第173話
「……ふぅ」
とりあえずコーヒーを一口飲んで落ち着けよう。コーヒー一杯で冷静になれたら苦労しないけどな。
とりあえず会話を進めて探りを入れよう。そもそもこの人がどういう意図があって近づいてきたのかを見極めないとな。
……得体が知れない相手だからな。敵意がないことを祈るわ。
「なぜ、契約者だと?」
「ビコーズ! 直感だよ」
思わぬ答えに拍子抜け。嘘は言ってなさそうなので余計にな。
「勘って……」
「ノーノー。直感だよ。経験上っていうかなんていうか? マイフレンドに何人か召喚魔法師がいてね。雰囲気が似てたからそう思ったのさ」
「……それだけで断言したと?」
「レディの直感をバカにしちゃいけないぜボーイ? ほとんど超能力とイコールなのだからん♪」
恐ろしいな女の勘。生まれながらの化物ってことだろ? うわーこえー。
「それで? ギブミーザアンサー。その子は契約者かい?」
「……」
声に確信がこもってる。本当にただの確認って感じだな。
はぁ~。隠したところで大した意味もないし。とりあえず明かしてみるか。
「おっしゃる通り。コロナは俺の契約者ですよ。な?」
「ちゅうちゅう。あむ」
おう無視か。クリームソーダ満喫しやがって。
「ん~♪ ソウキュート! 良いな良いな~。ミーにもそんな縁がないかなぁ~? まずグリモア持ってないから喚ぶのもままならないけどねハハハ! 一本取られたぜ♪」
誰に取られたかはわからないしどうでも良いけど。とにかく魔法に関する仕事か立場かはあるらしいな。それも一目で契約者を見抜くってことは相当な手練れ? または天賦の才があるタイプ。うげぇ~エリートさんだったら陽キャっぽい空気も相まって真剣に苦手な部類の生き物かもしれないなぁ~。
「おまちどおさま。ご注文の品です」
「オウ! 待ちわびたよマスター!」
「その割には楽しそうにしゃべっていたようだが?」
「おいおい何を言ってるんだい? ミーはいつでも人生エンジョイしてるさ♪」
「そういえばそうだったな」
苦笑いを浮かべて料理を運んでくるマスターさん。他に店員っていないのかな? 一人で回すの大変そうだな~。
「ふんふん!」
従業員事情を心配する俺をよそに運ばれてきた食事に注目するコロナ。
ふむ。たしかに美味そう。超クオリティ高いな。見た目も香りも。機会があれば次は俺もなにかしらいただきたいね。
「おやん? 二人でシェアでもするの? あむあむ」
すでに向こうは食べ始めてるな。ベーコンとパンケーキを交互にかじってら。合うのかその食い方?
「いえ。コロナ一人で食べますね」
「あ~」
「はいはい」
「あむ。むぐむぐ。むふ~♪」
美味しいらしい。良かったな。
「……もうすぐディナーだと思うんだけど。そんな量食べさせちゃって良いの? お残しはギルティだぜ?」
「こいつは食いしん坊なんで」
「I see♪」
納得していただけたようで良かったよ。心配するくらいなら誘うなって話だが。
「……それで。どうして俺たちに声を?」
もうまどろっこしいことはなしにして、直接聞くことにした。
「腹はもう探らなくて良いのかい? 色々シンキングしてたみたいだけど?」
バレバレか。顔に出さないように気を付けてたんだけどな。
「なんとなく。答えがわかったような気がしまして」
「ふ~ん? 聞いても良い? そのアンサー」
「……特に深い意味はなかったんじゃないかなって。本当にただの好奇心。話したり近くで見たりしたかっただけ……かな?」
「ザッツコレクト! イグザクトリー! 正解だよボーイ。お茶を誘ったのはちょっと気になっただけさ。話してて楽しいと思えたのは予想外の収穫だけどね。ハハハ! あむ!」
ケラケラと笑いパンケーキを頬張る。
つか話してて楽しいって……俺とか? 俺と話してるんだから俺のことか。最初から頭おかしいと思ってたけどこれまた変わった感性をお持ちのようで。
「あーあー!」
「おっと。すまんすまん」
手が止まってたのでコロナに催促される。はいはい。ちゃんと食わせてやるって。
