第156話

 と、なると聞くべきは……。

「なぁ。あいつって男性経験あるの?」

「……俺の記憶が確かならば……ないぞ」

「儂も同じく」

「うちもガキの頃から見てるが……見た事ない。全員同じはずだべ? だって姐さんにずっとべったりで男嫌いだもんな。あるわけねぇべや」

 まず俺以外に男見たことないんだけど。触れないほうが良いんだろうか? なんかやらかしたヤツがいて殺した的な話は聞いたから闇が深そうで怖いけど。

 ……よし。聞くのやめよう。今はそんなことより冤罪を晴らさなくては。

「……じゃあそもそもそういう行為の詳細がわかってないんじゃん」

「……だな」

 なんとなーく添い寝してただけで決めつけられて殺意

「失礼な事を言うな。姉達の汚い話を聞く機会もあるし。男女の行為くらいわかる」

「……例えば?」

「男が女を抱くのはイヤらしい行為!」

「「「………………」」」

 うん。声高らかに言うことじゃないしドヤ顔してんじゃねぇはっ倒すぞ。

 それにさ。お前の言う抱くってたぶん……。

「あ~……セツ。抱くってどういう意味かわかってるんか?」

「……? 妙な事を。男が女を抱き締めたらそれはイケナイ事でしょうに?」

「「「………………」」」

 一部の鬼達が頭を抱える。うんまぁ。気持ちはわかるよ。いくらこの中じゃ若いとはいえ昭和生まれだもんね。無知にも程がある。煙魔の事を初とか言えねぇぞこの純粋女。

「ほっといた儂らも悪いが……ここまで物を知らんとは……」

「これじゃ姉貴が股開いたってのも……」

「でも添い寝はしてたんだべ? ならヤる事ヤってる可能性はまだ残ってるべ」

「ん~? 結局のとこ、赤飯はいるのか?」

「だか……ら!」

 ずっとひそかに悶えてた煙魔がとうとう起き上がる。

 そしてこちらも声高らかに反論を始める。

「だから私はそういう事してへんの! 坊の寝てる所忍び込んで一緒に寝はしたけど坊は朝までぐっすりやったし、ほ、ほ、ほ、他にナニもしとっ……らんから! セツの早とちりなんよ! だから……だから……――私は! まだ! 処女! ですぅぅぅぅぅぅう!!!」

 ん~……。途中までは良かったんだけどなぁ~。なんで最後ぶちこんでしまったかなぁ~。

「~~~~っ/////」

 またダンゴムシになった処女って大声で言うのは普通に恥ずかしいわな。やらなきゃ良いのに。お前はバカなのか?

「「「………………」」」

 無言で立ち上がる鬼たち。そして全員が雪日のところへ向かう。表情は……読み取れない。

「痛っ!?」

「「「姉にナニ言わせてるこのバカ妹!」」」

 そして雪日の頭をはたく。

 うん。スカッとはしたけど。煙魔の発言に関してはお前らも真偽確かめる前にガンガン話を進めたのも原因だと思うぞ? 最初から煙魔に事情説明させてたらそこのダンゴムシも赤くなる必要は……いや、なんだかんだ初だし、赤くはなるかな。

「……? ……? 何故私が頭を叩かれなければならないの?」

「セツはもう黙っとけ。あとは俺達が進めるかんよ」

「お前がでしゃばるとこじれる」

「意味がわからない……」

 わからないままで良いよもう。おとなしくしてろよ。

「……っ」

 おい。なぜ俺をにらむ? 今のはまったく俺関わってなかったよな? お前が無駄に話デカくしたせいだよや? つか『ねや』って本当の意味知らずに使っただろ? 辞書引いとけ辞書。ここにあるか知らないけど。そもそも紙媒体のモノなんてほとんど見たことないけども。

「あ~……それで? 姐よ。何故に夜這い染みた事をしたのか聞こうか」

 お。やっと本題。それは俺も知らないから普通に興味ある。

「………………から」

「ん? すまんが聞こえんかった。もう一度言ってくれるかの?」

「だから……そうしたかったから……。坊の寝顔見たかった……だけやよ……。あまりに可愛いから我慢できず抱きついてしもたけど……」

 かぁ~わいいこと言ってんじゃねぇよ。あざとすぎるわ。ナチュラルあざといわ。

 他の連中もなんか顔赤くしてプルプルしてる。雪日も含めてな。たぶん心の声は――。

(((うちらの姉がめちゃくちゃ可愛い……!)))

