第119話

 でーでん。

「……」

 でーでん。

「…………」

 でーでんでーでんでででででででで~。

「にゃー! にゃー!」

「やめい」

 どっかで聞いたようなBGMを流しながらコロナが跳んできたので影で捕獲。逆さ吊りにしてやった。

「まったく……」

 わざわざBGMまで流しやがって。BGMロッテもなにやってんだ。ド深夜だぞ。寝てるだろうからと静かに入ってこの仕打ちってなんなんだよ。つかどこで知ったそんなもん。今の時代わかる人間そんなにいねぇぞ。たぶん。

「……おかえり」

 BGMを切って改めて出迎えてくれるのは良いが、最初から普通にそうしてくれねぇかな? 面倒だからさ。

「ただいま。とりあえず見た通り汚れてるから風呂に入るわ」

「……それが良いな。酷い臭いがこびりついてる。控えめに言って糞尿に吐瀉物を混ぜたような不快感がある」

 え、そんな? 控えめに言ってもそんなボロクソ? 土埃はついてるけどそれだけでそんな臭くなってるか? 嗅覚遮断してるからわからないけど、直接血とか胃液とか浴びてないんだけどなぁ~。まぁロッテが言うなら臭いんだろうけどさ。……今日は丹念に洗おう。

「にゃーにゃー! にゃーにゃー!」

 ……なんでこいつは俺に抱きつこうとしてるんだろうな。臭いんじゃないのかよ。そんなに俺が好きか? はぁ~。しょーがねぇな。

「風呂から出たらだっこしてやるからちょっと待ってろ」

「……」

 だから待てつってんだろ。お前に臭いやら汚れついたら一緒に風呂入らなきゃだろが。まさかそれを狙ってんじゃないだろうな? そういうしたたかなことは覚えなくていんだよ。将来悪女になるんじゃないかと心配だよ俺は。



「むふ~♪」

「……なにしてんだお前は」

 風呂から出たらだっこしてやるとは言った。言ったけども。俺、まだ体拭いてないんだが? なんでお前脱衣場で待ってんだよ。気が急いてるにもほどがあるわ。

「にゃーにゃー♪」

「あ、バカやめろ!」

 抱きつこうとしてくるので影でまた吊し上げる。今濡れてるんだから着替える羽目になるだろが。いたずらに洗濯物増やすんじゃないの。いや、俺がしてるわけじゃないけども。業者さんかロッテがやってくれてるけども。だからこそやってもらってる俺たちは気を付けないといけないんだ。コロナ、わかれ。

 とりあえずこのままじゃいけないな。ロッテに引き取ってもらおう。

「ロッテ~。コロナ持ってってくれ~」

「ん? あ、あれ? すまない。少し目を離した隙にそっちにいってたか」

 こいつもこいつで結構平気な顔して入ってきたよ。こっち裸なのに……って思ったらなんかアイマスクつけてる!? あれ!? お前そんなもの持ってたっけ?

「お前……それ……」

「そ、れ……? あぁ、これか。佐子にもらったものだ。目が見えなくとも鼻と音で大体把握できるからな。見たくない時には重宝すると思って頼んでおいたんだ」

「あ、そう?」

 ちょっとドヤってるのは可愛いけど。アイマスクがパチッとした目の絵柄だからなんともな……。シュールだわ。

 あとその言い方俺の裸見たくないって聞こえるけど。お前のことだから恥ずかしがってるだけなんだろうな知ってる。犬だから気にしないって思うかもだが、ロッテにとっては毛が服みたいな感覚らしく。毛なしは直視しづらいらしい。特に下半身。

「とりあえずコロナ頼むわ」

「わかった」

「にゃーにゃー! にゃーにゃー!」

 騒ぐコロナを受け取り力ずくでホールド。ロッテもいつの間にかコロナの扱い上手くなったなぁ~。暴れようが叫ぼうが腕力で押さえつけてら。お陰で俺はゆっくり体を拭いて着替えて髪乾かせますよ~。

「……すんすん」

「ん? どした?」

 鼻ピクピクさせて。まだ臭うか?

「……うん。もう臭いは取れたみたいだ」

「へぇ。そりゃ良かった」

 風呂に入った後に臭いとか言われたら俺も傷つくし、丹念に洗った甲斐があったよ。ただあれだな。臭いを確認されるのは普通に恥ずかしいわ。



「むぅ~……」

 今度こそきっちり寝間着を着させてもらい、風呂から戻ると、ムスッとしたコロナに出迎えられる。ぬいぐるみを抱き締めて左右に揺れてるわ。なんだ? トイレでも我慢してんのか? ま、こいつに排泄がないのは知ってんだけどね。はいはい。わかってるって。

「ほら、こっちこい」

「っ! ~♪」

 一瞬でご機嫌になるコロナ。チョッロイなぁ~お前。

「~~~~~っ!」

 ま~た顔面を鎖骨にゴリゴリしてきやがる。おうおう存分にやれやれ。今は痛覚遮断できるから俺は痛くねぇよ俺は。だから好きなだけやってろ。

「んんん~! ……へぶふっ!」

「は? え!? ちょ、テメふざけんな!」

 こんにゃろ人の肩に顔埋めながらくしゃみしやがった! とっさに影出して服につく前に押し止めたけど、まだ慣れきってないからこんな小規模で細かい使い方そんな長く持たない! 鼻水が! 鼻水が服につく!

「ちょ、ロッテ! 吹いてくれ!」

「お、おう! てぃ、ティッシュティッシュ!」

 ロッテが慌ててティッシュを持ってきてくれる。一気に数枚取り出して鼻水を拭き取ってくれた。

「ほら顔上げろ」

「あぶぶぶぶぶぶ」

 あとついでにコロナの顔面も吹いてくれたわ。ふぅ、一安心。

 ……なんかさ、帰ってからのが忙しくないか!?



 ……フム。やっと寝ながらでも意識だけは戻せるようになったか。……だが、まだ体は動かせんな。如何せん作り変え過ぎて肉体はズタボロ。筋肉ほとんど切れ込みの入った縄みたくなってて動いたら全身隈無く断裂するぞこれ。

 はぁ……、まったく。元に戻るだけだというのに。どれ程手間がかかるんだか。弱くなり過ぎだぞ我。

 だがまぁ、ヤツからの侵食はもうないな。それなのにむしろ以前よりも強い気配を感じる。クハッ! 我が寝てる間に何してるんだあいつ? 無理矢理我の存在を引き寄せる事なく我に近づきすぎたぞ。わけがわからなすぎて面白いなぁ~。

 何が起こっているか気になるが、まずは取り戻す事に専念しなくてはな。起きたらたっぷり聞かせてもらうとしよう。

 ……フム。ついでに我をこんな目に合わせた責任も取って貰うとするかな? クハハ。多少は罪悪感もあるだろうし、多少過度な願いでも問題ないだろ。うむ。楽しみがもう一つ増えたな♪

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る