8月 前編

第133話

 ……陳腐でありきたりなことを口にしても良いだろうか? 別に良いよな? 誰が聞いてるわけでもなし。うん。言っちゃえ。ではお決まりの台詞を言おう。

「ど~こだここ?」

 夏休み初日の(たぶん今は)朝。俺こと天良寺才は、知らない場所で目を覚ましました。案外焦りがないことに一番驚いてます。



 気を取り直して、現状の把握に努めよう。

「……ふむ」

 赤い土。赤い空。黒い雲。枯れ木がチラホラ見えるが今のところ生き物の姿どころか他に見当たる物がない。

 ……本当になんだここ? 地獄かなにか?

 まぁ、とにかく。歩いてみる……かぁ~。まーた当てもなくさまようのね俺。他にやれることないから仕方ねぇけどさ。

 さて、と。ただ歩くだけじゃ前と変わらない。……いや、これからやることも前とほぼ同じだけどな。投影で能力を模倣していくだけだしな。

 ただ今回は漠然とリリンの存在を写すんじゃなく、ロッテの野生の感覚を少し取り込もうと思ってる。動物の感覚なら他の生き物の居場所とかもわかるかもだし。なによりあいつの直感は見えない相手の頭も正確に掴むくらい鋭い。もうそこまでいると直感っていうか超能力だが細かいことは気にしない。

 まだ不安だし、あんまり一気に投影するのは控える。そのうち境界線もわかると良いけど。少なくとも今はわからないし、ちょっずつやっていこう。



 思ったよりもあまり投影せずに生き物のところまでたどり着けた。たどり着けたんだが……。

「ハッハッハ……ッ!」

 よりにもよって中型犬サイズの野犬の群れ……。……いくらロッテを投影したからってそんな分かりやすく。

 ……とりあえず、見たことない種類の犬だし。大人しい犬種の可能性もある。ちょっと様子見してみ――。

「「「オ、オォォォォォォォォオン!!!」」」

 ようかと思ったら数匹の野犬の遠吠えによって数十匹に増えましたとさ。しかも全員目が血走ってよだれダラダラのだらしない顔。

 こりゃもうあれだな? うん。弱肉強食的なやつだよな?

「ガロァ!」

 早速一匹突っ込んできた。でも速くはない。マナも特別強いわけじゃないし、体の構造からして奇怪な動きができそうでもない。気性の荒い野性動物だなこいつら。だったら。

「きゃいん!?」

 まずは一匹顎を蹴り砕く。この程度なら影はいらない。

「ガルル……」

「お?」

 よだれまみれのアホ面晒してる割にバカじゃなさそう。一匹迎撃しただけで警戒して慎重になりやがった。

 群れの一匹がやられたら逆上して襲ってくる。ってイメージあるんだけど、こういう行動取られると頭良いな~とか思っちゃうよね。その思考がもうなめてるわけだけどな。こんな考え自分のが頭良いと思ってなきゃ浮かばねぇもん。

「ぎゃうぎゃう!」

「オォォン!」

 おっと、様子見が終わったのかまたこれも様子見のつもりか今度は数匹まとめて襲ってくる。しかも連携取ってこっちの動きを誘導してるな。統率が取れててうっとうしい。

「ふむ」

 どうしようかコンマ二秒ほど考えた結果。真正面から行くことにしました。なめてるわけじゃなく。力量の差は測れたから小細工が必要じゃないだけ。まぁぶっちゃけると、策を弄するくらいならさっさと終わらせて次の生き物を探したいんだよ。

「ふっ!」

「ぎゅび!?」

 一番先に突っ込んできた……恐らくは隙を生むための捨てゴマを最小限の拳打で始末。さっきの手応えでわかったけど、こいつら脆い。振りかぶったり回転加えての蹴りとかしなくてもとりあえず骨は持ってける。

 疲労感は感じないけど、一応省エネでいく。

「がうがう!」

「ぐぅあう!」

「……よし」

「ぎゃい!?」

「きゅう!?」

 次に突っ込んできた二匹は片や頭、片や首を取っ捕まえる。このあとの展開はもちろん。

「お引き取りくださーい」

「「きゃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいん!?」」

 群れへぶん投げる。心なしか二匹とも涙目だったな。絶叫系苦手?

 ……えっと~? 目算十八匹巻き込めたな。上々。

「さて。お次はどうする犬畜生ども」

 おっと。畜生とか言っちまったよ。また口調が移ったか? すぐに気づいたけど口にしたのは無意識なんだよな~。これが投影の影響なのかただ耳に残ってて口にしちゃったのかはわからないけど、前者だと怖いな~。あーこわ。

「「「……!? ぎゃうぎゃう! きゃいん!」」」

 ん? これから本格的に襲われっかなってときに退散していきやがった。俺との差に気づいて狩れないと悟ったのか……。それともこの後ろのバカデカい威圧感満載の気配のせいかな?

 振り向くとそこにはデカくてゴッツい人がいた。

 人間に会えた嬉しい! ……って状況でもねぇんだよなこれがさ。

 目の前にいる人の特徴がな。まずさっきも思ったが、デカい。2mはある。しかも筋肉もミケ以上に搭載してるし、なによりも角と牙がある。肌は若干赤くて髪も真っ赤っか。鎧の胴体部分だけをつけて金棒を肩に担いでる。

 ここまでくれば誰でもわかるよね。鬼です。景色も相まって鬼としか思えません。そんなのが荒々しいバイオレンスな雰囲気醸し出してたら喜んでる場合じゃないわな。

「犬共が騒がしいと思たらがよぉ~。なんぞ活きの良い小僧っ子がいるがぁ~よ!」

 おうふ。なに言いたいかはなんとなくわかるけど訛りが酷すぎるな。……どこ訛り?

「ぬぅあはっ! 犬相手じゃ児戯にもなるまいが! オラが相手したるがや!」

「は? いやあの……」

 断る! ドシンドシンと地面踏み鳴らしながら近づいてくんな。俺はもっと平和的にいきたいんだよバカ。

「オラも久々に戯れられそなのが現れて猛ってるがや。もし余って殺したら許さんでええがよ。存分に恨み尽くせが!」

「……」

 ねぇ~え~。返答待とうよ~。一方的に話し進めんなよ~。迷子に優しくねぇ鬼だな。

「おっと。殺り合うなら名乗るのが死合試合ゆうもんが。うっかりするところがよ。――我、不浄鬼頭ふじょうきとうが一の妹分。瑪頭飢めずき。よろしゅうがよ小僧っ子」

 いやどうでも良いわ。名乗りとか口上とかどうでも良いわ。……つか、妹分? ってことは女なのね。ゴツ過ぎて鬼とゴリラのハーフかと思ってたよ。よく見たら顔は中性的だななるほど。

 にしても、日本語っぽいけど訛りが酷くて所々よくわからなかったが……つか本当になに訛り? ……とにかくまた現地人に襲われることだけはわかりました。

 クソッタレ。えぇえぇわかりましたよ。相手してやるわ。どうせまともに会話できないんだろ? 最初からお話ししようとしても問答無用なんだろ? もうわかるよ。だってすでにヤル気満々だもん。まずはぶん殴って落ち着かせてから会話に入らせてもらうわ。

 ……ふと、コロナのことを考えちまうな。遊ぶ約束してたからなぁ~……。今ごろどんな面してんだろあいつ。



 ――場所は変わり。才がいなくなってると気づいた時のコロナ→(´◎д◎`)!?

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