第159話
「「ずずぅ~……はぁ~……」」
縁側で飲む茶がうめぇ。ここは空の色も普通で青空に白い雲が漂ってるから余計にそう感じるね。
って、なんかジジ臭いな……。隣に煙魔もいるし老夫婦かなこれ。さすがに気が早すぎ?
いやまぁ煙魔は十二分に婆さんだけどさ。実年齢的に。つか化石レベルか。おっとこれは失言だな。こんな色っぽい化石があってたまるかってな。
「ん? どうしたん?」
横目で見てたのを気づかれた。だからなんだって話だけど。
……ふむ。今日はいっそなにもしないのも良いかな。ってわけで。
「よいしょ」
「へ!? ぼ、坊!? な、なにして……」
わざとらしく声を出して煙魔の膝に頭を乗せる。
隠れ家に来てからはゴテッとした着物よりシンプルなやつのが良いと要望を出したら快く受け入れてくれて、今は時代劇の町娘スタイル。お陰で煙魔の太ももの感触もよく伝わるわ~。
細いけど骨ばってるわけでもなく。程よい肉付きなんだよな煙魔って。なので足もね。うん。やわい。
「も、もう。坊ってば。やっぱり甘えん坊さんやな」
「そういうわけでもないんだが。お前。こういうの好きだろ?」
「…………うん」
「だからだよ」
「はぁ~。まるで私に意を汲んでるみたいな言い方やねぇ~? 別に構へんけど」
「……嫌ならやめるが?」
「ダ~メ。もう少しこのまま。……あ、折角やし。このままお昼寝してええよ?」
「あ、そう? じゃあお言葉に甘えようかな」
それはさすがにお前が辛くないか? とも思ったけど。ものすっごいニヤケ面晒してるし。良いや。足がしびれて泣きそうになるまでほっとこ。そもそもしびれないかもだけどな。
「ふふっ。ほんま寝てる坊は
「……」
視線が気になりすぎて寝れねぇ。
ほっぺとか頭とか撫でられるのは気持ち良いし、着物越しからも香る煙魔の匂いも落ち着くし、眠気を誘う要素はあるんだけど。なにぶん視線が強すぎる。熱視線だよ熱視線。
さらに、気づいたことがある。
こいつの母性スイッチが入るタイミングっていうか傾向についてな。どうも目線の高さ、自分と相手の位置とかで入るみたい。
頭を抱えてるときとか膝枕してるときとかこいつが見下ろす形になるんだが。そうなるとカチッと入るようなんだよな。少なくとも頭抱えてるときは必ず入ってる。
他の連中はわからないが、少なくとも俺に対してはそうっぽいんだよな。
目線の高さ以外のスイッチはまだわからないけど。これからちょっとずつ試して行こうかな? あざとく甘えてみたら母性刺激できっかな? ……やっぱ暴走しそうだかやめとこう。なにされるかわかったもんじゃない。
「ふふっ。ほんま食べちゃいたいくらいやわ~……」
それはどういう意味でだろうか。性的な意味で? 食事的な意味で? どっちの意味かね? 角折れようが鬼ってことを俺は忘れてないぞ。故にお前のその台詞洒落にならないってことわかってる? 自覚ある?
「……キメの細かいお肌。綺麗な髪。ここだけ見ると女の子みたい」
それは言いすぎじゃないか? 俺別に中性的な骨格はしてないぞ? 地味で健全な男子だと思うんだが?
いやまぁ肌も髪もリリン譲りで美しくなってしまったけど。自分で触っても気持ちいいからなこれ。ハンパねぇキューティクルでっせ。
肌もすべすべだしな。シミ一つないどころか手入れなしでも美白を維持ですよ。日焼けに負けるな美白男子ってなもんだ。
ふむ。そう考えると髪と肌だけならば存外女子力は高いのかもしれない。いや本当手入れなしってのが本物の女性たちに申し訳なく思うけども。
「唇……やらかい……」
って、まーたお前は調子のってどこに指を……。おいこら口をなぞるんじゃないって。おいたが過ぎるとどうなるか未だに学習してねぇなお前? 三秒以内にやめないとやっちゃうぜ?
3、2、1――。
「……あむ」
「ひゃひ!?」
這わせていた指をくわえると、すっとんきょーな声が出たな。
「~~~~~~~~~っ//////」
そしてお決まりの紅潮。ざまぁみさらせ。昼寝を促しといて人の顔ベタベタ触るからそうなるんだぞ。あとジロジロ見るのも気が散るしな。
と、思いつつも正直当て付けという自覚はある。俺が煙魔にイタズラするのが好きなもんで。無理矢理理由つけてやっただけ。お陰で煙魔のこの顔が見れて満足です。
さて、あとはすっとぼけるだけだな。まずは指を離してっと。
「……んぁ」
「……!」
勢いよく指を抜いてそれから自分の指先を眺めてる。俺の唾液がテラテラ光っててエロいね?
「………………」
「……ん?」
なんか、眺めてる時間が長いな。早く拭けば良いのに。なにがした――
「……はむ」
「……!?」
こ、こいつ。こともあろうにくわえやがった。俺やリリンならともかくまさか煙魔がそんな大胆なことをやるとは……。
「良い……お味……」
「……いや美味しいのはなによりだけども。なにやってんの? お前」
初なお前にしては珍しすぎるだろ。どうした? 頭でも打ったか?
