第179話

「「……」」

 訓練が終わると約二名ぶっ倒れて沈黙する。もちろんその二人とは俺の反撃を受けた伊鶴と体力のない八千葉。

 伊鶴は当然の報いとして、八千葉は結構頑張ってたと思う。

 つかちょっと前に比べたら体力も増えてるし、マナの扱いは一番上手いから慣れたらミケたちと同じくらいのペースで走れるんじゃないかな。たぶん。

 それはそれとして。今日の訓練は正直……参考になった。

 今までの俺はほとんどなんとなくでマナによる身体強化や移動法とかやってた。てか身体能力がまず馬鹿げてるから筋肉に負荷かけるだけで音速超えるからな……。必要があまりなかったとも言える。

 だけど間近でマナの使い方を見れた。これはかなり大きい。

 人域魔法を使ったときのマナの流れを覚えることができたってことだからな。まだ試せてはないがすぐに扱えるようにはなるだろ。

 ……できればアレクサンドラの人域魔法ももっと体験したい。

 まさか俺の認識よりも速く行使されるとは思わなかったからなぁ~……。あんまり観察できなかった。不覚。

 せっかく至近距離で世界最高峰の人域魔法を見る機会だったのにな。二度と来ないかもしれないよあんなチャンス。もったいなかったわ~。

「さて、一応これで訓練は終わりだ。残り二週間は好きに遊べ」

「やった! やっとやりきったぞ!」

「これで夏休み謳歌できるわ……」

「とはいえ二週間なにもしなかったら鈍ってしまいそうだし、自主連くらいはしときたいな」

「……真面目過ぎですよ~。私はそんな元気ないです。遊ぶ元気もないです」

「そ、れ、よ、り! ……もっ!」

 勢いよく立ち上がりなぜかポーズを決めながら俺を指差す伊鶴。

 なんだよ。まだ喧嘩売り足りないのか?

「私らはきっちり殺人的訓練をこなしたからバカンスを楽しむのはわかる! だけどさっちゃんは一日しかやってない! にも関わらずなんか一緒に終わり的な雰囲気があるのこれ如何に!?」

 あーね。それはたしかにな。そこは俺も疑問に思うわ。終わりで良いんですかね?

「そいつにお前らがやった訓練が必要と? そう感じたのか?」

「ぐっ」

 言葉に詰まる伊鶴。他の連中は納得顔してるし。俺も同感っちゃ同感。

 正直今日やった訓練をどれだけやろうが俺には無意味だ。人間用の訓練をどれだけやろうと俺は強くなれない。まだ実戦形式のが良い経験値になる。

「そういうわけだ。時間の浪費をするくらいなら放置して勝手に強くなってもらった方が効率が良い」

 わお。放置発言。先生からしたら扱いづらい生徒だと思うのでそれで大丈夫でーす。

 試行錯誤して施そうとして心労溜められるよりはそっちのが良いだろうからな。俺は全然構わないわ。

「うぅ……。うぅ~っ! 理解できるけど! 納得できん! 不公平だぁ!!!」

 伊鶴よ。テメェがいくら嘆こうと結果は変わらんのだよ。ざまぁみさらせ。



「このままじゃミー来た意味これじゃあまったくねぇじゃん!? ってことで! やって来たぜマイフェイバリット!」

 俺らが泊まってるのとは別のホテルの屋上に招待された。

 ここではナイトプールと食事が楽しめるみたいだ。

 まぁ俺ら水着持ってきてないから飯だけ楽しむつもりだけどな。

「ボーイアンドガール! 今日はミーの奢りだぜ! 存分に食いな!」

「わーい! オサレ空間で食うぜぇ! たらふく食うぜぇ! ヤケ食いだぜ!」

「お!? ノリが良いじゃないかユー!」

「たりめぇでさぁ! はしゃげるときにはしゃぐのがマイポリシー!」

「気が合うじゃねぇか! 気に入った! 飲め!」

「おうよ! ――あまぁ!?」

「楽しそうだな?」

 アレクサンドラに差し出された飲み物を一気にあおり悶絶してやがる。いったいなにを飲ませたんだ?

「オリジナルカクテル。溶け煮詰めたお菓子の家。ノンアルコールだぜ」

 なにその暴力的な名前の飲み物。あからさまに糖分のお化けじゃねぇか。そんなもん一気飲みしたらそら堪えるわ。

「に、肉! しょっぱい肉をくれぇ!」

 今度は置かれてるローストビーフやら鶏の丸焼きやらにガッツき始めた。下品な女だな。

「おいスタッフ。もう無いぞ。補充しておけ」

 リリンに関してはもうテーブル一つ食い尽くしてる。お前は懲りろ。

「にゃーにゃー。にゃーにゃー!」

 っと。今日は訓練中ロッテに任せて待機させてた甘ったれも腹が空いてるみたいだな。

 今日はだっこの時間も短いからすこぶる機嫌が悪いわ。

「あぐあぐ!」

 ……早く口になんか詰め込まないと俺が食われる勢いだな。

「お姉さんすっげぇ背高いね!?」

「そんですっげぇ美人! ちょっとお話ししない?」

「はぁ……これで何度目だ……?」

 ロッテはまたナンパされてるな。

 ……まぁほっといて良いだろ。船にいたような情熱的な男なんてそういないだろうし。最悪物理でなんもかするだろ。

 ロッテよ。強く生きろ。



 夜も更けて全員それなりにはしゃいで疲れたみたいだな。うつらうつらし始めてる。そろそろお開きかな?

 ちなみにリリンは先に帰ってゲームをやってる。あいつの行動パターンが一定過ぎる。

「やぁボーイ。楽しんだかい?」

「……ほどほどに」

 ワイン片手に口からも酒の匂いをプンプンさせた酔っぱらいに絡まれた。

 肩組むんじゃねぇ。馴れ馴れしい。離れろ。酒臭い女はカナラで間に合ってるんだよ。

 だけど寝てるコロナを気遣って当たらないようにしたところは評価してやる。そこだけな!

「そうかそうか。暇か! じゃあちょっと付き合えってもらおうかな?」

 どういう流れでそうなるのか。酔っぱらいの行動に意味を求めてはいけませんか?

「ずぅ~っと考えてたんだよね。私が何を教えられるかをさ」

 急に雰囲気がガラッと変わった。ちょっと真面目な空気。でも酒臭い。

「正直。訓練中の君と、君の契約者達を見て余計わからなくなったよ。うん。充の言ってた事がよーくわかった」

 クイッとワインを飲み干してやっと離れてくれた。

「Follow me.来な。きっと私がしてやれるのはこれだけだ」

 ホテル内へ戻ろうとするアレクサンドラなんだが……。

 あ~カッコつけてるところすんごい申し訳ないけど。言わなくちゃいけないよな。

「……あのさ。コロナをロッテに預けてきて良い?」

「……どうぞ」

 ピタリと止まって答えてくれたが。ちょっと気まずそう。

 いや本当申し訳ねぇ気持ちになるな。俺悪くないけど。

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