第107話
「え? 私の趣味に決まってるじゃん」
ですよねー。なんとなくわかってたよ。リリンやロッテの場合は自分で要望も言えるし先輩も応えるだろう。でもコロナは言葉を理解できても話せないし、特にこだわりとかもなさそうだから完全に趣味全開なんだろうな。
「っていうかその格好で来るかね普通? いやまぁ休日時は校内も制服じゃなくて良いんだけどさ」
部屋着どころか寝巻きの俺に呆れ顔の先輩。仕方ないだろ。コロナが離れようとしないんだから。コロナが離れてくれたら俺だって制服着てたっての。
「でもネグリジェのコロナたんを連れてきたのは評価しよう! ほら~♪ こっち向いて~♪」
「にゃーにゃー♪」
コロナ、完全無視。おーいコロナさんや。変態がこっち向けって言ってんぞー。反応してやれー。泣いちゃうかもよー。
「あっはぁ~ん♪ が~わ~い~い~! ブハッ!」
あ、なんでもない。なにをしようとこの人の琴線に触れるようだわ。証拠に盛大に鼻血噴いてる。自然体で良いみたいだぞ。良かったなコロナ。
さて、先輩はこのまま悶えさせてても良い……いや、良くはないな。悶えてたら用件を済ませられない。どうにか持ち直してはもらおう。それから話だな。
「先輩。熱心に血噴いてるところ悪いんですけど。今日は用があってですね」
「えへ……でへへへ……。うん? いや別に好きで噴いてるわけじゃないからかまわないんだけど――」
「にゃーにゃー。……あむ」
「ブッ! ハッ!」
コロナが俺の顎を噛むところを目撃してしまいさらなる出血。そんなサービスはいらないから話を聞いてほしい。つかコロナ。顎を噛むな。痛くはないけどよだれまみれになるだろ。
「……先輩。痙攣してるところ悪いんですけど話聞いてもらえます? 早く帰りたいんですけど。あとお前。いつまで噛んでんだよ」
「ふごごっ」
甘噛みを続けるコロナの鼻をつまみ、無理矢理ひっぺがす。抱きついてるのをひっぺがすときと違って比較的あっさり離してくれるからまだマシだな。それで噛む力強めてきたらどうしようもない。こいつ以外と力あるから顎肉持ってかれちまうわ。
「ぶ、豚鼻もどちゃくそキュートだぜ……。それで、都合の良いときにしか来ない幽霊部員後輩。用ってなんぞ? どうせ新しい服だろアソパソマソかよ」
別に顔は求めてない。イケメンに生まれ変わりたい気持ちはあるけどもね。磨いてすらないヤツが言うなって話だけど。
「コロナの新しい服がほしいんですけど」
「よしきた。今度はちゃんとサイズ測って乳袋つけようかなぁ~とかクラシカルじゃなくて普通にゴスロリも良いなぁ~とか色々考えてたんだよナイスタイミン後輩♪」
「いや、そういうのじゃなくて……」
「あ、もしかして新しいパジャマ? 実はこの前コロナちゃんに似合いそうなベビードールを作ったんだけど見てみる? はい」
スッケスケじゃねぇか。こんなもん着させられるかバカ。こいつブラとかつけないし寝るときはなおさら下着つけないから丸見えになるんだよ! アウトだよ! グレーゾーンを遥かに超えてレッドも超えてブラックだよ! バカ!
「……普通の。そういう先輩の趣味じゃなくて、パンツスタイルの服がほしいんですけど」
「ほうほう。なんだよよくわかってるね後輩。パンツにこだわりを持つなんて。かぼちゃパンツとかどうよ? すごい萌えない?」
どうしよう話が通じません。パンツスタイルつってんじゃん。ズボンだよズボン。つかどっから取り出したそんなモコッとしてかさばりそうなパンツ。キラキラ目光らせてアピールすんな。履かせねぇよ。
「普通の服がほしいんですよ。普通の。シャツとかズボンとかそういうの」
「え~……」
うわめっちゃ嫌そう。そしてめっちゃ目に見えてやる気なくしてる。やる気がなさすぎて床に寝転び始めたよ。制服汚れるからやめたほうが良いんじゃないかな?
