第158話
あれからさらに三日。ここに来てもう二週間になるかな。
この三日。またここでの日常で変わったことがある。
「あら? もう起きてもうたん?」
朝、目を覚ませば必ず煙魔がいるということ。
まぁ単純に居座る場所が屋敷の部屋から煙魔の隠れ家に移動して、そこに二人でいるだけなんだけどな。
その隠れ家がなんていうか……昭和のこじんまりとした家。って感じで、どれくらいこじんまりとしてるかっていうともうね。前いた部屋より狭いね。
前が寝室だけで十二畳くらいで今寝室とかわけられてない一室のみで八畳だから。ちゃぶ台と布団でほぼいっぱいいっぱいなんだよな。
……いや別に狭いことに不満はない。煙魔曰く、一人でゆっくりするならこのくらいの広さが良いって気持ちもわかるしな。
ここに俺を移動させた理由も、雪日から隠すためってのもありがたく思う。いつまた寝首をかきに来るかわかったもんじゃないし。ここは煙魔しか知らないからその心配が消えるのは普通に嬉しい。
ただ、一つ思うところがあるとすれば……。
「ふふっ。おはよう。坊」
「あぁ、おはよう」
「はぁ~……今日もええ朝やね。可愛い寝顔見られて幸せよ。でも……もう少し寝てても良かったんよ?」
「……」
このためにわざわざ隠れ家に連れ込んだと思わなくもない。初で
「……とりあえず。離してくれない?」
「もうちょっと……ダメ?」
寝るときは必ず俺の頭を抱えてる。つまり今もふわふわおっぱいに顔を埋めて心地は良い。
ただもう朝だし起きたいから普通に離してほしかったんだけど……。頬赤らめながら目潤ませてねだるなよ。この体勢好きなの知ってるけどさ~……。
「はぁ……。好きにしろよ」
「ふふっ♪ おおきにな♪」
まぁ、俺が折れるんですけどね。罪悪感も残ってるし。ちょっとくらいは好きにさせようとは思ってる。
「ほんま……可愛いなぁ~。いくら撫でても飽きひんわぁ~。髪もサラサラやし……って、そういえばやけど。また髪の色変わったねぇ~? 最初は黒で、この前金色になって。ほんでまた黒に戻ってるね?」
そうそう。俺の頭金髪からまた黒に戻ってるんだよね実は。
つっても特別なことはしていない。投影の応用で俺の記憶から自分の髪の色を写し取っただけ。ただそれだけだと時間が経てばまた金髪になるから、脳みそに現状の色を維持するよう働きかけてる。これでなんとか夏休みデビューでイキッてると思われなくて済みそうだよ。便利な能力と体だよまったく。
「どっちも好きやけど……黒のが馴染みがあるからこっちのが好みかも」
「さいですか」
それはようござんしたね。
「髪と言えば。お前もいつの間にか切ってたよな。あと角も折れてたけど完全に根元からなくなってるし」
あのとき……戦ってたときは長かったよなこいつ。どうして切ったんだろ? イメチェン?
「あ~……あの時傷んでもうてな。お手入れしてもどうにもなりそうになかったんよ。せやから思い切って……な。角も元に戻りそうになかったから……」
少し寂しそうな顔。まぁ女の命とか言われてる髪に鬼のシンボルたる角がなくなればそうもなるか。
「えっと……坊はどっちが好み?」
「ん? なにが?」
「な、長いのと……短いの……」
「あ~……ん~……」
難しい質問だな。短いときはともかく長いときはそもそも仮面とか髪留めで長いことも知らなかったくらいだし。ほどいてるところ見たのは戦闘中のあのときだけだから比較が……。
まぁ、でも想像はできるからそれで比べてみるか。
……。
…………。
………………。
「短いほうが良いかな。今のが俺は好き」
「……ほ、ほんま? 短い方がええんや……。……丸刈りにしよかな」
「待て待て」
短いにも限度があるわ。つか軽いな? え、お前って俺がハゲにしろつったらしちゃうくらい髪とかどうでも良いの? それともそれくらい俺のこと好きなの? 後者だったら愛が重いな?
とりあえず丸刈りは阻止しよう。せっかくの美人が台無しになりかねない。
「あ、坊。動いたらあかん……よ」
煙魔の腕から逃れて目の位置を合わせる。それから頬を撫でつつ髪へ手を伸ばす。
「今が一番良いから。お前はこの長さが俺は一番好き」
「……! わ、わかった……。こ、こ、このままに……しとくね……」
思い止まるのも早いなぁ~。お前、本当チョロいよ……。
俺が悪い男だったら酷い遊ばれ方して捨てられてるところだぞ。いやまぁ十分もてあそんでるけどさ。
つか、抱く約束はしたけど。それ以上は求めて来なかったな? 嫁とかなんだとかさ。
もしそれがうっかり忘れてたとかじゃなくて意図的だとしたら……。体だけ捧げたら良いってことだよな?
お前……本当にそれで良いのか? 俺が心配することじゃないけど。つか当人だし。
「ん……ふぅ……」
……まぁ、今幸せそうだし。良いか。そのあたりはまたいずれ話し合えば良い。最悪……って言い方は悪いけど。嫁にもらってやるよ。今のところ相手なんざ決まってないからな。
それで向こう行ったとき良い出会いがあって、俺が捨てられるとかになったら盛大に笑うけどな。
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