第122話

「はぁ~……まったく。次から次に……。どうしてこう……」

 こういうときってゼーハー言いながら途方もなくボロボロになりながらひたすら歩いてやっと目的地についてやったー! とか? 意外とあっさり見つけて任務遂行! とか? そんなのが定番だと思うんだ? でもこういうときの定番ってもう一つあるんだよ。最悪なやつが。今回はたまたまそのファンタジー+砂漠で起こりうる最悪なパターンを引いちまってる。

 砂漠に入って五分後から数時間。俺たちは戦闘を続けている。

「おらぁ!」

 アズは大槌を振り回し砂から顔を出す虎くらいデカいモグラを一心不乱に撲殺してる。

 恐らく鉱山にいたモグラと同じ種類だな。鉱山のはこいつらの突然変異ってとこか。

「この! また! なんの! クソッタレボケェ!」

 な~んかさっきからアズだけがやたら狙われてるんだが……まぁ臭いと音の強さのせいだろう。俺はそもそもそのあたり希薄になりつつあるし、森の民は気配を消して戦う狩人。足音一つ取ってもアズとチェーリじゃまったく性質が異なってる。チェーリはいい加減に見えて常に結構洗練された足運びをしてるよ。だから消去法でアズがやたら狙われてる。今殺したので三十匹目くらいか? 辺り一面地獄絵図……というわけでもなく。

「あ~もう! 切りがない……!」

 今のはチェーリ。モグラの死体に釣られてワラスボみたいな面した芋虫? が大量に湧いてでてるので対処している。

 矢はとっくに尽きてるのに周りの砂にマナを流して一時的に矢の形を形成して必死で射ち殺してるよ。射抜くとすぐに崩れるが、十分器用なことしてるわ。それでもわらわらと湧くしなんなら共食いしてるけどな。

 モグラの死体を食い尽くすだけなら良いんだが、食い終わると今度はこっちに襲いかかってくるんだよな。しかもこいつらたぶん音とか臭いじゃなくて熱で探知してる節がある。アズはモグラのお陰というべきかワラスボ芋虫(仮)に襲われずに済んでるが、代わりに気配を極力殺してるチェーリに襲いかかってるからたぶん合ってるだろ。

 なぜ俺は襲われないのかって? 理由は単純なんだが、リリンって意識してないときの体温って低いんだけど。逆に意識したら好きな温度に変えられるんだよ。で、俺今気温と同じ体温にしてるからバレないバレない。便利な体です。チートだよチート。

 ……まぁ代わりに一番めんどくさいことしてるんだけどな。

 俺が相手してるのはえ~っと? トラックみてぇな蠍と? さらにデカい蛇と? 砂に擬態する牛くらいデカいトゲトゲの主張が激しいトカゲと? あとなんだあれ。大型犬くらいのサイズだけどなんか鹿の角っぽいのが生えた六足の猪みてぇな面して例えるのがやたら難しい珍獣。尻尾はなんだ? 狐? 盛り込みすぎだぞ。

 種類ごとの数で言えばモグラとワラスボ芋虫は二人に集中してるんだが、その他の生き物は俺が狩ってる。二人とも他に気を回せないからな。んで、総合的な数は俺が一番多いっていう。

 影で絞め殺して潰し殺して空いた手で殴る蹴るしてるだけだから苦ではないんだが……。弱すぎてまったく勉強にならねぇんだよな。だからさっさと切り上げたいんだがまったく勢いが収まらない。

「はぁ……はぁ……。い、いい加減辛い……!」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ! 御使い様が一番多く狩ってるんだからせめてうちらはこいつら始末しねぇと!」

「いやでもあの人一番跳び回ってるのに息も乱れてなければ汗一つかいてないし!? 存在の格が違いすぎて比較する気も起きないんだけど!?」

 失礼だなこの女。人を化物扱いしやがって。リリンに大分近づいてるから否定もし切れねぇけどさ。少なくともデカい声で言うことじゃねぇぞ。お前の方面にいるヤツら狩ってやんねぇぞコラ。



「お、終わったぁ~……あっつ!?」

「ぶっ倒れたい気持ちはわかるが同時に言わせてもらうぞ。お前はアホか」

 チェーリが疲労でその場に倒れ込むが、案の定熱かったんだろうなすぐ飛び起きたわ。

 結局戦闘は十時間以上続き、今はもう夜だろうな。俺こっちに来ると絶対夜中になってない? 不健康過ぎる生活送ってない? 寝なくても体調崩れるわけじゃないから良いけどさ。

「ふぅ~……。でもさすがに疲れすぎた。あのでっかい死体を陰にして休もう」

 生真面目なアズですら休憩を提案するか。十時間ぶっ通しで暴れてたんだから当然だけど。むしろよく持ったわこの二人。どんなスタミナしてんだよ。気持ち悪いな。精鋭の兵士か己らは。

 自分の無尽蔵の体力を棚に上げて二人を心の中で気味悪がったところで、場所を移動。デッカい蛇の死体が良い感じに陰になってるのでそこで休息を取ることにした。

「寝るなら寝て良いぞ。俺は見張っとく」

「……ありがたいですけど、本当なんで疲れてないんですか?」

「そりゃあ……」

「うちらとは体の出来が違うんだろ?」

「納得の一言」

「……」

 その通りだけどなんか他人に言われるのは微妙な気分にさせられるな。せめて自分の口から言わせてほしいです。



「……誰だ?」

 時刻で言えば朝の四時ってところかな。二人はまだ寝ている。

 妙な気配が近づくのを感じたのでとりあえず声をかけてみたんだが……。気配の感じからして人間っぽいけど姿が見えない。それに違和感がある。どうしよう本当に人間かわからなくなってきたな。

「通じてるか? 通じてるなら姿を見せてほしいんだが?」

 俺の言葉に応えるように姿を現す。砂から水が湧き上がり人間の形を作り上げた。水でできた人間。ってことはこいつは。

「……私は水の民。我らが族長兼巫女様から御使い様への言伝てを預かって参りました」

「へぇ~」

 ありがたいこった。向こうから現れてくれるなんて。やっと今回の役目も果たせそうだよ。

 ……ただ、この言い回し的に面倒事が待ってそうなんだよなぁ~。まーたなんかあるんだろうなぁ~。まだトラブルがあると決まったわけじゃないけど、あるんだろうなぁ~流れ的に。せめて俺にメリットのある事柄であることを祈るわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る