「何って……坊が先にくわえたんやないの……」
そりゃそうだけども。俺が言いたいのはそうじゃなくてだな……。
「俺はお前がやったことに驚いてんだよ。ちょっと前まで軽く誘惑しただけで参ってたくせに」
風呂んときとかな。
「そ、それは……! そうやけど……うん。そうやね。ちょっと舞い上がっとるかも……」
「……? なんで?」
「わかっとる……くせに……//////」
「…………………………あ~」
女にするうんぬんって話ね。はいはい。三日前だけどまだ上がってたのねお前。
ってそうだ。良い機会だし少しあのことについて話しておくか。
「……そのことなんだが」
「ん? なぁに? あ、やっぱりなしっていう……? そういう話?」
「そうじゃなくて。ほら。ちょっと曖昧なまま終わっただろ?」
「はぁ~……」
この顔はピンと来てねぇな? チッ。説明面倒だな。
「お前とする約束はしたけど。それだけだったろ? お前はそれで良いのかなって思ったんだよ」
「ふぅん? ええんちゃう?」
他人事か。まだピンと来てねぇなこの野郎め。
「抱いて終わりで良いのかって聞いてるんだけど?」
「うん。わかっとるけど……?」
「え。わかっててそんなとぼけた顔してんの?」
「とぼけたて……。仮面つけとったから自分ではわからんのやけど。そんな顔してる?」
両手で両頬ムニムニし始めた。まったく深刻に考えてないご様子ですね? 仕方ない。ちょっと気が引けるけど。もう少し攻めてみるか。
「抱いて終わり。一回ヤって捨てるってこと考えないのか?」
「……」
目をパチクリさせて良い淀む。さすがに気づいたろ。最悪な可能性に。
「え。それの何がアカンの?」
全然違った。しかもピンと来てないのは理解してないってことじゃなく単純にどうでも良いってベクトルだったっぽい。
え? なに? お前そんな軽い反応しちゃうの? なんでどうして? 俺理解不能。
「お前……ヤり捨てられても良いの?」
「した後よね?」
「あぁ」
「じゃあええよ。好きな男に初めてを捧げられたのなら満足やもん。……そ、そら坊の……その……孕みたい……けど//////」
生々しい話を混ぜるな。……最初から生々しかったけども。
ってか。え~……。おま、お前……。どんだけ都合の良い女なの……。ちょっと引く。
「……じゃあ仮に。俺がしたいときだけ顔見せたりってのもあり得るんだが?」
「な、何回も会いに来てくれるなら……そんな幸せな事あらへんよ//////」
「……夫婦になりたいとか考えないわけ?」
「そらあかん」
なんでやねん。
ヤり捨てられても良いのに嫁にはなりたくないんかい。自分メチャクチャやで~?
「坊はええ男やもん。私じゃ釣り合わんわ。おままごとならともかくとして、誰がなんと言おうと坊が望もうと。私が坊の妻になるんはあかん。許さへんよ」
「……」
いやいや。むしろ俺が釣り合ってない気がするんだけど? 俺からしたらお前都合は良いわ。料理は上手いわ。美人だわで非の打ち所が基本的にないもん。
強いて言うなら実年齢くらいか? それも見た目これだし加齢臭しないし。それどころか甘ったるい匂いだし。あってないような非ですよ。
「でも……そうやなぁ~。坊が気にする言うんなら……一個お願いしようかな?」
チラチラと期待したような目を向けてくる。あざとい。
「……言うだけ言ってみろよ」
自分の好きなときに弄んで良いとかのたまう女の願いの一つや二つ聞いてもお釣りが来るからな。余程の事じゃなきゃ聞いてやるよ。
「カナラ……坊にはそう呼んでほしいなぁ~……って」
「ん? なにそれ」
カナラ? 方言かなにかか? と、思ったけどどうやら違うっぽい。
「誰も呼んだ事のない。呼ばせた事のない私の名前よ。煙魔は通りなやからね。名前言うても漢字は決まっとらんけど。一応大昔は『神を薙ぐ修羅』で『
残酷なことを口にしてるけど、そんな寂しそうな目で言われると……な。
まぁ別に難しいことじゃないし。好きな男に下の名前を呼ばれたいってことなんだろ? それくらい叶えてやるよ。
「お前が望むなら。次からそう呼ぶよ」
「……ふふっ。嬉しい。……早速。呼んでもらっても……ええ? わがまま言うて悪いんやけど」
「……」
言われてやるのは恥ずかしいんだが……。初回サービスくらい良いか。この程度わがままにも入らねぇしな。
「カナ――」
「やっとこさ足を運べると思いきや。なんや珍しゅう光景やなぁ~?」
「……!」
名前を呼ぼうとすると、急にバカデカいマナの気配と一緒に声が。
煙魔――カナラほどじゃないけど一体なにが……?
「煙魔はん。それが素顔かいな? もっとグズグズの想像しとったけんど。思ったよりも普通やね~? 詰まらんわ~。でも、男侍らせてる所拝めたんは中々に運がええわ♪」
「……
「ため息とはご挨拶やなぁ~? 京にいた
突然現れた着崩した和服を纏うオレンジ色の神をした女はカナラの知り合いか?
あ、目があった。そしてすぐにお辞儀をされる。あ、どうもどうも。
「あ、お初にお目にかかりますぅ。妾は
九尾って……そう名乗ってはいるけど……。おかしいな。俺の目にはあんたの尾は十本に視えるんだが?
はぁ……。また変なヤツが現れたなぁ~……。
「どうぞ。よしなに」
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