第126話
「……」
あ~うん。完全に絶命させるのを目的として自分でやったことだけど。これは……やり過ぎたな! 頭と胸がない内臓と血が駄々漏れのグロテスクな残骸が残っちまってる。
「ん~……」
少し考えて、埋めることにした。放置しても常に昼でさらに砂漠だからすぐ腐ってすぐ干からびるとは思うけど、待ってる連中呼び出して真っ先にこれ見せるのも忍びないし。目の前の洞穴の奥にいる巫女さんも出てすぐこれ見てゲロ吐かれでもしたら困るし。処理しといたほうが良いってことで。
「おっと」
片がついたと察した連中がこっちに来てる。さっさと埋めちまお。
今から掘って埋めてたら間に合うわけもねぇし。影で固めて無理矢理砂の中に突っ込もう。いや~砂だからズブズブスムーズに入るわ。
「さすが御使い様でございますね。束の民最強と名高い彼の者をほふり去るとは」
「族長とのときも山のときも大概だけど。今回もまた一際凄まじかったな」
「正直関わりたくない気持ちがどんどん強まってます」
「……あ、そ」
諸々どうでも良いからさっさと束の民の巫女さんに会いに行こうぜ。ケガもしたし早く帰って休みたいんだよ。もう塞がってるけど。
「……どちら様でしょう?」
洞穴の奥には人工的に作られたような……例えるなら……そうだな。座敷牢があった。床部分は畳ってわけじゃないけど、形的には近い。
そこに鎮座しているゴタゴタした巫女服を着ている女が一人。背を向けながら澄んだ声で尋ねてくる。
「束の巫女。水の巫女の使いにございます。お迎えにあがりました」
「あ~……。なるほど。水の巫女様が前に言ってましたね。はぁ。本当に来るとは思いませんでした。お疲れ様です」
「「……っ」」
振り向いた巫女の顔を見たチェーリとアズが息を飲む。俺も少し驚いた。
服で体格はわかりづらいが、顔立ちは落ち着いた声の主とは思えない幼さを残した十代前半くらいの感じ。ま、あくまで俺たちの基準だから当てはまるかって言われるとアレだがな。リリンみたく若そうに見えて実はババアパターンかもしれないしな。
さて、俺たちが驚いたのはここから。茶色の髪から覗く目元が鈍色の太い糸のような物で縫われてる。縫い口を見ると肉が変色していて痛々しい。
どういう経緯があったかは知らないし興味もないが。いきなりこんなもん見せられたらビックリするわ。ま、でも。死体は片付けなくても良かったかもしれないな。目が塞がれてるわけだし。余計な労力だったわ。ぶっちゃけ他三人の巫女に気を遣う必要ないし。殺戮の限りをした上でここに来てるからな。
「さて、束の巫女さん。あんたを保護する前に用があるんだけど良いか?」
「貴方は……?」
「御使いってやつ。らしい」
「まぁ、それはそれは。私の代で御使い様とお会いにできるとは思いませんでした。おっと、このままでは些か礼がなってませんね」
「いや、あんまり構えなくて良いんで」
こちらへ向き、座り直してから平伏しようとするので制する。礼とか、んなことよりも俺には大事なことがあるんでね。
「御使いの確認してもらえるか?」
「はい。もちろんにございます。右の耳の裏に証があります故。そこに触れていただければ……あ、ここにいては手が届きませんね」
座敷牢にいることをすっかり忘れていたようでイソイソとこちらへ寄ってくる。
「ぶべっ」
転んだ。目が見えない上にゴタゴタしてる服着てるから……。はぁ、しゃーないな。
「動くな」
「はい?」
返事……じゃないなこれは。まぁ無視するけど。牢は木製みたいだし、影で覆って潰せば問題ないだろ。
「うん」
案の定あっさりと壊せたな。ちゃんと全部包んでたから破片も飛び散ってない。我ながら影使えるようになってきたなぁ~。
「耳裏だったな」
「え、はい…………あっ」
邪魔な物はなくなったので、近づいて髪を分けて痣を見つけてそこに触れる。
「どうだ?」
「……確かに。貴方は空髪様の御使い様です。神はやはり私たちを視ておられるんですね。今もまだ」
おうおう感慨深くなっておられる。俺も感慨深いよ。あと一人で巫女コンプしてお役御免だから。早く肩の荷を下ろしたいよ。
「他にも色々話すこととかやることあると思うから今聞くのは心苦しいんだけど聞かせてもらうわ。水の民さんや。俺はあと一人に会わなくちゃいけないんだが。案内してもらえないか?」
「それは御使いの確認をする為に?」
「そう」
「であれば会う必要はございません」
「ん?」
その名の通り水のように透けた体なんだが、胸の中心が歪み始める。そして羽根の形が浮かび上がったんだが……これってまさかまさかの?
「巫女ではありませんが、証は一時的に私が預かっています。……言い忘れてましたけど」
そんな大事なことを言い忘れるやつがあるかっ! ……ってまぁ良いか。つまりここで確認したら終わりってことだからな。
「じゃあさっさと確認してもらえるか? 元々それだけやっとけば良いんだよ俺」
「わかりました。では、どうぞ」
くいっと胸を突き出してくる。……まぁ、そうなるわな。人の形取ってるしちょっと微妙な気持ちだけど。
「……」
「……っ」
水の民の胸に手を入れ、痣に触れる。絵面もアレだし色々文句はあるけど、一番はブルッと震えるのやめてほしい。感じてんのかテメェ。
「確認致しました。間違いなく」
これで間違ってましたとかもう一回言われたらちょっとキレてたかもしれないから良かったよ。
うっし。これでおしまい。俺のやることは終わったぞ! あとはハイネに報告して――。
「ん?」
突然俺たちの前にゲートが開く。ゲートの先から感じるこの気配は……。
「ハイネか?」
「「「!!?」」」
その場にいる俺以外の全員が驚きの反応を見せる。チェーリとアズは汗をダラダラと流しながらガタガタと震え、束の民の巫女さん(あ、まだ名前聞いてねぇ。ま、いっか)はまぶたの隙間から涙を流して拝んでる。水の民とかもう形留めてないぞ。
ふむ。このタイミングでのゲートってことは……迎えかな?
「あ~なんだ。どうやら俺はここまでみたいだから。あとはお前らで諸々なんとかしてくれってことで」
言葉をかけるも反応がない。生ける屍のようだ。まぁ唯一神様が近くにいるってなったら恐れるか崇拝するかだろうし無理もないか。あんまり長いこといても迷惑だろうし。さっさと潜ってやろう。
「じゃ、さよなら」
短い間だったし面倒事ばかりだったけど。有意義ではあったよ。
なんか色々大変そうだけど。あとは現地人たちで頑張れ。
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