 ってところだろう。

 普段の煙魔を見るに、比較的落ち着いてる感じだから。こんな可愛い一面を見せられたらギャップ萌えが激しくてしんどいわな。

「と、とにかくだ。ある意味ではメズが正しいかもだぞ。確かにめでたい」

「ね、姐さんが男に手を出した事には変わりないからな。やはり赤飯炊くべ」

「だ、だ、だだ、だ、出してへん……よ?」

 わかりやすく噛むな。左右の人差し指を合わせてせわしなくグルグルさせんな。怪しく見えるぞ。

 って思ったけど。なんか鬼たちは話に夢中だななにを盛り上がってるんだ?

「出したか出してないかは問題じゃなかろうよ」

「いえ、問題でしょう? 煙魔様を汚した罪どう償って……」

「黙れ阿呆。折角姉貴が気に入った男を見つけたんだぞ? 賊やってた時でも誰一人として犯さなかった姉貴が男に触れたんだぞ? 戦場以外で。この好機逃してなるものか」

「この小童は姐ぇと共にあの化物を仕留めた傑物けつぶつじゃしな。力のみで言えば不足はないわ。中身は……姐ぇが気に入っとるくらいじゃし。腸の腐った男ではないだろ」

「ぬぅあは! 姉御の稚児ややこの顔を拝める日も近いがか?」

「ち、ち、ち、ちち、ちちち、ち、稚児て……! 皆して何の話してるんよ!?」

 ん、ん~? なんか話がおかしな方向に……。

 とりあえず拷問やら処刑やらの危機は去ったけど。また別の問題が浮上してない?

 なんか俺。永久就職先決められそうじゃない?

 さすがにここは拒否っとかないと不味いよな……。

「俺、今のところ誰かと関係持つつもりないんだけど……。あと二年半以上は……」

 一応人間だった頃に自分で決めたことなんで。これくらいは守りたいんでさーせん。煙魔さんは抱けませんごめんなさい。その人はまだ処女のままです。

 ……二年半後は……わからないけどな。そのときになってまだ繋がりがあったら手出しちゃうかも。場合によっては無責任な形で。

 うっわ。想像したら本当にヤっちゃいそう。現時点で大分煙魔にははっちゃけたことしてるもん。このまま俺のクズ度が増したら煙魔さん弄ばれちゃうね? 可哀想に。

 だったらやらないように気を付けろって話だよな。努力はするよ。努力は。実るかは別としてな。

 ……未来のことは置いといて。俺の発言により再び殺気だったこの空気をどうするかだなぁ~。

「うちらの姉貴分に文句があるなら聞くぞおうこらクソガキ」

「こんな良い女その気にさせといて……。責任取るのが男ってもんだべ? 腹くくれ」

「……煙魔様に操を立てるならば今回の件見逃そう。本当は嫌だが煙魔様が幸せになるならば……! くぅっ!」

「帰る方法もわかっとらんしの。いっそ夫婦めおとになって身を固めるのも良いじゃろ? ……しかし、儂らの大切な姉貴分なんじゃ。泣かせればどうなるかわかるな?」

「小僧。早く子を作れ。他の奴らは孕むのは好まなかったから結局産む事もなかったが。姉御の子なら早く見たいがや」

 この野郎共……好き勝手言いやがって……。

 なんか煙魔のため煙魔のためって言ってるけどなぁ~。

「……いい加減その大事な姉貴分を見てみろよ」

「……ん?」

「あんたらが好き勝手言うせいでくたばってるぞ」

「「「……!?」」」

「……もう。ほっといて」

 煙魔に限界が来たところでとりあえずこの場はお開きになった。

 ……ただ、まだ長居するようならまた呼び出されて煙魔とくっつけって迫られそう。

 煙魔は良い女だし嫁にしたら尽くしてくれそうだけどさ。少なくとも今する話じゃないんだよ。

 だから煙魔よ。早く俺をお家に帰しておくれ。

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