第127話

「御苦労様」

「どうも」

 ゲートを潜るとまず労いの言葉をかけられる。本当に苦労したよ。何が一番苦労したかって。

「あのさ。聞きたいんだけど」

「ん? なんだ?」

「ゲート開けるんなら最初に突き落とす必要あったか?」

 ないよな? 絶対ないよな? なのになんで落とされなくちゃいけなかったの? 納得のいく説明寄越せ?

「あの程度で死なないだろうし、死んだらその程度だろう?」

 ぐぅの音もでねぇんだけど。死んだらそれまでとか言われたらもうなんも言えないよ。もう良いです。それで。無理矢理納得することにします。

「改めて、御使いとしての役目。見事果たしたようだ。それに、良い経験も積めたようでなにより」

「白々しい……。全部わかってたんだろう?」

「さて?」

 とぼけたような雰囲気。やっぱ全部こいつの目論見通りって感じっぽいな。まぁ、お陰で短期間に色々経験できたから良いけどさ。

「しかし、汝も地に良い影響を与えたのは驚いた」

「は?」

 俺なにかしたか? 現地人殴って殺してその他生き物いじめた記憶しかないんだけど。

「汝の戦いを見た者達は皆あれから力をつけようと励んでいる。この世界はこれより荒れる故、その前準備として良い刺激となったろう」

「はぁ。荒れるのか。そら大変だな」

「興味はないか?」

「ない。たぶんもう二度とここには来ないだろうし」

 力ももらったし対価として仕事もしたしな。他に用があるわけでもないし。知り合いはできたが思い入れがあるわけでもない。だから特に来たいとも思わないから来ない。それだけなんだよな。

「それはどうだろう? ……時を置き、束の民達は他の部族へ刃を向ける。簡潔に言えば戦争が始まる。汝には関係ないかもしれないが、介入する気まぐれを起こすかもしれない」

「あ~……」

 戦争ってなるとそうかも。大量の生き物が無差別に襲いかかってくるってなるとワンパターンだが、人間の頭がそこに入るだけで別物になりそうだからな。

「でも時間かかるんだろう?」

「是。そちらの世界で言えば数年は」

「じゃあそんときになったらまた声かけてくれたら良い。……俺が必要と感じそうだったらか。そっちが俺を必要と感じたら、な」

「わかった」

「話は終わりか? じゃあ俺帰りたいんだけど」

 今は夕方ぐらいか。もうすぐ日の入りだしさすがに待たせ過ぎた。帰ったときのコロナが怖すぎる。最近良い子にしてたしーって油断はしないぞ。いつ爆発するかわかんねぇからな。普段できるだけ甘えさせてるとしても不安なものは不安なんだよ~……。

「少し待て。土産を渡そう」

「土産?」

 投影の力ももらったし別に……。くれるってんならもらうけども。

「新たに生を授かった我が子だ。汝に託そう」

 託卵かな? 違うか。つか人聞き悪いか。

「卵の時も孵ってからもマナを与えていれば死ぬ事はない。気軽に育ててくれて良いので、受け取ってはもらえないか?」

 感情が読める相手じゃないが、なんとなくそこそこ本気で頼まれてる気がするな。はぁ~……鳥の世話。鳥の世話ねぇ~。めんどくさいなぁ~。けど。

「……わかったよ。世話になったことだし。マナを与えるだけで良いなら俺でも」

「我が子達は強い生き物だからな。あとは放っておいても生きていけるはずだ」

 餌だけもらってほっとくとか。鳥というより猫っぽいな……。まぁ気を付けて世話しなくちゃいけないわけじゃないみたいだし。そっちのが断然良いけども。

「では左手を」

「ん? こうか?」

 左手を出すとマナの塊が入ってくる感覚がある。あれ? 卵渡すんじゃなかったのか?

