日ぶりだね!」

 やはりあんたか。予想通り過ぎて最早驚かねぇよ。

 ってか先生の二日酔いって十中八九この人のせいだよな? 俺が断ったからってすぐに先生呼び出して他の店行ったらしいからな。

 そう。あくまでこの人のせいだ。俺に罪はないのだ。たとえ結果的に先生が俺の身代わりになったとしてもな。

「おう! サンディ! おひさひさ!」

「ハッハッハー! 伊鶴は今日も元気だね昨日ぶりつったろイエア!」

「ウィーヤー!」

 よくアメリカ人が手とか腕をバシバシやるあいさつあると思うんだが、二人もやり始める。いっさい合ってなくてグダグダしてっけど。

「あんまり騒がないでくださいよ……。周りの迷惑だし視線が痛いです……」

「なぁに言ってんだいガール! ミーが楽しいと皆ハッピーになるんだよ!」

「旅行に来てんのにテンションあげなくてどーすんだよタミー! はしゃいでなんぼだろ!? 迷惑なんて注意されてから考えりゃいんだよ!」

「いやだから今私が注意したんじゃん」

「「がっはっはー!」」

「聞いてないし……はぁ~……」

 うるさいのが増えたどころかかけ算されて頭を抱える多美。

 伊鶴だけでもうるさいのに数が増えてしかも相手は魔帝。いわば魔法師にとっては憧れであり神に近い存在。注意や口答えなんてはばかられる相手だ。つまりは強く言いづらいんだよな。めっちゃ同情するよ。



 ちなみにこのあと二人はスタッフの人に怒られてペコペコしてたよ。ざまぁ。

「さぁ皆の衆! 遊びに行こうかヒアウィーゴー!」

「ゴー!」

 ……反省してんのかお前ら。

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