第112話

 役目を果たすため、再び森の民の方々の元へ足を運ぶと、早速行ってこいと言わんばかりに巫女のチェーリを押し付けられて次の部族さんである山の民のところに案内されている。案内だけだったら別に巫女じゃなくても良いんじゃないだろうか。急にぶっぱするような野蛮……おてんば娘ってイメージしかないから不安だなぁ~。

 ……というか森と山ってなんか近いイメージがあるんだけど。一緒の部族じゃないんだな。なんか理由があるのかね?

「御使い様。あれが山の民の住む集落の入り口にございます」

 あ~……そういう。山って言うから斜面のある森的な自然豊かなほうを想像してたんだが、そっちの山じゃないなこれ。えっと……なんだっけ。鉱山だ鉱山。あっち系の山だわこれ。これなら別の部族ってのも普通に納得。そだ、今のうちに山の民がどういう人たちか聞いておこう。独自のマナーとかあると困るし。

「チェーリさん。山の民ってどんな人たちですかね」

「……そう、ですね。一言で言えば野蛮人です。私はあんまり」

「へ、へぇ~……」

 野蛮人ねぇ~……。あんたの口から野蛮人ですって……なんかねぇ?

「……なにか?」

 感情のこもった視線に気づきこっちを向いてきた。これは言うべきか言わざるべきか。よし言おう。以前忠告なしで襲ったことも未だ反省していないようだし。ちょくちょく釘は刺しとこう。

「いや、いきなり矢をぶっぱなして殺そうとしてくるような人が他人を野蛮人とかのたまうのが滑稽で滑稽で」

「その節は本当に申し訳ないと思ってます」

 嘘つけ。俺相手だからそう言ってるけど。そんな気にしてないこと知ってんだからな。族長さん相手だったら絶対反論してただろ。

「ではいきましょう」

 ほら見ろ。次の瞬間にはケロッとして切り替えてきやがった。お前今度やらかしたら見てろよ? 制裁加えてやるからな制裁。



「あ? なんだテメェら」

 あ、野蛮人だ。第一印象でもう言える。野蛮人だ。

 これにはね。本当ちゃんと理由がある。山の民の集落前にいる見張りのガタイの良い髭男が二人いるんだが、背中にピッケルとハンマーを携えている。それはまぁ良い。なんなら酒を飲んでるがそれも別に良い。ただなんだろ。服装が腰布だけで第一声がね。ほぼヤンキーじゃん? 一発で野蛮人ですって紹介された気分だよ。チェーリさんすまない。あんたは正しかった。あんたも野蛮だがこいつらも恐らく野蛮だ。心の中だけで謝るよ。

「私は森の民の巫女チェーリ。御使い様をお連れしたので、こちらの族長と巫女殿にお目通り願いたい」

 おお。ちゃんとあいさつしてる。俺に対してのあいさつは矢だったのに。ちゃんとあんたもそういうのできるんだね! 俺のときもそうしとけ? そしたら怒られなかったぞわかってる?

「巫女に御使い~? かぁ~なんでこんなときにそんな面倒なのが来るかねぇ~」

「悪いけどかまってらんねぇし。帰ってくれや」

 おっと門前払いかよ。普通に困るんだが。せめて巫女に確認取らないと帰るに帰れねぇよ。

「おい! 酒蔵からまたビンが減ってたぞ! まぁたお前らがくすねたんじゃないだろうな!?」

「ゲッ。アズ……」

「い、いや知らねぇなぁ~。酒なんて」

「わっかりやすい言い訳してんじゃねぇ! 顔真っ赤にして酒の匂い撒き散らして! 表情も! いかにも嘘ついてますって面しやがって! 何度もやるなら嘘も上手くなれよ!」

 どうしようか困っていたところ。ちっこい……ギリ身長140㎝あるかな? ってくらいの少女が現れて俺たちを無視して男たちを糾弾し始める。いや、あれは怒りのあまり俺たちが目に入ってない感じだな。でも山の民全員が布一枚二枚なのかなぁ~って思ってたけど、この少女はわりとちゃんとした服装だ。オレンジやクリーム色が混じった独特の形の服を着てる。まぁ、ちゃんとしたと言ってもヘソは丸出しだけどな。こいつらはあんまし肌を隠さないのかも。……あともう一つ収穫。あの少女のヘソの横に羽の形の痣が見えた。確実にこの子がそうだよな。

