第132話

「終わったようだな」

「……そっちもな」

 妹が超猟奇的な姿になってもまったく動じてないなお前。まぁ身内をバラバラにして木にくっつけて永遠に放置するようなヤツだし今さらか。

「で、どんな感じよ? 戻れそうか?」

「……フム。簡潔に言えば否だ。力そのものは以前に戻れるだろうがどうにも体がな……全然戻らん。このまま定着させてしまった方が早いという結論が出る程困難な状態だな」

 正直俺は前のちんちくりんより今のが魅力的エロくに見えるからわざわざ戻らなくても良いけどな。俺ら基準でちょっと小柄ってくらいには背伸びてるし。今なら世間様にも咎められないわ。

「まぁ、前の体にこだわりがあったわけでもない。さらに言えば体を戻そうとしてたから調子が上がらなかったくらいだしな。一度定着に踏み切ったらもう足元もフラつかんわ。クハハ」

「あ?」

 つまりあれか? 特に今のままでも問題ない部分の解決に一週間使ってたってことか? ハッハッハ。ふざけんな。心配させやがって。俺が心配するのもおこがましいとは思うけども。

「それにしても……。お前も随分強くなったものだな? クハ。改めて以前よりそそる存在になった」

「ん? 見てたのか?」

 首を横に振るリリン。「我の正確な位置を把握し切れんとはお前もまだまだだな」と言わんばかりの面がちょっと腹立つ。もう粗方治ったんなら一発くらい殴っても良いんじゃないだろうか。病み上がりだからって調子乗んなよ?

「い~や? 現状に妥協した時から我の感覚器官その他諸々随時戻ってな。それで気配を感じ取っていただけだ。まぁ目覚める前からお前が大分変わっていたのは知っていたから言う程驚いたわけでもないがな。むしろ他二つのがよっぽど我を楽しませたぞ」

 他二つっていうと……ぶっ倒れてるのとバラバラのか。

「メイドのほうはなんとなくわかるけど。お前の妹もか?」

 楽しませたってことはなにかリリンの知らない要素。驚くこととかがあったってこったろ? 戦っていたわけだから思ったより強くて驚いたとか? でもお前の妹ってんなら強くて当然だよ……な?

「こいつは頭の出来が悪くてな。血族において、潜在能力だけなら我に次ぐというのに、実に勿体ない宝の持ち腐れ甚だしかったのだが。お前との戦いでほんの少しだけ伸び代が出てきてなぁ~。クハハ! この伸び代をモノにすると良いんだがな。そしたら我の遊び相手にもなろうよ」

 話はわかったけど……。頭持ち上げてプラプラしてやんな。可哀想だろ。……俺がそんな風にしちまった張本人だけどさ。

「さて、帰るか」

 投げ捨てんな。時間が経てばそんな姿でも元に戻るんだろうけど……。たとえ不死身でも不憫すぎるわ。

「はぁ……。ところで、あっちは良いのか……って、あれ?」

 妹のほうは言っても仕方ないとわかってるからリリンのメイド――ディアンナのほうへ目をやると、いつの間にか消えている。あ、あれ? ほんの二、三分前まで転がってませんでした?

「ん? どうした?」

「いや、お前のメイド……」

「メイド? あぁ、ディアンナか。あれはお前が目を離した隙にネスが屋敷へ回収しにいったぞ。我の血が混ざっているし、ぞんざいには扱うまいよ。……いや、むしろバラされかねんか? だが我の性格は知ってるはずだしな……。釘を刺しておくべきだったか……?」