「んぁあ~む! むふぅ~♪」
「ん~! 良い食べっぷり! 負けてられないね! マスター! もう二皿!」
「さっき自分でもうすぐ夕食つってたじゃないか。良いのか? そんなに食って」
「ディナーは別腹さ!」
どんな理屈だよ。
「どんな理屈だよ……」
あ、心の声がマスターさんと被った。ちょっと恥ずかしいね。ポッ。
「ごちそうさまでした」
「けぷっ」
「ふー! 食った食った! また来るぜマスター!」
「はいはい。またのお越しを」
「サンディちゃんばいばーい!」
「今度は俺とデートしてくれよ!」
「そいつぁミーを惚れさせてから言うんだね♪ アプローチから始めな♪」
「……してるつもりなんだけどなぁ」
「努力が足りないってことでしょ?」
「追い討ちかけないでくれよ……」
「ハハハ! またな皆の衆!」
軽いあいさつ(?)をしてカフェを出て俺たちのホテルのほうへ向かう。なんだかんだもう18時。日が沈み始めてるな。
「今日は久々に新鮮な気持ちになったよ。サンキューボーイ。良い午後の一時だった」
「いえ、こちらこそ。ごちそうさまです」
「ユーはコーヒーしか飲んでないけどね」
「コロナはたらふく食ったんで。契約者……いや、保護者なんで代わりにお礼を」
「ふ~ん? しっかりしたボーイだこと」
「そりゃどうも」
……いつまで同じ方向に歩いているんだろう?
住宅区画付近のカフェの常連ってことは島に住んでるんじゃないのか? ホテルと住宅区画は真逆の方向にあるんだけど……。まさか送ってくれてるのかな? 大人の勤め的な感じで。そうだとしたらさすがに申し訳ないな。まずさっさとどっか行ってほしいって気持ちもあるけど。
「あの~……。もう大丈夫なんで。そろそろ暗くなるし自分家帰ったほうが良いんじゃ?」
「ん? それは心配してるってことかい?」
「ええまぁ。観光地とはいえ暗くなってからの女性の一人歩きは危ないかもですし」
「……くひゅ。ハッハッハ! 久々に心配されたぜ! うん! 良い! 素晴らしい! 今日はとってもグッドだぜ!」
「は、はぁ~……。そりゃようござんした……ね?」
言動はともかくこれだけの美人なら心配の一つや二つされるんじゃないか? なに? もしかして腕っぷし強いですか? 魔法関連に詳しいのはまさかそういうことですか?
「イエア! ようござんしたよ!」
で、結局まだ同じ方向へ向かうのね。理由はなんでも良いからさっさと帰れよもう。付きまとわないでくれ。
「あ……あー!!!」
げんなりしてたら急に大声をあげる。何事だし。
「やっべーよ。大事なことを忘れてたよ!」
「大事なこととは」
「まだ名前を聞いてねぇぜ!」
「あ~」
そういやそうだな。コロナは俺が呼んでるからもう知ってるだろうけど。俺とこの人は名乗ってないわ。興味ないから超失念してた。
「さぁ名前を聞かせてくれよボーイ」
聞くなら先に名乗れよと言いたいけど。めんどくさいから良いや。お望み通り名乗って差し上げますよ~。
「天良寺才。学生です」
「オーケーサッチーね。よろしくよろしく~。じゃあミーも名乗ろう。ミーはアレクサンドラだよ」
早速あだ名をつけられ……た……。
「は? あの……。名前……」
いや……いやいや。ファーストネームだけじゃ判断できない。アレクサンドラなんてよくある名前だし……。
「フルネームはアレクサンドラ・ロキシー。ここじゃサンディで通ってるけど普通の愛称はアレックスだから好きな方で呼びなボーイ♪ まぁアレックスと呼ばれても応えないけどな!」
サングラスをはずして改めてフルネームを名乗られ、俺の小さな予想が的中してしまった。
「は、はは……そらどうも」
そりゃ心配なんて誰もしないわけだ。
いやはや。俺ですら知ってるビッグネームとお目にかかり、あまつさえごちそうになるなんて予想外の出来事にもほどがある。
まさか……最もメディアにも露出してる有名な魔帝様が目の前にいるなんてまさに夢のようだよ。
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