第167話

「ま、ま、待て……。待ってくれ!」

 おいおい。今のはこのまま放心したあんたを無視して帰る流れだろ。呼び止めてんじゃねぇよ沈めるぞ。

「……おじさん誰ですか? なにかご用ですか?」

「お、おじ……」

 リリンが引っ張るのをやめて求婚男に警戒したような雰囲気を出しつつ話しかける。本当演技上手いな。その調子で非力な演技もちゃんとしてもらえませんかね? お前のマナ密度だとさすがに遮断し切れなくて痛いんだけどさっきから。

「ま、まぁいい。えっと……麗しのレディ。き、君達は本当にその二人の娘……なのかい?」

「え? そうですけど……。それがなにか?」

「で、でも……ほら! 髪とか! 皆違うじゃないか!」

 ほう。良い着眼点だ。俺は黒。ロッテは黒だが紫がかってるから厳密には同じじゃない。リリンは白金髪プラチナブロンドでコロナは白系の銀髪シルバーブロンド。見事にバラバラだ。

 さて、リリンはどういう言い訳をする?

「髪の色なんて染められるじゃないですか。私もコロナもママも地毛ですけどパパは私と同じ色なのに黒に染めてますし」

「あれ? でも彼はさっき日本人って……」

「チッ」

 俺にだけ聞こえるような舌打ち。ごめん。

 ってかあんた話聞いてたんだな? じゃあロッテも早々に諦めてくれよ。断られてんだからさ。しつこい男は嫌われるぞ。

「日本人でも私のおじいちゃんが向こうの人だもん」

「な、なるほど……。彼女はすでに……」

 お、上手く切り返して求婚男も納得したぞ。これでやっと終われ――。

「しかし! それでもかまわない! 愛の前に障害はつきもの! であれば乗り越えて見せようじゃないか! 安心してくれ。彼女の娘ならば僕の娘も同然。恋人ではなく家族として愛を育んでいこう!」

 なかった。

 え? なんでそうなるの? 発想が飛びすぎててついてけねぇよ。

「はい? ママ離婚してこの人と結婚するの?」

「……!」

 ブンブンととりあえず首を振る。よし。口を開かなかったのは偉いぞ。

「あの……もしかしてイタイ人ですか? ママは美人だしナンパするのはわかりますけど。結婚とか意味わからないんですが? そもそもママにそのつもりないみたいだし」

「ふふっ。彼女はシャイなのさ」

「ママはそんな人じゃありません。娘の私が言うんだから間違いないです」

 娘じゃないけどな。

「ママは断ったんじゃないんですか? あなたのアプローチを断ったんじゃないですか? 付きまとってるだけなんじゃないですか? ねぇ、ママどうなの?」

「あ、あぁ。さっきから断ってるが……」

「ほら」

「いやだからそれは彼女は……」

「はぁ~……。ママがシャイとかどうこう置いといて。好きな人ならちゃんと話を聞くべきじゃないんですか? 断ってるって言ってるじゃないですか。それなのに自分の気持ち押しつけるだけでママの気持ち考えてないじゃないですか。それ本当に好きって言えるんですか?」

「え、えっと……」

「こんな人前で騒ぎ立てて。好きな人にも迷惑かけて。子供が泣いておもちゃをねだってるよりもたちが悪いです。あなた大人なんですよね? だったら人の話をちゃんと聞いてください。TPOをわきまえてください。それから、恥を知ってください」

「……」

 美少女に正論叩きつけられてはなんも言えないか。憐れな男だ。

「じゃ、今度こそ私たちは行きますから。おいかけてこないでくださいね。もしついてきたらおまわりさんに相談しますから」

 リリンは求婚男に背を向けて歩き出す。

 隣に追いついて顔を見てみると……。

「……っ」

 ほっぺ膨れさせた面で笑いをこらえてやがった。ずいぶんと楽しんだようだなこの野郎。

 さて、コテンパンにされた求婚男はというと。

「……」

 周りにクスクス笑われながら膝をついて放心してやがる。笑われてることにも気づいてないねありゃ。

 そら見た目小学生の美少女に論破されたら立ち直るのは難しいわな。ご愁傷さまでーす。同情はしてやりません。自業自得なんで。

 とりあえず、あの様子ならもう気にしなくて良いだろう。これでまた絡んできたらハート強すぎるしな。

 諦めたにしろ諦めてないにしろ願わくば向こうで会わないことを祈るよ。気まずいし。人間性がめんどくさすぎて二度と会いたくないしな。

「お? 見えていたな」

「ん? そうだな」

 リリンと同じ方へ向くと島が見えてくる。やっと目的地に着いたか。

「ここからでもわかるが……随分派手だな」

「まぁ……そりゃあな」

 リゾート地として島を丸ごと使ってるからなぁ~。これで地味だったら金の無駄も甚だしい。

「……」

 にしても、こっから見てる限りだとまったく想像できないな。

 どうしてあんなメールが届いていたのか。

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