第175話
「お~」
ホテルの部屋に入ると意外と広くてつい声を出してしまった。
ベッドは二つだが8人は軽く座れそうなソファに60インチのモニターがあるのに全然窮屈じゃない。むしろ余裕のあるスペース。ベランダは椅子とテーブルがあって、夜景を楽しみながら酒でも飲めそうだし。もちろんシャワールームもあってほぼマンションみたいな作りだわ。
この人数で一部屋しかないって言われて不安だったけど、全然杞憂だったな。学園の寮より広いわ。
で、そんな高級ホテルなんだが……。
「おう。来たか」
なんでリリンはすでにゲームをやってるんだろうな? しかもルームサービスでピザ頼んで食ってるし。ざっと見て八枚は食ってるな。これから夕食ですよー。
「ん? これから夕食だというのに何か食わせてきたのか? 匂うぞ」
「食わせたけど。鏡見て言え? 部屋中ピザの匂いだぞ」
「クハ! 味もピザになっているかもなぁ~? 試すか?」
舌をベーっと見せつけてきてるけどキスしねぇからな? あとコロナが真似しようとするからやめろ。
「にゃーにゃー。んべー」
ほら。こいつの場合性欲とかじゃなく単純に俺とのスキンシップのバリエーション的な意味でしようとするからたち悪い。あいにくとガチ幼女とする趣味も度胸もねぇよ。
「ところでロッテは?」
「……! はぐはぐっ」
無視されて怒ったのか肩を噛まれる。マナを込めるな。痛いだろ。
「あいつは今風呂だ。荷解きの後、時間も空いてるしと早々に入っていったぞ」
「なるほど。じゃあロッテが出たら飯にするか。ビュッフェとルームサービスどっちにするよ?」
「ビュッフェだな」
「……また食い尽くして出禁になるなよ? まだ二週間滞在するんだから」
「……」
返事をしろよ。不安になるだろうが。……本当にやんなよ?
「ほう! これはまた美味いな!」
「ん~良い肉だ。程よく生の部分もあって儂好み」
「はぐはぐ! ガツガツ!」
さっそく計二十人前ほど一度に運んで食事を始める大食女ども。
まぁ二十人前中十五人前はリリンだけどな。ロッテが三人前でコロナが二人前。俺はコロナが食事に飽きてから食うつもりだからまだ運んでない。こんだけあって俺の分だけないとか面白いな?
「本当よく食うよな~お前ら。コロナやロッテもだけど特にリリン。主にリリン」
なにせ最初に十五人前だからな。周りからの注目もすごいよ。
最初は美人が来たなぁ~って顔をされ。次にあんなに取ってテンション上がってるんだな~って微笑ましそうな顔をされ。ちょっと取りすぎじゃないか? 食べきれるのか? と心配され。フードファイターかなにかか? 食いすぎじゃね? って感じの視線に晒されてる。
もうね。外出すると絶対注目集める症候群だわ。こいつらの誰かといると絶対注目集めるよ。なんだお前ら。生まれながらそういう才能でも持ってんのか? お? 自重しろ?
「にゃーにゃー!」
「ん? あぁ。はいはい。おかわりね」
いつの間にか食い終わってたコロナ。なのでまた取りに行かなくちゃいけない。
「ん……ん……」
当然とばかり言うかなんと言うか。俺の膝の上で食っていたコロナは体を反転させだっこの体勢に。このまま抱えて……の前に。
「まず口拭け口。服につくだろ。ベタベタにしやがってこの野郎」
「ん~♪」
口を拭いてやって準備良し。コロナの腹を満たすために食糧を取りにいくぞー。
「で? 今度はなにを食うん――」
「そうだな。だったら――貴様の腸を食いちぎろうかぁ!? ぎゃん!?」
「おっと」
背後に立たれたもんでつい肘を側頭部に入れてしまった。加減はしたので許さなくても良いぞ。テメェの許しなんていらんはボケ。
「さ、さっちゃん……背後を確認せずに的確に攻撃を当てるとはやるじゃないか……」
振り返ると打ったところを押さえてしゃがみ込む伊鶴が。
痛い目を見たんだから反省して二度と変なちょっかいかけてくんじゃねぇぞ。まぁしないだろうけどな。反省のほうを。
「やぁ! 久しぶりだね才! 地獄へようこそ!」
「なんか……前より肌綺麗になってない? この時期にさらに綺麗になるとかどうなってんの? ちょっとどんなケアしてるか吐いてもらえる? あんたはこれからボロボロになるだろうけどさ」
「やっと来たようだな。この二週間辛かったが、少しは才君の相手が出来るようになったと思うし。近々手合わせを願いたいな」
「そういう話は置いといて、とりあえず食事にしましょうよ……。今日も今日とて疲れました……。食べて早く寝たいです」
「それもそだね。積もる話は席についてからってことで」
おうおう。いつもの面子が揃いおったわ。
にしても積もる話ね~? たしかに色々とありそうだわな。
メールやら留守電やらは差し引いても、たった二週間で見違えたわ。驚くほどマナの流れが綺麗になってる。
この中で一番酷かった夕美斗ですら淀みが減ってるし。マジでなにがあったか興味はある。
……なにより。いったいなにをしててそんなやつれた顔になるんだ? 四月の初期より酷い顔だぞお前ら。
なんか……本当……。嫌な予感しかないから帰りたいです。
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