第174話
「あ、ここなんでもう大丈夫です」
と、まぁ特に何事もなくホテルに到着。
魔帝だから色々納得できたものの、他になにか~って言われると……な? うん。なんも話したいこととか諸々俺にはないわけで。
例えるなら、興味ないジャンルの有名人にあった感じ。有名人だスゲー以外の感想は抱けません。
「へ~。良いとこに泊まってるね~」
たしかに。この島にはいくつかホテルがあるが、俺たちが止まるのは60階もある超高級ホテル。いくら伝手やらコネやらがあるとしても一教師がまぁこんなところに部屋を取れたもんだ。先生って貯金結構あんのかな?
「名残惜しいけどグッバイしなきゃだね……。あ、いっそミーも泊まって良い?」
「好きにしたら良いんじゃないですか? 部屋が空いてたら貴女なら楽々取れるでしょうよ」
魔帝だし。メディアに顔だしてるぶん金もあるだろうし。余程散財してなきゃうん億とか軽く動かせるんじゃなかろうか。
「いやいや。何を言ってるんだい? ユーの部屋にだよ。ユーの部屋に泊まらせて♪」
いやいやあんたがなに言ってんだよバカかよ。
「お断りですお帰りください」
「ハッハッハ! やっぱりそうくるかいボーイ! ミーの誘いやおねだりを断る男は滅多にいないんだぜ?」
「そらそうでしょうね」
魔帝ってことを抜きにしても美女で有名だからなこの人。だからこそメディアも取り上げるし人気もある。ほぼタレント扱いだもん。
ま、最近は休業してるらしいけどな。この島に住んでれば当然だろうけど。
「冷たい男は嫌いじゃないぜ? 気軽に接することができるからね♪」
「さいですか。つか仮に俺が貴女に気があっても、一部屋しか借りてなくて他の契約者もいるからスペースないですよ」
「へぇ! 複数の縁があるなんてますます珍しい!」
「……同級生は軽く三桁くらい契約者いますよ」
「Really!?」
今のはガチで驚いたんだな。発音が本場になってる。ちなみに三桁くらい契約してるってのは
「時代の流れってことなのかね。あた……ミーも年を取ったもんだぜ」
一人称間違えかけなかった? そのわざとらしいしゃべり方はやっぱりキャラ作りなのか? まためんどうなことをしてるもんだ。
「ほむほむ。そうなると困ったな。まだユーと遊びたいんだけど」
遊んだ覚えはないけどな。しゃべってはいたけど。
「オーケーわかった。アドレスかなにか教えてよ。そしたら滞在中はいつでも会えるぜ?」
「いや、断ります」
「ワッツ!? ワイ!? なぜなに!?」
「連絡先交換しても俺は特にメリットないっていうか……」
「おいおい……。こんな美女捕まえといてよく言うぜ……」
捕まったのは俺のほうだよ。この珍獣。
「ってか、なんでそんな突っかかってくるんですか? 俺たちにそんな執着する要素あります?」
「突っかかるとは人聞き悪いぜボーイ。だがそのクエスチョンには答えよう。そのユーの態度がまず好きなんだよ。昔の仲間はミーにそういう態度を取るから懐かしくてね……。あとはまぁなんとなくさ。ユーは気になる雰囲気を纏ってる。同じ人間とは思えないナニかがありそうで目を離したくない気持ちになるんだよ」
「……っ」
さすが魔帝と言うべき……なのか? よくもまぁ勘で色々察しがつくもんだ。ネスさんやリリンみたく、なにかしらの能力とかで看破してるほうがまだ納得いくけど。この人完全に本能のみだもんな。よっぽど不気味で怖い人だわ。これ以上関わりたくねぇ~……。
「だけどまぁそうだね。わかったよ。今回は諦めよう。しつこい女は嫌われるしね。それに、ミーとユーに縁があればまたどこかで会うだろうし♪」
召喚魔法使ってる人間に縁って言葉を使うあたり粋だな。運命論信じてる頭お花畑な女っぽくて吐き気覚えるけど。
「Hope to see you again.また会おうぜ」
踵を返して手をヒラヒラさせながら去っていく。
最後はスッパリ諦めてくれたな。よかったよかった。
……同じ島にいるからまたどっかで会いそうで怖いけどな。
だけどまぁ。とりあえずは? 魔帝との
「ふんふんふふ~ん♪ お? ……おお!?」
人目を惹きながら住宅区画にある自宅へ向かっているアレクサンドラの端末が震える。何故かはわからないが谷間から取り出し連絡を寄越した人間を確認すると目を見開いて驚く。
