第161話

「ふぅん? まぁ。当人達が納得してるならええんと違う?」

 縁側に座って足をプラプラさせる狐拘。

 俺とカナラの関係を説明すると一応納得してくれたようだな。

 膝枕とかイチャイチャしてるようにしか見えなかったから疑問符も当然だったから説明したけど。貶されなくて良かったなカナラさんよ。

「妾ならそこまで気に入っていたら嫁にしてもらいますけどね~。これが本当の狐の嫁入り」

「しょうもな……」

「別にええやないの。年取ると詰まらん事言いたくなるんですぅ~」

 最初からずっと楽しそうな狐拘と不機嫌そうなカナラ。結局この二人ってどういう関係なんだろ? こういう関係って言われたらそれまでだけど。聞いたら答えてくれるかな?

「なぁ。二人ってどういう関係?」

「ん~? 唐突やなぁ~? そない気になるぅ? 煙魔はんと妾の関係。仲良い所見て妬いてもうた?」

「へ!? ぼ、坊妬いとるん? そ、そらちょっと嬉しいけど相手が相手やしなぁ~……。この尻軽との間勘繰られても微妙やわ。そも仲良ぅないし」

「尻軽とは失礼ちゃう? 一応男は一生に一人と決めてるんやけど?」

「そら自分何度も甦っとるからやろ。今十回目の生やないの。十生やん。最低十人やん。私から見たら十分軽いわ」

「まだ十人目はおりまへんえ? まだ次の旦那は探し中です~。それに知ってますやろ? 妾は孕んだ子に魂移すさかいに。一生に最低でも一度は良いひと見つけなあかんねん」

 スケールが大きくてついてけねぇ~。年齢は聞いてないけど人間の寿命で十回目なら……とりあえず六百才は越えてるのかな?

 いや、京うんぬんってなると全然倍はありそう。偏見だけど。

「あ、今世はそこな男子おのことかええかもねぇ~? あんたはん尻尾これ、数えとったやろ? これ視える人は希なんよね~。つまりは才覚があるゆう事よね。……それに、よく見れば中々にええ面構えやわ~。そそるわ~。んふ。たぎってきたわ」

 え~矛先向けちゃいます~? いくらマナでできた尻尾が視えるからって早計だと思うぜ?

 なにより俺にはカナラという未来の愛人がだね。

 いやまぁ美人だしワンナイト的な関係もやぶさかでは……。うん。二年半後なら有りかもしれない。

 カナラがいながらこんなこと考えてるあたり最近の俺ってどうかしてんなぁ~。他人だったらいっそ死ねって思ってるね。

「なぁ? 妾とどうや? 意味はわかるよねぇ~? 別に取って食ったりせぇへんし。一度だけ種くれたらええから。あ、もちろん本気になってもええよ? 飽きたら捨てるけど♪」

 答えてもないのに捨てる言われた。僕、悲しい。やっぱり俺にはカナラしか……なんつって。

「……最近興味がある事があってなぁ~」

 ん? 唐突にどうし……あれ? また不機嫌度が上がってないか? どうした?

「狐狩り。してみたい思うとんのよねぇ~。特にはしこくってけたたましくてよう盛ってる雌狐とかね。活きが良さそうでええと思うわぁ~。昔は何でも鍋にしとったけど。狐は一度もした事ないし。捌いてみたいなぁ~? どんな中身しとんのやろ?」(特別意訳:このひとに軽い気持ちで手出したら腹ぁかっ捌いて中身かき出してやるからなクソビッチ)

 ……なるほど。俺がナンパされて、さらには捨てられると聞いて怒ってるのか。

 そういう意味でとらえるなら、本気なら別に良いよと聞こえなくもないんだが、そのあたりどうだろう?

「お~こわ。ほんの可愛いらし冗談やないの。本気にせんでよ。相変わらずお堅いんやから」

「私が言わんかったらほんまに坊に手を出してたやろ? 誤魔化せる思たん?」

「んふ。ほんま煙魔はんにはかなんなぁ~。よう妾をわかっとるねぇ~? 概ねうとるわ」

 え~マジで俺食べられちゃいそうだったの? 性的な意味で。半分冗談かと思ってたわ。

 カナラもあんたも趣味悪いな~。眼科とかいけよ。まず医者がいるか知らないけどさ。

「それで、いつまでおるつもり? というか何しに来たんよ。あ、やっぱり答えんでええわ。さっさと往ね。それが一番嬉しいわ」

「これまた随分な物言いやねぇ~。いつもより刺々しくて怖いなぁ~」

「ええから用がないなら帰って。あんましつこいとしばくよ」

「あらあら~あらけない事そんなんじゃその子に嫌われてまうよ~?」

「……!」

 バッてこっち振り向いて不安そうな顔してるところ悪いけど別になんとも思ってねぇよ。って意味を込めて狐狗に見えないよう軽く手を撫でてやる。

「~っ//////」

 するとすぐに顔を赤くする。頑張って狐狗にバレないように振る舞ってるが……あのニヤケ面からしてバレバレだな。

 この人(狐?)もカナラで遊んでいやがるな? そう思ったらなんか仲良くできそうだわ。

「んふふ。今日の煙魔はんはほんまおもろいわ。飽きる気せえへんなぁ~ずっと見てられるよ。でもまぁあんまもったいぶるのもいけずやし。答えてもええんやけど。そもそも妾が足を運ぶのなんていつも気まぐれやないの。それなのに聞いてくる方がおかしいと思うよ?」

「そ、それは……別に他意はないよ」

「その子との時間を邪魔されたくないから用がないなら帰ってほしいし。用があるならはよ話して追い返したいんやろ?」

「……」

 図星だな。あからさまに目をそらしやがって。おい。俺と目が合ったからってまた顔を赤くするな。見下ろしてないと本当初だなお前。

「まぁ今回は理由があるんやけどね。この前気配が断たれたから気になってなぁ~。すぐに来ようと思ったけど道繋がらへんし心配しとったんよ? 元気そうで良かったけど。実のところ何があったん?」

 あ~そういう。恐らくあの影を使う気色の悪い山羊のせいだな。

 あれから数日経ってはいるけど、余波みたいなのが残ってやっと今日訪ねることができたってところか。

 狐狗のほうはやっぱりカナラのことが好きみたいだな。カナラはそうでもなさそうだけどな。

「別に。ちょっと変なのが迷い込んだだけ。それが道塞いどっただけや。それ以外は特に大した事はなかったわ」

「……角へし折られて仮面も外して男と隠れ家で二人きりで大した事がないねぇ~?」

「なぁに? 文句でもあるん?」

「んふふ。別に~? とにかく元気そうな顔見られて良かったわ。あんまし男女のあれこれを邪魔するんも無粋やしね。馬に蹴られんうちに帰るわ」

 馬の前にカナラに蹴り殺されそうだわ。「蹴る」って聞こえた瞬間足がピクリとしたからね。

「そいじゃあまたね~。気が向いたら二人でこっちに遊びにおいで~」

 そう言って立ち上がり歩いていく。ある程度離れると蒼白い火が狐狗を包み込んで跡形もなく消え去っていった。どうやらカナラと似た能力があるようだな。

 ところで、一つ気になることがあるんだが。

「なぁ」

「ん~?」

「あの狐狗って人。異界から来たんだよな?」

「そうね~」

「ってことは俺ももう帰れるんじゃないかな」

「……」

「お前、帰り方探してた?」

「……わ、忘れとった」

「……」

「……ごめん」

「もういいよ」

 今日中に何とかしてくれたら許してやるわ。今日中ならな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る