「まったくお前らは……ちょっと面かせボケェ! 仕置きしなきゃ気がすまねぇ!」

「あぁん!? おとなしくしてるからってつけあがんなよ!」

「巫女だからって調子に乗りやがって! 今日こそはお前ぇの鼻っ柱ぶち砕いてやっからな!」

「上等だ酒浸りども! こっちこい!」

 やっぱ巫女だったか……っておいおい。アズと呼ばれた巫女と男たちが集落のほうに行っちまった。俺たちを置いてどこ行くんだよ。

 入り口からでも見える位置にある広場まで行くと、三人が足を止める。その様子を見て周りの連中が騒ぎだした。

「お!? また喧嘩か!?」

「どうせまたそいつらが酒盗んだんだろ? コソ泥なんぞぶっ飛ばしちまえ!」

「真面目に働きもしねぇ門番なぞいらんわ! やっちまえやっちまえ!」

「まぁアズに敵うヤツなんざここいらにゃいねぇけどな!」

「「「アーズ! アーズ! アーズ! アーズ!」」」

 お~お~。すげぇコール。大人気だなあの巫女さん。

「……うるせぇ! 見世物じゃねぇぞ! サボってねぇで仕事しろ仕事!」

 あんなに応援してもらったのに。大歓声を裏切るとか。気合入ってんな……。

「よそ見してんじゃねぇぞ!」

「もう始まってんだからよ!」

 歓声に応えてる(?)隙に男たちが襲いかかる。

「バカ共め……」

 だが巫女は隙なんか見せていなかった。顔はギャラリーに向いてても意識はちゃんと男たちのほうへ行っていた。普通にすごいぞ。今のだけでかなりの力量を感じさせる。

「ずりゃあ! だあらぁっ!」

「おばっ!?」

「ごえぇっ!?」

 巫女の拳が一人の男の腹にめり込み、続けてもう一人の腹にもぶちこむ。男たちは軽く180㎝を超えているので頭に打ち込むとなるとかなり無理がある。それを理解しての腹なんだろうな。にしても結構な細腕で筋骨隆々の男を一撃ずつで悶絶させてやがる。特に強いマナは感じないから技術なのかな? それとも見た目以上に筋密度があるのだろうか。今の俺じゃマナ以外は判断できないな。

「まったく……。バカかお前らは! 隙があると思ったら静かに襲えよ!? 叫びながら突っ込んできたら嫌でも気づくだろうが! 喧嘩なめんな!?」

 はっはっは。超正論過ぎてウケる。意識なんて微塵も逸らしてなかったのにな。まぁでも正しいわ。仮に油断してても大声で突っ込まれたらね。そら誰でもわかるよな。

「こ、こんの……!」

 一人先に回復した男が背に携えたハンマーを手にする。相手の小柄な少女は素手のままなのにプライドないのかねぇ~。俺だったら相手が強いとわかってたら最初から握るけども。

「砕けろや!」

 ハンマーを思いきり振り下ろすが、大振り過ぎる。あれじゃかわされ――。

「ふぬるぁ!」

 うっそだろ……。かわすどころか迎え撃ちやがった。しかも頭で。ゴーンって轟音が響き、男のほうが力負けして仰け反る。無傷とはいかなかったのか額から血を流すも皮膚が少し剥けた程度っぽいな。石頭どころか鉄頭だなありゃ。

「ふん! 鍛え方が違うってんだ! そんな体たらくでこのアズと張り合おうたぁ度胸だけは認めてやらぁな!」

 啖呵を切ると周りが盛り上がる。だがやはり歓声に対して辛辣なお説教。なんか、あれだな。気性は荒そうだが真面目な印象を抱くわ。

「野蛮……」

 男のほうは同感だが、巫女限定なら圧倒的にあんたのほうが野蛮だからな? 爪の垢でも煎じて飲めよ。せめて見習え。

「お前ぇらどうする? まだやるかよ?」

「や、やらねぇよ! 俺たちが悪かった……」

「お前の相手なんてしてたら命がいくつあっても足りねぇ……」

 男たちは敗北を認めてうなだれる。終わってみれば呆気ない。巫女さんの圧勝だったな。

「これからはちゃんと働……ってあれ? 入り口に誰か来てんじゃねぇか。客か? ……お前ぇらちゃんと相手したんだろうな?」

 おっとこっちに気づいてくれたようだがなんか表情が険しいぞ? 門番の仕事をサボったからかそれとも来客を受け入れない部族なのか。どちらにせよ新たな火種に変わりはないな。はてさてその火種、どこに向くかな? また襲われたりすんのかな? もしそうならめんどくせぇなぁ~……。

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