第171話

「うし。とりあえずこれで良いな」

「ん。にゃーにゃー!」

「待て待て。まず店員さんに確認してもらわないとだろうが」

「ふがふが!」

 周りの視線。そしてコロナのハグと戦いながらも着替えを終えたし、間違ってないか、似合っているかを確認してもらおう。

 俺の目からは違和感ないけど。一応プロの意見は聞かないと。

「確認お願いしまーす」

「は~――良い……」

 カーテンを開けると待っていた店員さんがコロナを一目見て恍惚とした表情を浮かべてる……ってことは合格かな?

 肩紐のトップスは胸に押し上げられてちょっとお腹見えてるけど、素材のお陰で服自体は破ける素振りはない。ショートパンツもやっぱサイズが小さかったのかホットパンツに見えなくもないけど……まぁまだちょっと余裕はある。だっこしても破れないだろ。素材も丈夫そうだし。

 ビジュアル面。機能面。共に良好かな?

 これは良さそうだしじゃんじゃんやってくか。



「眼ぷk……お買い上げありがとうございました~♪」

「……」

 今眼福って言いかけたなあの店員。良かったな美少女コロナの試着見れて。ついでに売り上げも出て。

 ちなみに、試着したときの画像は佐古先輩に送ってある。したら秒速で。

『後輩テメェよくも私がやった服を脱がせてカジュアルな服を着せてくれやがったなこら! 食わず嫌いしてたけど意外と有りだわ仕入れとく!』

 と、返ってきた。暇なのかな? それともただの超人か。

 ……いや、ただの珍獣だな。あの人について深く考えるのはよそう。服をくれるお姉さんで良いじゃないか。

 さて、都合の良い先輩のことは置いといてっと。このあとどうするかな。買い物も済ませたし。ホテルに行くか?


 ――ぐぅ~。


「にゃーにゃー……」

 と、思ったところでコロナの腹の虫が鳴いた。時間的にもうすぐ夕方だもんな。昼飯からなにも食ってないし無理もない。

「腹減ったか?」

「ん……」

「ホテル行く前になんか買って食うか」

「ん~♪」

 甘える猫みたいに頭ぐりぐり押しつけながらのお返事。可愛いっちゃ可愛いんだが、正直うっとうしいからやめてほしさはある。口にしたら色んなヤツから恨まれそうだけどな。今でさえ赤の他人から羨ましそうな目を向けられてるしな。あと生暖かい微笑ましそうな目。ここは観光地だが俺たちは見世物じゃないぞー。

「じゃあ寄り道するか」

「ん♪」

 さて、なにかコロナの気に入りそうな食い物でもあれば良いけど。テイクアウトできたらなお良し。



 良い感じのクレープ屋があったのでクレープを購入して噴水広場のベンチで食うことにした。

「あ~」

 だっこの状態からそのまま膝に座り対面になったコロナが口を開けて食わせてもらうのを待ってらぁ~。

「あーあー!」

「はいはい」

 急かしてくるのでクレープを取り出す。

 普通のと違ってこれは正方形に完全に包まれているクレープ。中にはコロナの大好物プリンも入ったクレープインプリンアラモード。

 なんかちょっと色々やり過ぎのクレープだけど、コロナの口に合えば良いんだが……。

「ほれ。あーん」

「んあ~……むぐむぐ……。んふ~♪」

 美味いらしい。良かったな。口の周り一発でべちゃべちゃだけど。

 たった一口で口の周りを飛び出したクリームまみれにするのはいかがなものか。もう少し丁寧に食べようぜ?

「……ん」

「ちょっと待て」

 素手でクリームを取ろうとするので慌てて制止。お前の場合その拭いた手の行く道が見えてるだろうが。俺が汚れるわ。というわけで俺が拭く。指で。ハンカチ忘れたから。てへ。

「口閉じてろ~」

「ん~」

 親指で口の周りのクリームを取ってやる。うん。綺麗になったな。さてこのクリームは……舐めりゃ良いか。今さらコロナ相手に気にすることもない。

「あ~」

 と、思ったらコロナが待機してる。それはクレープを求めてるのか指を求めてるのか。

「あー! あー!」

 クリームのついた手を掴まれた。こっちかい。

「ほらよ」

「んみゅ~。ぢゅうぢゅう」

「いって……! 噛むな!」

 普通に噛むならともかくなぜマナを込めたテメェ!? 油断してたから普通に痛かったわ!

「ぢゅぱぢゅぱ」

「……いつまでしゃぶってんの? もうついてないだろ。離せ」

「びゃ」

「だから痛いって……!」

 逃がさないように噛みながら答えたんだろうがこっちからしたらただ痛いだけなんだけど? 俺になにか恨みでもあんのかこいつは……。放置してたこと根に持っては……いるか。じゃなきゃここまでわがまましないだろう。

「んみゅんみゅ。れろれろ」

「……」

 ふむ。さすがにロリ巨乳に指をしゃぶられたままというのはお巡りさんを呼ばれてもおかしくないと思うんだが。そうでなくとも視線が痛い。だけどコロナはお構い無し。どうしよう。

「ワオ! ハイパービュ~ティフォーダイナマイトバディガゥルとおアツいねジャパニーズボーイ!」

「……!?」

 ビックぅ!? ビックリした! めっちゃ個性の強い話しかけられ方したぞおい。

 声のしたほうへ恐る恐る向いてみる。本当は関わりたくないけど。話しかけられたのは俺たちなので反応せざるを得ない。

 声の主はサングラスと帽子を被ってるから正確な判断は難しいが、たぶん二十代の金髪白人女性。髪はリリンみたいに白が強い感じというより金ってハッキリわかるくらいには濃い金髪だな。背は……170ちょいはあるか? 俺と同じくらいはありそう。あとは露出の激しい服でスタイルが良い。だけど見せつけてるというよりか気にしてないって出で立ち。

 ……ふむ。俺の見立てが間違ってなきゃ英語圏出身だと思うんだが……なんで英語片言なんだろ? まずこのご時世多国語話すのは珍しくないし……。色々解せない。

「ん?」

 コロナも俺に釣られて振り向く。指は……離してくれません。

「ワオワオ! フロントから顔面見るとビュ~ティフォーバロメーターマックスだぁ! キュートでクールでビューティフルでバストもばっつんばっん! 本当に地上の生き物かよ神は何を考えてんだ頭沸いてんのか!? クレイジ~~~~~ザス! イエア!」

「……」

 いや、頭沸いてるのは神様じゃなくて貴女だと思います。もうどっか行ってくれませんか? 怖いです。

「ここで会ったがデステニー! 一緒にお茶しないかいジャパニ~ズ? ミーはユーたちに興味津々なんだゼ♪ レッツトーキン!」

 唐突だな? 登場からなにから。そしてもちろん答えは決まってる。

「あ、断ります」

「オーケーわかった。どこに行こうか?」

 今断ったんだけどな~……。全然わかってないよ。もう強制連行らしいです。

 もう周りからめちゃくちゃ注目浴びてるし、この場を離れる口実として使わせてもらう……かぁ~。不本意ながらな。

「はぁ~……おまかせします……」

「よしきた! Follow me!」

 なんで最後だけ発音良くした? 本当わけわからん白人に絡まれたもんだ。不安しかないよ……。

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