第166話
「さぁ! 今すぐ指輪を買いに行こうダーリン!」
「……」
「もしかしてマリッジブルーなのかい? そんなものそれ以上の愛で乗り越えようじゃないか!」
「……」
とうとう無言になって途方に暮れ始めた。これは急いで助けたほうが良いかもしれない。
あ~もう……。わかったよ腹くくりますよ。その茶番に付き合ってやるよ。それを超える茶番でな。
俺にこんなことをさせるんだ。恨むぞ求婚男。機会があったら植えてやるからな。
「ロッテ」
「あ。才……!」
救いの神が現れた的な笑みを浮かべてるところ悪いが。たぶんお前も俺と同じことになるよ。疲労感でな。
「どこに行ってたんだ? つかなにしてる?」
「あ~いや……これは……」
チラッと求婚男を見る。それから気まずい顔をしてどう説明したらいいか悩んでるみたいだな。
まぁ、うん。今のは聞いた俺が悪かった。さっきから見てたし大体わかってる。
「ん? 君は誰だ? 今僕はプロポーズの最中なんだ。邪魔をするなんて無粋じゃないか?」
どう切り出したら良いか悩んでたけど、向こうから話しかけてくれたな。お気遣いどうも。殴ってやろうか。断られてんじゃねぇかさっきから。頭沸いてんのか。いや、今すぐテメェの頭蓋骨で湯沸かしてやろうか。
おっと、今すぐ殺ってやりたい
「へ~さすがロッテ。モテるな~。ひゅーひゅー」
「心にもない事を……。良いから助けてくれ」
「わか――」
「わかった彼が迷惑なんだね!? 今すぐ追っ払ってあげよう!」
――テメェじゃねぇ!
俺とロッテどころか事情を察したギャラリーまでも思ったぞ絶対。そんな空気流れたもん。
「あのさ……おにいさん……。こいつは俺の連れなんで……。あんま困らせないでよ」
「ハッ! 困らせているのは君だろう? さっき彼女が言っていたろう? 助けてと。僕は彼女の願いを聞き届けるために正義の鉄拳を振るうことも辞さないぞ!」
ほっそい体で構えても様にならないなぁ~……。いやまぁフォームはきれいだけどさ。
にしても話が通じないな。頭ぶつけてんのかな。相当打ち所が悪かったように見える。
話し合いで解決できれば良かったなぁ~……。無理そうだな~……。
ってわけで作戦開始。こんなことを作戦と言いたくないけどな。
「っていうか人の妻にプロポーズしないでもらえます?」
「……はい?」
「「「はい!!?」」」
おうおうポカンとした面しやがって。ギャラリーも驚いてら。
……でも一番驚いてるのは。
「ばっ!? わ、儂!? 儂と!? ほ!? へ!? ま、まだしてな――」
急いで近づいてロッテの口を塞ぐ。ん~ちょっと黙ろうか?
お前が変なこと口走ればそれで終わりなんだよ拗らせ処女雌犬。
(合、わ、せ、ろ)
と、アイコンタクトをすると。さすが勘の良いロッテ。察してくれたようだな。
「そ、そうだ! わ、儂らばつが……つが……つがひ!」
「あーはーはー。相変わらずの照れ屋だなぁ~。いい加減慣れろー?」
っていうかもう黙ってろ。顔赤くしてりゃ良いよもう。
「……ハ!? い、一瞬意識が飛んでしまっていた……。いけないけない。日差しに当てられたようだ……。さて、仕切り直して。改めて聞こう。君は何者だね?」
あ、話聞くつもりあるんだ。ありがとうございます。最初からそうしていやがれください。
「……! ……!」
あ、向こうでリリンが声も音も立てずに腹を抱えて涙を流しながら爆笑してる。パントマイムうめぇな。ぶん殴るぞ。
お前が器用なのはわかってるからはよ助けに来い。
「おい! 答えないか君ぃ!?」
「あ」
返事を忘れてた。はいはい。
「ロッテの夫です」
「嘘をつけ!」
「あ、娘です。美人でしょう?」
「……! ん! ふんすふんす!」
コロナがドヤ顔(を本人はしてるつもりだけど鼻が膨れて眉がちょっとキリッとしてるだけで基本ベースは無表情)で男のほうへ振り向く。状況理解してるな。良い子だぞコロナ。
「いやたしかに将来有望なレディだが嘘をつけ! 二人ともその若さで子供がいるわけないだろう!?」
「日本人の血が多いと海外の人には~……」
「何年前の外人象だ!? もうある程度は把握できるわ!」
「俺も妻も若く見られがちで~」
「ちゅま!?」
ロッテ。黙れ。求婚男はそれどこじゃないが周りが微笑ましそうにお前を見てるぞ。あといちいち大きな反応してたらバレる。今のところ良い感じだから邪魔すんな。
「いやそもそもだね……」
「パぁ~パ~! マぁ~マ~!」
「ん? ……ん? ――ぶふっ!?」
声の主を見るとロッテが吹き出す。うん。わかるよ。
向こうから天使の笑顔で手を振りながら走って近づいてきてるもんね。……リリンが。
やっとこさ助け船が来たところで。あとは任せよう。
「もぅ~! なにしてたの!? リリンずぅ~っと探してたんだよ? 良い年して迷子なんてやめてよね!」
ぷんぷんきゃるる~ん♪ ってな感じで俺たちをたしなめる姿は美少女天使な我が子。ハハハ。テメェみてぇな娘は願い下げだわ。第一年上だし。
「……! ……!」
あ、リリンが来た方向にいる人たちが数名床に伏せて口を押さえながらバンバン床を叩いてる。さっきまで俺たちの話を聞いてたもんな。キャラの変わりぶりについていけない気持ち。わかります。
「ちょっとパパ! 聞いてるの!?」
「ごめんごめん」
「心が込もってなぁ~い! リリン本気で怒ってるんだけど!?」
……迫真。こんな娘がほしいと思わせてしまうほど今のリリンは可愛い。もしやこっちが本物なのでは? こっちが現実なのでは? そう信じたいよマジで。
「コロナも! ま~たパパにだっこしてもらってぇ~! もうコロナもいい年なんだからがまんしなさい! お姉ちゃんだってがまんしてるんだから!」
「……や」
きもちわるっ。と言いたげな表情。子供は素直だね。
「まーまー。コロナも甘えたい盛りなんだからー」
「そうやってパパがあまやかすからダメなんでしょう!? そ、そんな風にあまやかすなら私だって……」
「ん?」
「な、なんでもないですぅ~! パパのばーか!」
ここに来てツン混ぜてきますか。高度ですねリリンさん。
普通だったら良い可愛さのアクセントなんだけどどうしてだろうね? 無性にぶん殴りたい。
「もういいから部屋に戻ろう? あとちょっとでとーちゃくでしょ? 準備しなきゃ」
お、これはエスケープの合図だな。そうだよな。もう行かなきゃいけないもんな。だって……。
「~……っ!」
ロッテが口を押さえて白目剥き始めてるし。これは本人的にもビジュアル的にも限界だ。早く行こう。
「ほら! はーやーく!」
腕を引っ張るリリン。おい、もう少し力抜け。指が皮膚を裂こうとしてるから! マナを込めるのもやめろ! 必要ないだろ!
「わかった。わかったから離せ」
切実に。
「だ~め~♪ パパのんびり屋さんだからリリンが引っ張ってあげてるんですぅ~♪」
そう言って天使の笑みを浮かべながら力が増す。俺の腕は出血五秒前です。助けてください。
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