第157話

「おい」

「……」

「おいって」

「…………」

「おーい」

「………………」

「ふむ……」

 会合は解散し、広間には俺と煙魔しか残っていない。

 ちなみに雪日も残ろうとしたがまたややこしくしそうだからと強制連行された。

 ってことで一応落ち着きはしたんだけど、これからどうしたら良いかもわからないし煙魔に動いてもらいたいんだが……。

「……」

 このダンゴムシ丸まったまま動かないんだよな。どうしようか。どうしてくれようか……。

 呼びかけても応えないならなにをしても良いのではと思い始めてるので~。嗜虐心がうずくので~。これはもうなにかしら一発――。

「……ごめんな」

「ん?」

 と、俺がやる気になったと同時にいきなりの謝罪。くそう。これからってときに……。

 で? なんの謝罪なのかねそれは。

「その……色々話大きくなってもうて……。あと勝手にその……~~~~~~っ//////」

「あ~」

 まぁ……そうだな。お前がやらなきゃこんなことにはならなかったな。当然の謝罪ではある。

 ただ、一つ足りないっていうか。理由のほうをちゃんと聞きたいんだよな。「したかったから」だと曖昧だからな。一応きちんと確認は取らないと。まぁ、大体見当はついてるけどさ。話の流れ的にも。こいつの反応的にも……な。

「まぁ……なんだ。わかった。謝罪は受け取る。そもそもあんまり怒ってないし」

 理性が強くなってしまったもので。感情の欠落まではいかないけど大分ドライだよ。だからこそやらかしてるわけだしな。

「ほんま……?」

「あぁ……それよりも聞きたいんだけど」

「……な、なぁに? 私で答えられるなら答えるけど……」

 やっと体を起こしたな。仮面はつけっぱだけど……。そのほうが良いな。これからちょっと恥ずかしいことするし。効果的とはわかってるんだがさすがにちょっと抵抗あるんだよな~……。今からすること。まぁ、やるんですけどね。

「理由を聞かせてほしいと思ってな」

「理由? なんの? っ!?」

 グイッと身を寄せて煙魔に詰め寄ると、正座のまま後ろに手をつく形になる。これで丸まるのは難しいだろ。

「夜に俺のところに来た理由。聞かせろよ」

「そ、それはもう……言った……やん?」

「したかったってやつだろ?」

「そ、そう……」

「……」

「ひゃ!?」

 煙魔の肩を掴んで押し倒す。仮面を取って顔を近づけてやると、すぐに顔が真っ赤になって目も潤み始めた。エロいな。

 ……てか、逃げようと思えば簡単に逃げられるはずなのになんで逃げないんだろ? マゾなのかな? まぁ良いや。続けよう。

「それじゃあダメだな。ちゃんとわかるように言えよ」

「わ、わかるように……って?」

 まだしらばっくれるか。じゃあ逃げ場をなくしてやるよ。

「お前が。俺をどう思って。夜に。部屋に忍び込んで。朝までいたのかを。言えよ」

「……っ。そ、それは……」

 目の潤いが増していく。もう泣きそうなレベルで。可哀想とは思うが……むしろそれが良いんだけどな。そそるわ~。お前のその顔すごいそそるわ~。

 しかーしここはグッと我慢……してるかは微妙だけども。今はいじめたい気持ちはできるだけ抑えよう。……できるだけ。

「ほら、言えよ。もったいぶらずに」

「もったいぶってるわけじゃ……」

「じゃあなんだよ」

「…………いけずやわ」

「あん?」

「ほんまは……わかっとるんよね……? 坊は聡い子やもの……。それなのにわざわざ言わせようとして……」

 そりゃあお前を見てれば誰でもわかるわ。俺がどうこう関係なく。

 でもこれは意地悪とかいじめとかじゃなく。確かめなきゃいけないって思ったからやってるんだよ。俺の勘違いだったら……そのが良いと思うしな。

「良いから。言えよ」

「……」

「ちゃんと言えたら……そうだな。一個くらいはお前の願い叶えてやるよ。無理なことじゃなければ」

「……!? ほ、ほんまに……?」

「俺にできることならな」

「わかった……言う……よ」

 釣られてくれて助かったよ。これ以外に俺が切れるカードがないからな。これで無理ならお手上げだったわ。

 さてと。それじゃあ、聞かせてもらおうかな。お前の本心を。

「……好き」

「……」

「坊が……好き……。それだけが理由……よ」

「……そうか」

 大体はわかってたけど……。いざ言葉になると重く捉えちまうな。今までしちゃったことに罪悪感が出てくるわ。

 だけど、これで答えが出た……ってわけでもないと思う。もしかしたらこいつの勘違いって可能性もまだあるからな。初めてキスした相手だからってのもある。だから今度はこいつ自身に自分のことを確かめさせないと。

