第151話
「はいどうも~。食事をお持ちしましたよ~」
「いつもありがとうございます……。ん? 二人分?」
夕食時部屋に飯が届けられる……のは良いんだが、二人分あるな。となると。
「一つは煙魔様の分ですな。……食べちゃダメですよ?」
「食べねぇよ。それよりも、あいつももうきっちり回復したようで」
あの戦いからここ二日くらい自室で寝込んでたけど。もう良いようだな。ま、今朝の風呂で元気なのはわかってたけども。
「もうすっかり元気になられましたな。今日は珍しく腕を振るわれて――」
「腕?」
「いやなにも」
気になる区切り方だな……。そこまで言ったらもう全部話してくれよ。
「とにかく今日から食事は全てここで取るとのことなんで。失礼のないように」
「……今さらな気がするんだが? だってもう口とか――」
「口?」
「いえなんでも」
危ない危ない。うっかり口を滑らせるところだった。バレたらえらいことになるのは目に見えてるから気を付けないと。
「途中で止めるのやめてくれませんかねぇ? 気になるんで」
「お互い様ってことでお互い見逃す方向で」
「……良いでしょう。とりあえず煙魔様はもうすぐお見えになるんで私はこれで」
食事の準備をして早々に去っていく女中さん。いつも無言だけど今日に限って話しかけてきたな。今日はなんか特別なことでもあんのかね? それか煙魔の復帰だから負担かけるなとかそんな旨の釘刺しとかかな?
もしも、そういう意味ならごめんなさい。もう俺やらかしちゃってまーす。
でもバレなきゃ罪って罰せられないから。煙魔が口をつぐんでおけば俺は安全なのです。ふはは。俺マジ最低。
「ん?」
部屋に漂う料理の香り……いつもと違うな。
料理に混じってるこの匂い……って。
「あぁ~……」
なるほど。腕を振るうってそういう。あいつの性格を考えるに俺に黙って振る舞おうとしたわけね。で、つい女中さんは口を滑らせちまったと。
でもこれ遅かれ早かれ気づくぞ? あいつって言い方悪いけど体臭キツいっていうかなんていうか。
いや臭くはない。臭くないけど。すんげぇ甘ぁ~い匂いで、しかも強いんだよ。香水でもつけてんのかなってくらい。
でも戦ってるときも風呂のときも同じ匂いしてたし、たぶんアレがあいつの体臭なんだろう。
むしろ風呂のときが一番匂い強かったもん。それまで風呂入れなかっただろうからな。体臭だとしたら強くなって当然だわな。
「さて、と……」
あいつの体臭のことはひとまず置いといて。どうしたものか。
言わぬが花的な感じで? 向こうも黙ってるんだろうし? だから口止めされてる的な雰囲気出してたし? 俺も黙っとくべき? それとも気づいたことを教えてやるべき? そのが喜ぶか?
「う~ん……」
「坊~? 入るよ~?」
と、考えてる間に本人が来ちまった。
あ~……もう良いか。深く考えるのはよそう。成り行き任せで良いや。めんどくさいし。
「あぁ。どうぞ」
「うん。それじゃあ失礼しますぅ~」
自分家でご丁寧なこって。俺とか居候みたいなもんだから気にしなくても良いよ。
ま、気遣い屋のお前には逆に難しいんだろうな。
「……」
「……坊? なんや今日は随分大人しいねぇ? どっか悪いん?」
「いや、別にそういうわけじゃない」
「ほう? ならええけど」
現在、煙魔が部屋に入って食事を始めてるわけなんだが……。
「……」
俺は今困惑している。
何に困惑しているってね。煙魔にだよ。大人しい理由は聞いてきたお前のせいです。原因がお前です。
「ずずぅ~……。うん。良いお味」
俺の困惑なんて露知らず。お吸い物をすすってやがる。紅さした口でな。
仮面は今さら素顔知ってる俺の前でつける必要ないのはわかる。だから今もしてないんだろう。
でも今日のこいつ。化粧してるんだよ。
元々白い顔は
よくこういうときって化粧慣れしてないヤツが無理して化粧して大失敗超絶ブス化みたいなパターンだと思うけど。残念ながら(?)煙魔は普通に綺麗だ。
花魁とか舞子さんとか想像したらわかりやすいかな? あんな感じの純和風美人って感じになってる。全然悪くない。
ただ、意図がわからない。なんで化粧してるのか。
すっぴん知ってる相手に大層な化粧して来るってどういう……。
「う~ん……」
いやまぁいくつか……ね? こういう理由なんだろうって可能性は浮かんでる。浮かんでるけど。俺にそんなってさ。こんなクズ男にそんなことあるわけって。思うよね。
「坊? やっぱどっか悪いんちゃう? 正直に言って? ね?」
「あ~……」
よし。もう聞こう。仮に突っ込まれたくなかったとしても知らん。気になるようなことするお前が悪いんだからな。
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