第178話
「ハロハロー! 若人達よ! ナイストゥーミートゥー! よろしくだぜボーイアンドガール!」
「「「……」」」
島の訓練施設で先生に紹介された人物を見て全員固まる。
俺はまぁ……別の意味で口を閉ざしてるんだけどね。だって見たことある面だから。正確には昨日見たかなぁ~あの金髪。
「そしてまた会ったなボーイ! 再会を祝してハグをしようじゃないか!」
「っ!」
足元から小さな雷が発されたと思ったら目の前まで接近された!
これは……プロの人域魔法師の必須魔法技術――
真正面からなのに俺が反応できない速度を出しやがったぞ。
さ、さすがだな……。だがそうやすやすとハグされるのは嫌なので抵抗させてもらうぞ。
「お? ほいよ!」
「う……っ!?」
嘘だろ!? 抵抗して伸ばした手をそれ速度で弾いてしかも足を引っかけて体勢を崩された!?
お、おいおい。今俺の手亜音速で動いてたんだぞ? 普通の人間の目で追える次元じゃないんだが!?
「ハッハッハー! ミーに抵抗なんざ十世紀早かったな!」
「こ……の……」
あ、あっさり抱きつかれてしまった。それも倒れないように支えられる形で……。
「ハッ!? ちょ、ちょっとミスター! こ、このレディってまさか……いや間違いなく」
「超絶大物なんだけど!? え!? サイン良いですか!?」
「だ、ダメだ……。未だ思考が追いつかない……。と、とりあえず目の前でとんでもない事が起きてるのはわかるが……。気絶しそうだ……」
「ほわぁ~……」
「やちちゃん!? 大丈夫!? 帰ってきて!? でもありがとう! お陰で冷静さを保てる!」
全員パニック状態
「さて! ヤングボーイとハグもしてミーは満足したから改めて名乗ろうじゃないか!」
俺から離れて先生の隣に戻っていく。今の一連は必要だったのか否かはひとまず置いておこう。絶対いらなかっただろうと指摘するのは我慢しよう。なぜならこの女に絡むと時間がかかるからだ。
「ミーはアレクサンドラ・ロキシー! 若く見えるけどもう27のオバサンさ! ……誰がオバサンだ! 誰が!」
「叩くな! 自分で言ったんだろうが!」
「関係ねぇな!」
背中を叩かれる先生。あからさまにイラついてるけど抵抗しないのは無意味ってわかってるんだな……。
「お~……! スゲェ! 生のロキシー節だ!」
「さすがに知り合いといっても魔帝相手じゃミスターも形なしだなぁ~」
「……最終日だからと油断するなよ貴様ら」
「「え」」
面白がったミケと伊鶴の二人は追加メニューがありそうだな。ざまぁ。
まぁそんなことよりも。なんで魔帝様が侮蔑の対象である召喚魔法師の訓練に顔を出したのかが気になるね。
単なる興味なら良いけど……そんな感じの面じゃないんだよなぁ~……。
「とりあえず準備運動を始めろ」
「「「はい!」」」
なんにせよ。様子見、か。
「へ~……。やるね~あの子達。本当に召喚魔法師志望?」
「一応な」
「優秀とは言えないけど普通に人域魔法師として育てても良さそう」
「召喚魔法師を目指したからこそあそこまでできるようになったんだよ」
「……なるほどね。にしても
「そうだな」
「一番動きが良いんだけど?」
「だから困ってる」
「優秀なのに?」
「優秀だから何して良いかわからん。それであんたを頼ってるんだよレックス」
「そういう事ね。といっても私も教える事ないよ? 他の子達ならともかく彼には無理。興味深い子だけどなんていうの? ジャンルが違う」
「あんたでもそうか」
「少なくとも今日一日で何か示してあげるってのは無理だね。観察する時間がほしいよ」
「そうか……。それは残念だ」
「ゴメンね。力になれそうになくて」
「いや、急に無理を言った俺も悪い。……それはそうと」
「ん?」
「さっきからずっと地だぞ」
「あ」
「ん?」
なーんか先生がアレクサンドラにシバかれてる。なにかしたのかな?
いや、あの女のことだから特に意味もなく暴れそうだから。うん。考えるだけ無駄だろう。
「ぜぇ……ぜぇ……。ま、待てコラァさっちゃん……。な、なんで一番前走ってんだコラァ……っ」
今は障害物が用意されたコースをひたすら周回する訓練をしているんだが、息絶え絶えの伊鶴が瀕死の面で後を追ってきてる。
ちなみに俺はミケと夕美斗に合わせて走ってるだけなので一番前を走ってるわけじゃありまーせん。
「あっさりついてこられるのはちょっとショックだよね~。まぁ才だしそれ以上特に思うことはないけどさ」
「才君の場合当然って気持ちの方が大きいからな」
「……」
俺の評価がなんか雑だな? 下手に突っ込まれるほうが面倒だから良いけどさ。
「わ、私だってさっちゃんだしーって気持ちはあるけど……。それでも腹立つもんは腹立つ……! つーわけで食らえいっ!」
すでにマナで身体能力を上乗せしている伊鶴がさらに足にマナを集中させて噴出し、急加速。こっちに飛び蹴りしてきやがった。
ふむ。受けてやる義理はないが、ただかわすのも芸がないし。どうしてくれようか。
……よし。迎撃しよう!
「よいしょっと」
「はえ!? ちょ!?」
体を反転させ蹴りをかわして足首を掴む。そして体を捻り改めて前方を向きながら伊鶴を地面へ叩きつける。もちろん勢いはある程度殺しながらな。
「あっぶ……!?」
思惑通り手をついて上手く着地したな? よしよし良いぞ。このままもう片方の足を持って~っと。
「……さ、さっちゃん? ま、まさかこの体勢は……!?」
「たぶんその想像であってるぞ~」
「か、考え直さない? 今ならまだ間に合――」
「断る。先に喧嘩をふっかけたのはテメェだ」
「んぎゃあああああああああ!!?」
俺は再び走り出す。伊鶴の足を掴んだままな。つまり今は手押し車の状態。
全身から液体を吹き出して悲鳴を上げながら伊鶴は必死で手を回してるよ。
障害物が来る度に手からマナを出してなんとか回避していってる。マナの扱い雑だったけど器用になったなお前。
「お、覚えてろよさっちゃん! この恨みいつか晴らしてくれるわ!」
「だから! テメェが先に蹴りかかってきたんだろうが!」
反撃食らう覚悟がないなら仕掛けてくるんじゃねぇ! ちょっと感心して損したわ!
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