「ヘイ! ミッッッッッッツィ~~~~~じゃないか! 何年ぶりだろう? それもユーからコールなんて珍しいこともあるものだね!」
『……アレクサンドラ。まだ俺をそう呼ぶのかあんたは……。いい加減普通に呼んでほしいんだが? しゃべり方も相変わらず聞き取りづらいからそれもやめてほしい』
「バッド! ミッチーそりゃバッドだぜ! これはミーのアイデンティティーだからやめるにやめれないんだぜ?」
『昔はよく素が出ていたろ? テンションだけは素でも大差ないが』
「別に出てねぇけど!?」
『今まさに出てるぞ。そういうキャラが好きなのはわかるが無理をするな』
「……ぐぬぅ。じゃあミーの呼び方は? な~んでわざわざ普通に呼ぶのさ! ミーたちの仲だろ!? 昔みたいに呼んでくれよ! ぷんすかぽんだぞミッチー!」
『……はぁ。わかったよレックス。これで良いだろ?』
「イエア! 上出来だぜマイフレンド! ……それで? 用もなく電話をするほどユーは人付き合いは良くないよなぁ?」
『まぁな』
「あっさり認めんなよ! ちょっとショッキングだよ! アイムショック!」
『用件を話しても?』
「……釈然としないけど。オーケー。どうぞ。ぷんぷんぽん!」
『まず、風の噂で今はBBに滞在してると聞いたんだが。あってるか?』
「イエス。ここ半年はゆっくりしたいと思って一部屋買ったよ。で? なんでそんなことを聞くんだい?」
『俺も今来ている。俺の場合は月末には戻るがね』
「オウ! マジかよ! 二週間もよく滞在できるね!」
『二週間前から来てるがな』
「なんで今連絡してんだよバカポスタス! もっと早く連絡しやがれってんだ!」
『用件に関わることなんだ。あまり怒るな』
「……そういうことなら。わかったよ。話を続けて」
『こっちには大規模な一般にも解放されてる魔法訓練施設があるだろう?』
「あるね」
『そこで一部の生徒をしごいていた。予定ではもう一人来ると思っていたんだが、事情で遅れていてな』
「ほう?」
『勝手に消えて勝手に急成長を遂げてくるよくわからん生徒なんだが。最近は特に成長が著しすぎる。だからあんたに少しでも相手をしてもらえたらと思ってな』
「アイシー。そういうこと。たしかミッチーは召喚魔法のティーチャーになってたよね? 紅緒が創ったやつ」
『あぁ』
「なのにそんなにスゴい子がいたの? 結構充のこと評価してるんだけど。あたし。手に余っちゃうの?」
『余るな。それと、素がで出るぞ』
「おっと。そいつぁバッド。で、その子の面倒を見て欲しいと?」
『あぁ』
「ふぅん? ミッチーが対応に困る子ねぇ~? たしかに気になる。気になるんだけど。実は今日ミーも気になるボーイを見つけてね。そっちに気を取られてるっていうか?」
『男漁りも大概にしとけよ?』
「したことねぇよ知ってんだろ!? そういうのじゃなくて、単純に気になる子がいたんだよ。話してて楽しい子がね。だからまぁ迷う」
『そうか。まぁ無理にとは言わん。考えといてくれ。じゃあ切るぞ』
「あ、待った! ミーもクエスチョンがあるんだけど」
『なんだ?』
「その遅れて到着する子を見て欲しいんだよね?」
『そうだな』
「でもミッチー二週間前からいるんだよね?」
『そうだな』
「なんで二週間前に連絡を寄越さなかったのかまだ聞いてないんだけど。見て欲しいつっても連絡は先にくれても良かったんじゃないかね?」
『……あんたと関わる時間を少しでも減らしたくて』
「は!? ちょ! 酷くないかマイフレンド!? 数少ない戦友じゃねぇのかよ!」
『それとこれとは別だ。俺はあんたが苦手なんだよ。レックス』
「ぷんすかぽ~ん。もう怒っちまったぜミーはよぉ~。怒っちまったんだぜぇ~? ちょっと面貸せや。今夜飲み付き合いな!」
『……まぁ良いだろう。頼んでる立場だ。それくらい付き合う』
「今夜は寝かさねぇからな?」
『眠くなったら帰る』
「……寝かさねぇからな?」
『……』
「あ、切りやがった。チッ。相変わらずクールでコールドな男だぜまったく」
店の名前と時間を送り端末を谷間にしまうアレクサンドラ。
歩いている彼女の表情に怒りは一切含まれておらず、昔馴染みと久しぶりに会える嬉しさだけがにじみ出ていた。
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