「なんで好きなんだ?」

「……無粋よ? 好きな理由聞くとか」

「良いよ別に。むしろ俺のこと好きってほうが頭おかしいんじゃねって思ってるくらいだし。お前、俺に色々意地の悪いことされたんじゃないの?」

「そう……やね。い、色々された……。でも……嫌な事は一つもあらへんのよ。坊にされた事で。何一つ嫌って思った事ないよ?」

「え……」

 やっぱりMなの? マゾなの? だから俺のこと……。

「何よりも。私の見た目誉めてくれたのが……嬉しかったんよ」

「見た目って……」

 見た目誉められたから好きになったって……チョロ過ぎるだろ……。そりゃあコンプレックスなのは知ってるけどさぁ~。

「なんか勘違いしてるかもだから言うけど。現代じゃお前は美人だからな? 今なら男のほうから寄ってくるぞ。帰り方わかったら新しい出会いを求めて俺と一緒に一度行くのも良いんじゃないか?」

 俺なんかより良い男なんて山ほどいるしな。お前のこと大事にしてくれるヤツだって絶対いるぞ~。俺なんかに構わず、普通に探したほうが

「……それが本当でも。私は坊がええよ。坊が……ええんよ。少しだけやけど……一緒にいて、そう思ったんよ。これが……私の気持ちやから。たとえ坊でも踏み込めない所やよ。坊でも異を唱えるのは許さへんから」

「あ、そう」

 真面目な顔で言われるとこれ以上は……無理だな。認めるよ。お前の気持ち。

 言わせるだけじゃ悪いから。俺もお前へ思ってること。伝えてやるよ。

「ハッキリ言うけど。俺はお前のこと――」

「……え、ちょ、ちょっと待って! い、言わんでええから!」

「はぁ?」

 せっかくサービスしてやろうと思ったのに。なぜ止める?

「それ、内容によっては私立ち直れない気ぃするから……言わんでええ……」

「……別にお前が傷つくようなことは言わねぇよ」

「ほ、ほんま? じゃ、じゃあ聞いてみよ……かな?」

「……たぶん」

「言わんでええ。もうこの話、終わりにしよ。部屋に戻ろ」

 必死か。さっきまでどもってたのに急に滑舌良くなりやがって。そりゃたぶんって言っちゃった俺も悪いけど。お前にとって悪いことはほとんど言わないよ。

「聞けって。……正直今まで会った女でもかなり魅力的。一番を争うくらい」

 ちなみに争ってるのはリリンとな。

 ただあいつの場合は尊敬と感謝が強いから比べて良いのかも迷うけど。魅力的ってのも生物的な本能的な感じであって趣味趣向ってわけじゃないし。むしろそのへんの話なら圧倒的に煙魔が好み。

「へ?」

 わけがわからないって顔だな。加えてフリーズしてやがる。ちょうど良いからしばらく止まってろ。

「お前の顔も。仕草も。あと、体も。ものすごい魅力を感じてる。今すぐ襲いたいくらいな」

「~~~~~~~っ!?//////」

 お? フリーズからは回復したか。真っ赤は言わずもがな、さらになんとも言えない表情になってる。嬉しいのかな?

 でも悪いな。ここから少し落とすことになる。

「ただ、俺は一線越えないって決めてんだよ。大人になるまで……あと二年半は誰一人として抱くつもりもない。本当は必要ないんだけど。まぁ、一度そう決めたからな。自分で決めたことくらい守ろって意地がある」

 それこそそうしたいからしている。ってやつだな。キスとか裸で抱き合ったりはしても。絶対その先へは行かない。

 もちろん学校卒業したら解禁するから、機会があったら飛びつくと思う。理性強しとはいえ男の子なんでね。シたい気持ちはあるもん。仕方ないよ。

「じゃ、じゃあ……。待ってたら……ええの……?」

「ん?」

「坊が大人になったら……わ、私を女にしてくれ……る?」

 強い意志がうかがえる目だな。無駄に。

 はぁ……こんなこと……って言ったら失礼か。こいつにとっては一世一代のことだろうし。

 まったく……。俺なんかのなにが良いんだかな。唇奪った責任取れ~って言われるほうがまだ納得だね。はっ。趣味の悪い女だよお前は。

「良いよ。二年半後。お前の望み、叶えてやるよ」

 だから、勝手に責任感じておくとする。その気にさせられて裏切られるのは……辛いからな。

 ただ、初めての相手に俺を選んで、そのときになって後悔しても知らねぇからな。

「……ふふっ。ダメ元……やったけど……言ってみて、良かった……わぁ~……。……楽しみ……に、待ってるね」

 涙をこぼしながら笑みを浮かべてる。そんなに嬉しいかよ。

 あ~あ。未来のことはわからないけど。この調子だと俺、三十才童貞まほうつかいになることはなさそうだな。

 ……いや魔法師のほうにはなるつもりだけどね?

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