第123話

「では早速……」

「待った」

「……?」

「そこの二人は森と山の巫女なんだが。一応案内役としてついてきたんだけど。その話は聞かせなくても良いのか?」

「どちらでも。御使い様に委ねます」

「じゃあ起こしてからってことで」

 こっちのことはわからないし、馴染んだ人間も一緒に話をしたほうがスムーズだと思うし。……あと、こいつが本当に水の民かもまだわからない。念のため二人に確認しといたほうが良いだろ。

「かしこまりました。それでは――」

 自称水の民は指先から液体を発射し、チェーリとアズの顔面に覆わせやがった。起こす手間を請け負ってくれたんだろうけど、ずいぶんと強引ですね?

「「ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!?」」

 もちろん二人は溺れる。砂漠で溺れるとか貴重な体験だな。どんだけ貴重でも全然羨ましくないけど。



「はぁ……はぁ……。し、死ぬかと思った……」

「は、鼻の奥が痛い……」

 水から解放され息を整える二人。アズは至ってよくある反応だがチェーリはちょっと独特だな。いやまぁ気持ちはわかるけども。鼻に水が入ったら痛いわな。

「ではこれより水の民の巫女様からの言伝てを――」

「……名乗らないんだな」

「我々には名がないので。族長にはありますが。では――」

「殺しかけといて詫びもないとは。水の民は礼儀知らずなようで」

 アズの質問はともかくチェーリはお前が言うかって感じなんだが? お前本当に支離滅裂なヤツだな。マジでぶん殴ってやろうか。

「御使い様に見張りを任せぐーすか寝れる図太い神経ならば不要と判断しましたので」

「うぐっ」

 わお。強気な返し。しかも的確。チェーリごときじゃ相手にもならないな。……チェーリと比較するのが失礼か。

「もう質問はございませんね? あったとしても後にしてください。先にこちらの用件を済ませたいので」

 丁寧口調に平坦な声に今ちょっとトゲを感じたぞ。話を遮られてイラついたのかな? 二人にこいつが水の民かを確認しようと思ったんだが……あとにしよ。

「巫女様は御使い様のお力を借りたいと願っております。現在我らが漂うこの砂地には問題が二つあります」

 ほ~ら出たよトラブル。どうせ解決しないといけないんだろ知ってる。

 ええ~ええ~やりますよ~。やれば良いんでしょ~。クソッタレ。

「一つは先程御使い様御一行が始末なされた生物。これらは本来ここら一帯にはいなかったモノ。突如現れ始めた新しい生物なのです。どれも希少が荒く、暴れ回っていて落ち着く暇がありません」

 ……突然現れたっていう鉱山の巨大モグラはさっきアズが撲殺しまくったデカモグラの変異体かと思ったんだが。それすらも元はいなかったってことか? 短いスパンで新種とその変異体が現れる? 生物ってそんなすぐ進化するのか? ありえるの?

 俺が言うのも変な感じだけどな。俺はどっちかっていうと人為的なモノだし。自然ってわけじゃ……。あ~そういう可能性もあるのか。

「この一件には恐らく束の民が関わっているかと」

「「ゲッ」」

 露骨にチェーリとアズが嫌悪丸出しの顔をする。元々別の部族の第一印象の悪いヤツらだけど今までで一番険しい顔してるわ。そんなに酷いのか束の民ってのは。つか四つの民の巫女と会うのが役目つってたな。謀らずも最後の部族が判明しちゃったよ。ところで束の民ってちょっと最後だけ自然的なモノじゃないんだけど。ハブられてる?