「証同様中へ入れた。あとは汝の意思で出すも仕舞うも叶う」

 はぁ~ん。便利。卵持ち歩く変態的行動取ったり部屋にダセェインテリア的に飾ることもしなくて良いんだな。助かるわ。

「じゃあこれで本当にもう用はないな?」

「ない」

「そうか。んじゃ帰る。世話になった」

「今度はこちらが世話になる」

 まぁそうだな。お前の子供は俺が預かった。……この言い方だと誘拐犯みてぇだな。

 なんにしても。約三週間がかり計六日弱。長かったような短かったような期間だが。この世界ともお別れだな。

 願わくば……。あ~……特に願うことがなかった。うん。締まらねぇな。

 とにかく。バイバイ! ……うん。やっぱ締まらねぇ。



「……ん?」

 部屋に戻ると、妙に静か。手酷い出迎えが待ってるかと思ったんだが……。あ、風呂場から音がする。ロッテがコロナを入れてくれてるみたいだな。おっしゃ。ちょっとだけだけど落ち着けるぞ。

 さすがに砂漠にいたし、野宿もしたから汚いな。すぐ風呂入るつもりだけど着替えるか。ちょっともったいないけど……。部屋を汚すわけにもいかないしな。

「……」

 着替え終えて一段落。今部屋には俺とリリンだけか。

 ベッドに近づいて顔を覗き込むと、なんとまぁ綺麗なお顔だこと。体格も俺たちに近くなって改めて色気が増したと思うよ。今、動いたお前に誘惑されたらどうなるんだろうな? 俺もお前に近づいたから軽く流せそうな気もするけど……。

「……なぁ。起きないの?」

 なんとなく。声をかけてみる。ついというかなんというか。いつもの寝顔と違う気がしたから。呼んだら起きるんじゃないかって思ってな。

「……ふむ」

 今、古典的なことを考えてしまった。いわゆるお姫様にキス的なやつ。俺たちの間でロマンチックでドラマチックなキスなんてあり得ないけど。ほら、リリンからは何度かあったし。でも俺からしたことないから、もしかして俺からしたらこいつ驚いて飛び起きるんじゃね? どうしようイタズラ心が出てきちまった。こういう発想ちょっとリリンっぽいな。

「ふふ」

 思わず笑っちまうな。せっかく思い付いたんだしやってみるかな。今は俺たちだけだし、起きなかったら起きなかったで目撃者はいなかった。なにもなかったことにしようってできるしな。

 では、いざ、いただきます。

「……ん」

 久しぶりのリリンの唇。相変わらず柔らかい。気持ちいい。今はマナも感じれるわけだが、つい最近感度を下げた。だけどあれはあくまでマナでのダメージ、痛みだけを情報化してるから。痛み以下の刺激だと今まで通りなんだよな。だから、今ものすごく気持ちいい。ずっと触れていたい気持ちよさ。なるほど。リリンが俺と触れ合いたいって気持ち。今ならわかるわ。

「……ぅ……む」

 首筋を軽く撫でながら唇を少しだけ強く押し付ける。おおう。微妙な違いのはずが大違い。強く触れたらそれだけ気持ちよくなる。これは理性の強くなった今の俺でも色々ぶっ飛びそう。ヤバイな墓穴掘った。これを知ったらリリンの誘惑に抗えないかも。

「……うむ。れろ」

「……っ」

 数分間押しつけていると変化が起こる。リリンの舌が俺の唇をかき分けて口の中へ入ってきた。野郎……起きてやがったか。……良いよ。俺からしたことだし、快気祝いも兼ねて満足いくまでてやるよ。キスだけな。

「……れろ。……ちゅっ。はむ」

「んん……っ? ……んむ。ちゅる」

 大人のキスを始めたリリンに応えるように、舌を絡ませたり唇を甘噛みしたりすると、一瞬驚いた反応を見せる。すぐに離すと思ったんだろうな。悪いな。変わったのはお前のサイズだけじゃないんだよ。俺も前とは全然違うんだわ。

「んむぅ~……。……はぁ。……驚いたな。まさかお前がここまでするとは思わなかった。まずお前からしてきた事が意外だしな」

「だろうな。……で? 満足したか?」

「……フム。どうだろうな。満足と言えば満足だが、そう言われると欲張りたくなる。今までお前との触れ合いは我慢してたわけだからな」

「もう少しするか?」

「お? 良いのか? なんだ? 今日は随分気前が良い上に積極的だな?」

「うるせぇ。今日だけだよ」

「ウム……。それは少し残念だな。だが尚更。今堪能できるだけ堪能しとこう。……さぁ、来い」

 挑発するようなイヤらしい笑み。変わってないな。でも、普段色づかない頬が艶っぽい。リリンにも人間の部分が反映されてるようだな。お互い近づいたせいでちょっと歯止めが効かなくなって来た。 

「あぁ、口開けて」

「……あむ」

 それからまたしばらく。俺たちはお互いを貪るように味わった。

 ……やれやれ。我ながらただれたことしてんなぁ~。

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