第162話

 色々と確かめた結果。どうやら明日には完全に俺の元いた場所。つまり寮の部屋に正確に繋ぐことができるだろうってことで、最後の夜を過ごすことに……なったんだが。

「ほんま……申し訳ないわ……」

「もういいから」

「私がうっかりしとったばっかりに帰りが遅れてしもうて……」

「もういいって」

「ほんまごめんなさい……」

「……しつけぇなぁ」

「……ごめん」

 布団で顔を合わせてから……どころじゃない。狐狗が帰ってからずーっとこの調子。

 こいつの性格的に罪悪感を感じてるのはわかるけど。いい加減うっとうしいわ。

「で、でも……どう償ったらええか……」

「はぁ……」

 最後だしってことで好きにさせてたけどもう無理。ちょっと黙らせよう。うざすぎる。

「坊……ごめ――うぷ!?」

 また謝ろうとしたんで抱き寄せて顔を胸に埋めさせる。こうしてみるといつもと逆だな。

「んー! んー!」

 なんか言いながらもがいてるな。無駄な抵抗はやめなさい。

「もう夜だぞ。静かにしてろよ」

 俺たちの他に誰もいないけども。

「んー!!!」

 さらに強く抱き締めてやると抵抗が増す。口だけ塞ぐようにしてるから呼吸も苦しくないはずだし。もう今夜は大人しくなるまでこれでいいや。

 っていうか言うほど力入れてないし、抜け出そうと思えばできるのにやってないってことは……まぁお察しだよな。



 二十分狸寝入りを決め込んだらすっかり大人しくなったカナラ。大人しくはなったんだが……。

「すぅー……ふぅー……すぅー……ふぅー……」

 ずっと匂いを嗅いでやがる。コロナか貴様は。

「……」

 あ~……二週間も放置してるから帰ったら反動が怖いなぁ~……。今のうちに対応を考えとかないとだよなこれ。

 とりあえず残った夏休みの間くらいは甘やかすつもりではある。リリンの件から今のこれだし。

 意図してたわけじゃないし、構えるときは構ってたつもり。それでも寂しかったようで気を引こうとお遊戯会みたく保護者おれに隠れて練習してた。

 今回はそもそも構う構わない以前の問題として俺が失踪してるからな……。帰ったらちょっとくらい過度に甘えさせてもバチは当たらねぇだろ。むしろ蔑ろにしたほうが問題だわな。

 本当はあまりしたくないけど。風呂もしばらくは俺が入れるかぁ~。カナラのおっぱいを知った俺はロリ巨乳ごときに屈することはないのだ。

 あの戦いでさらにリリンに近づいてるお陰でそういった気持ちも意識的に抑えられるしな。もうあんま気にしなくて良いんじゃないかってなってる。

 幼児を風呂に入れるのは保護者として当然の義務だな?

「ふぅ……んっ……。んふぅ……」

 ……ん?

「ぅ……ふぅ~……ふぅ~……。ぁ……」

 んん~?

 大人しくなったはずのカナラだけど。なんか呼吸がおかしいぞ~? モゾモゾピクピクとどうしたんだ~? 体調でも崩したかぁ~?

「ぁ……んっ……坊…………坊……。ふぅ~……んふぅ~……っ」

「……」

 えぇえぇ。わかってますよぉ~ナニをしてるかくらい。

 不自然な呼吸に落ち着きのない小刻みなモゾモゾとピクピク。そしてどんどん強くなる匂い。これでわからないほど俺は鈍くない。

 はぁ~~~~~~~~~……。

 ナニをおっ始めてんだよテメェは! 人の腕の中でよ!

「ん、ん~……っ! はぁ……んふぅ~……」

 と、叫びたいのを我慢してる俺を誰か誉めてはくれまいか。

 いやまぁさすがにオ○○ーを指摘することに気まずさを感じてるだけなんだけどね?

 まず寝てるとはいえ(起きてるけど)目の前でおっ始めるのが頭おかしいけどな。

 とりあえず。なんで俺が気を遣わなきゃいけないのか甚だ疑問だが、俺が気まずい空気を吸いたくないからって無理矢理納得しよう。

「ふぅ……ぁ……んぅ……」

 かといって、この状況が長引くのも望ましくないのもある。

 はぁ……仕方ない。手伝ってやるかな。

「ん……ん~……」

「ぇ……ぁ……」

 抱いてる腕に力を入れつつ足を絡ませる。

 ……下にやっていた手を押し上げる形になったけど。わざとじゃないです。本当に。

「はぁ……はぁ……。坊……坊……っ」

 より体が密着したことでテンションが上がったのかさっきよりも呼吸も動きも荒くなる。

 夢中になるのは良いけど、いや良かないけど。俺を起こさないようにすることだけは忘れないでほしい。

 つかお前、本当は俺を起こすのが目的じゃなかろうな? それ全部わざとじゃなかろうな?

「ん……っ。んん~……っ!」

 お? 腕の中で一際大きくビクビクと震えたな。ってことは。

「はぁ……はぁ……。ん……ふぅ……。はぁ……」

 荒かった呼吸を整え出したな。やっぱり終わったらしい。

 ふぅ。これでやっと静かな夜が戻ってくる。お前もスッキリして安眠できるだろ。さっさと寝ろ。

「……あ、あかん。これじゃおねしょした思われる」

「……」

 独り言とはいえ生々しいことを言うな。そういうのは思ってても言うな。秘めろバカ。どういう意味か想像しちゃっただろうが。人間やめたとはいえ思春期男子だぞ。気を遣え。バカ。

「き、着替えにいかんと……」

 そんなにか。お前の寝間着って和風で浴衣みたいなのだと思うんだが? え、そんなになっちゃってんの?

 俺は寝てる体だし気になっても聞けないのがもどかしいぞおい。

「ちょ、ちょっと失礼するよぉ~……」

 モゾモゾと腕の中から、そして布団から抜け出す。

「ふぅ~……」

 カナラは煙を出して姿を消す。ここには着替えは置いてないから屋敷に取りに行ったんだな。

 仮にあったとしてもこの場に脱いだ寝間着があったら不自然だし隠す必要もあるしどっちにしろ戻っていたろう。

「はぁ……」

 まったく。日に日に大胆になっているとは思ったが、最後の最後でとんでもないことやらかしてくれたな。

 初で臆病かと思ってたけど認識を改めなくちゃだわ。初で臆病で相手が寝てればめちゃくちゃ大胆でドスケベって記憶しとこ。

 まぁ、今日に関しては最後の夜だし……。いや、だからってやって良いことと悪いことはあるけどな。次こんな機会があっても全力で自重はしてほしい。

 しかし、とにもかくにも。もう過ぎたことだし色々考えるのはよそう。

 ただまぁ……なんだ。あいつにとってはなかなか良い思い出になったんじゃないかな。

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