第169話
「ぅぇ……」
コロナの服を買うために店に入った瞬間つい
もし、言い訳をさせてもらえるなら。なんていうかこう。雰囲気がな……。明るすぎる。充実してますーって感じ。
観光地の店だから陰気なわけねぇだろって話だけどな。俺が陰気な男だから居づらいだけですはいごめんなさい。
「にゃーにゃー。ふがふが。……あむ」
「嗅ぐのは良いが噛むんじゃない」
「あぐあぐ」
「聞いてんのかテメェ。……まったく」
ハッキリ言ってめちゃめちゃ帰りたいけど。いつまでもコロナをこの格好のままでいさせるわけにもいかない。場にそぐわないにもほどがあるからなぁ~……。あのクソ先輩が黙って普通の服をくれりゃ良かったのに。タダでもらっといて酷い言い草なのはご愛敬。
さて、店に入ったのは良いものの。俺には何が良いかまったくわからないので。店員さんに聞くしかない。めんどくさいわぁ~……。
とりあえず今のうちにコロナを下ろして顔とか体格とかちゃんと見えるようにしないとな。話しかけた後にごねられても困るからな。
「コロナ。一旦降りろ」
「や」
即答。そしてギューっとより強くしがみついてくる。
……うん。まぁ、わかってた。
「店にいる間だけだから」
「や」
「……新しい服着た可愛いコロナ見たいなー」
「………………や」
一瞬迷ったな? 溜めが長かったぞ? どうしてそこで折れてくれなかったのか。
「ほら、降りろって」
「ふご! ふごふご!」
鼻に指突っ込んでひっぺがそうとしても首が後ろに反れるだけでベッタリ張り付いてる。相変わらずの執念だな。感服するわ。
「いい加減離れろって~。服買おうよ~」
「ほごぉ!」
「あ、あの~」
「あ」
「ふご?」
コロナと激しい(?)攻防を繰り広げていると、店員さんが話しかけてきた。
「どうか……なさいました?」
すんごい微妙そうな顔してるわ……。そらこんだけ騒げば当然っちゃ当然か。ごめんなさい。
「騒がしくしてしまってすみません。こいつ……この子の服を買いたいんですが離れてくれなくてですね」
「はぐはぐ! ふんす! ふんす!」
コロナさん珍しくお怒りのようで、鼻息を荒くしながら肩を噛んでる。人前でそういうことをするんじゃない。てか肩がデロデロになるからやめろ。
「あ、そうだったんですね。ご兄妹……ですか?」
「まぁ、似たようなもんです」
「仲がよろしいんですね」
「なつかれてはいますね。見た通り離れませんし」
「んふ~♪」
お? 今度は機嫌良さそう。情緒不安定か己は。てか顔を店員さんに向けろ。反応あるのにずっと後頭部しか見えてなくて困ってるぞ。
「ほら、コロナ。顔こっち」
もう話しかけられてしまっては仕方ないのでもうこのままコロナの服を見立ててもらおう。顔見ればどんな服が似合うかくらいわかるだろ。たぶん。
「えっと~……お嬢さん? お姉さんに顔を見せてくれるかなぁ~?」
「……ほら」
「……ん」
渋々ながら顔を向けるコロナ。
瞬間。
「はぅあ……っ!?」
店員さんの顔が真っ赤に染まる。思うに、コロナが可愛すぎたんだろうな。面は良いからな~こいつ。
「こいつの服見立ててもらえますか?」
「お任せください! いやもう是非に! 先程は兄妹と言ってすみませんでした!」
それはどういう意味かな? コロナが美人過ぎて俺と血が繋がってるわけないって? ほっとけ。実際血は繋がってねぇし。
「ではではこちらへどうぞ~♪」
さっきまで変なものを見る目からの営業スマイルだったけど。今は心の底から楽しそうだよ。
ま、モチベがあるのは良いことだ。その調子でコロナの服を選んでもらおう。
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