 まぁ、それは置いといて。

「根拠は?」

 一応これは聞いとかないとな。本当に関わっているなら巫女と繋がるだろうし俺的には結構重要。

「それが二つ目の問題でございます」

 なるほど。二つの問題は繋がっていて実質一つ的なやつね。良かったよ一個解決したら終わりそうで。すでに日またいでるし帰りが遅くなると困るんだよ。コロナをあんまし放置したくない。今度はなにをやらかしてくるか恐ろしくてしゃーない。

「束の民の巫女がこの砂地の末端にある洞穴に捕らえられています」

「は? 巫女が閉じ込められてる? おいおい。いくらキテレツ愉快な頭ぶっ飛んでる束の民でもさすがに巫女を賊に奪われるとかあるか? うちらも信心深いわけじゃないが、さすがに巫女の守りは蔑ろにしないぞ。強ければ別だが」

「巫女は最も空神様に近い存在。何よりも守らなくちゃいけない者なのになんて体たらく……。嘆かわしい」

 呆れ顔の現役巫女二人。この二人が護衛なしでほっつき歩いてるのは戦闘力故なのか。意外。たしかにスタミナも威力もあったし強いのは認める。チェーリに関してはマナの扱いは俺より断然上手い。めっちゃ腹立つけどそれだけは認めてやるわ。

「呆れるのも無理はないです。が、監禁の命を出したのはその束の民の族長。現在は王と名乗る者だとか」

 え、どういうこと? 束の民の族長が水の民の縄張りで巫女を閉じ込めてるの? は? ちょっと意味がわからない。巫女って大事な存在なんだろ? 俺だけじゃなくチェーリもアズも絶句してるあたり尋常じゃない事態ってことだけはわかる。

「束の民はこの世の支配者となるため、空神様に宣戦布告をするつもりのようです。巫女は空神様と繋がりがある唯一の存在。故に自らの治める地からは離しつつも自由を奪っているのでしょう」

 ……おいおい。なんかスケールがデカくなってきたぞぉ~。

 神に喧嘩売るってのがもう頭沸いた中二思考なんだが、それ以上に会ったことあるからわかる。ハイネに喧嘩売るとかバカだバカ。

 ネスさん曰く。ハイネはリリンの天敵らしいからな。世界を滅ぼす力を持つ――ワールドエンドと言われてるあいつのだぜ? 実際俺があいつの世界に行って取っ捕まったとき、ちょっとプッツンして星一つ影で覆ったらしいからな。そんなヤツの天敵に喧嘩売る? 現実味ないわ。でも夢を見るのは自由だからな。人の夢と書いて儚いと読む。

「ん? それで砂漠の生物と巫女の監禁がどう繋がるんだ?」

 それは俺も思った。危険生物の発生と監禁がどう繋がってるんだろ?

「生物達の役目は二つ。一つは生まれることそのもの。新たな強い生物を作るのが目的のようで、幾度となく試みて生まれたのです。空神様を害する為の駒の作成といったところでしょうか」

「なるほど。それで二つ目は?」

「束の巫女を監禁している洞穴は渓谷の間にあります。渓谷から出ればすぐにこの砂地が広がっており、仮に洞穴から逃げたとしてもあの生物共がいるので少なくとも生きてはいられないでしょう」

 あ~ね。逃がすくらいなら死ねってやつか。まぁ合理的なんじゃない? ぶっちゃけ役目さえ終われるなら何でも良いけど。ってなわけで、そのために必要なことを聞かないとな。

「状況はなんとなくわかった。それで? 俺はなにをすれば良い?」

「一つは可能な限りの生物の討伐。そして束の巫女の見張りをしている束の民を無力化後、巫女の保護にございます」

 はいつまり延長戦ってわけね。あはは。チェーリとアズも表情筋ヒクつかせてるわ。俺も正直ただ殺していくだけなのはちょっと……。

「渓谷の周りには御使い様が狩ったのより強い個体がいます。さらに洞穴を守っているのはこの砂地に現れた生物達よりも格上の戦士なので十二分にお気をつけいただきたく」

 あ、それならちょっとやる気出るわ。強ければそのぶん勉強になる可能性が高いからな。他の二人は嫌そうな顔をしてるがな。

「では、これよりご案内しましょう」

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