 なんでわざわざ俺の隙をつくのか。嫌がらせ? そんでお前はお前で不安になってるし。なんだかんだあの人も良い人だし、ケガ人を趣味に使ったりしないだろ。……たぶん。

「……深く考えまい。なるようになるだろ」

 そしてリリンは考えるのをやめた……てな。俺もやめるよ。あの人について考えるのはお前で悩むこと並みに無駄だからな。

「そんじゃコロナも待ってることだし。さっさと帰るか」

「だな。癇癪を起こされても敵わん」

 最近は良い子だけどな。ただお前が元気になってるからそろそろ爆発しても……おかしくないような気がするんだよなぁ~……。



 お姉様……。あぁ……このマナはお姉様の……。弱々しくも確かにこれはお姉様の……。良かった……ご無事だったんですね……。でも……少し、大きくなられましたか? 体に異常があるのですか? ……あれ? また異界に行くのですか? そう、ですか……。きっと、次会う頃にはお力も戻っていますよね。だって、お姉様だもの。………………良かった。……本当に、良かった。……ご無事で。


 リリンが頭を持ち上げた時。リリアンはリリンの安否を確認する事ができた。

 音は聞こえずとも、眼球は傷ついていても、マナは感じる事ができた。少しだけだが思考する脳も残されていた。だから感じる事ができた。

 リリンの安否を知ったリリアンは、安心して意識を閉じていった。



「……」

「ふん! ふん!」

「…………」

「ふん! ふん!」

 ……帰って早々。俺は何を見させられてるんだろうか? いや、なにをしてるかはわかるんだ。

 まず俺を座らせ、曲を流し始め、コロナが音楽に合わせて踊り始めた。うん。これだけなら可愛らしいなぁ~で済むかもしれないな。

「ふん! ふん!」

 ……でもさ? ダンスがすんごい本格的なんだけど? ちょっと引くレベルで。え? なにその足さばき。その挑発するようなセクシャルな腰の動き。どうしちゃったの? お前。俺があんまりにもお前置いて出かけるからグレたの?

「……ん?」

「……実はな」

 ロッテが小声で事情を耳打ちしてくる。

 ……なるほど。俺が忙しいから陰ながらアニメのダンスを練習してたと。落ち着いた時に俺に披露して、驚かせて、誉められたい一心で頑張って覚えたと。そんな流れがあったのか。

 ……引いてごめんなさい。俺が悪かった。でも贅沢を言わせてもらうと、もう少しこう……子供らしい可愛い躍りが良かったかな? 急に本格的なムーンウォークとか見せられるとビックリしちゃうからさ。またお前の目的とは別の意味で。

「……ふん!」

 ダンスが終わり、決めポーズを維持しつつドヤ顔のコロナ。目をキラキラさせて誉められ待ち。

 ……うん。気持ちはすごく嬉しいよ。俺なんかになついて、俺に誉められたいから頑張ったんだもんな。だったら応えないといけないよな。保護者として、な。

「すごかったぞコロナ。よくそんなダンス覚えられたな。偉いぞ~」

「むふ~♪ むふふ~♪ にゃーにゃー♪」

 誉め方を知らないので言葉自体は雑だが、ほっぺむにむにした後にだっこしてデコ合わせたり、コロナが喜ぶスキンシップをしてやる。するといつもよりちょっとだけ上機嫌な鼻息になったな。

「クハハ。イチャイチャと羨ましい事で」

 ……帰って早々ゲームやり始めて今もこっちに目を向けてないくせによく言うわ。本当にもういつも通りだなお前。ま、その様子ならもうコロナをほっぽってお前のために色々奔走しなくて良さそうだな。ロッテにも負担かけなくて済むし、平穏な日常が戻ってきそうでなによりだよ。

 ……そろそろ八月。これから夏休みに入るし、七月の間気を遣っててもやっぱほっとく時間が長かったからな。たくさん遊んでやるよ。

 ロッテにもちゃんと礼をしないと。料理うんぬんの話もあったし。教えてくれる人探さないとな……。

 リリンは……やっぱ夏だしプールとか海とかにコロナを連れて行きたいな。ってなるとリリンにはエロい水着でも着せて目の保養でもしよう。最早俺は割り切れる男となった俺に自重はないぞ。

 他にもミケたちにも色々誘われるかもだし、他にも色々ありそうだな。

 そう考えるとまだまだ忙しそうだわ。ま、夏休みならそのくらいがちょうど良いよな。

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