「たしかにさ? どこぞのお姫様が異国の一般的なファッションに身を包んでお忍び的なシチュとかさ? 嫌いじゃないよ? リリンちゃんの最初のゴスロリドレスからのカジュアルファッションとかにギャップ萌え~とかあるよ? でも個人的には王道が好きっていうか? お姫様にはドレスを着てほしいって気持ちがあるわけなんだよ?」
そもそもコロナはお姫様じゃないんだがしかし。たぶん。こいつの出生とかちゃんと調べたわけじゃないしなぁ~。こいつの元いた世界は熱気がすごすぎてこっちから行こうとも思えねぇし。だが少なくともお姫様って感じじゃないんだよ。普段一緒に暮らしてる俺からしたら。もうね。ただの甘えん坊の幼児ですよ。背が少し高くておっぱいの発育が進んだだけのな。
「リリンちゃんとかロゥテシアちゃんは希望があるしお願いされたら断れるわけもないし希望を叶えるのがもうご褒美だからいんだけどさ? その服の希望って絶対コロナちゃんのじゃないじゃん? 後輩の要望でしょ? 萎えるわ~」
あ、そういうね。コロナ直々じゃなく俺からのだから嫌だと。チッ。別に良いじゃねぇか俺からの頼みでも。
と、思いつつ。都合よく先輩を頼ってる身としてはそこまで強く言えない。考えてるだけでもクズってレベルだしな。
さて、とりあえず先輩は頼れない。ってなると、自分で調達するしかないか。今度時間空いたら買いに行くか。しばらくはハイネの件があるから無理だけど。なんにしても用は済んだし帰るか。
「じゃ、用意してくれないってことなんで俺たちはこれで失礼しますわ」
「……ん? え? 帰るの?」
「帰りますけど? なにか?」
「いやいやいやいやいやいや。せっかく来たんだからさ。これ、持ってけよ」
無駄に良い声作って差し出したのはさっき見せられたかぼちゃパンツとやらとベビードール。いや、あの。もらったところで着せるつもりまったくないんで困るんですけど。
「遠慮しときます。じゃ」
「遠慮は無用! 持ってけ泥棒!」
だからいらねぇんだよ。いらねぇもん押しつけといて泥棒呼ばわりとかあんたも大概たち悪いな。
「不要なんで! 渡されても着せるつもりないんで! つーか早く帰りたいんで引き留めないでもらえます!?」
「うるせぇな! 良いから黙って持ってけよ! あーもうわかった! じゃあついでにこれとこれも持っていくがいいさ! 大サービスだこんちきしょー!」
今度はヒラヒラしたロリータ服をいくつも加えて押しつけようとしてくる。そっち系のじゃないの求めてるのになんで求めてないほうばっか渡そうとするんだよ!? もう間に合ってんだよ! 寄越すなら普通の服くれよ! 第一そんなヒラヒラしたもんばっかりかさばるわ! 勘弁してくれ!
「本当もう帰らせてくれません!? コロナの服はもう自分でなんとかしますから!」
「はぁん!? 素人の分際で美少女の服を見立てるだと!? なめんなよコラァ! 例え天地創造せし神が許してもこの私が許さんぞぉ!」
なんでキレてんだよ!? あんたがくれないから自分でなんとかしようとしてるんじゃん!? キレるくらいならあんたがなんとかしてくれよ! 普通の服をくれよ! コロナにズボンをはかせてやりたいんだよ! 二度とパンツ丸出しにならないように!
「にゃーにゃー……」
「ん?」
呼ばれたのでコロナのほうへ目をやると、少し眉を寄せている。この顔は……あ~腹減ったのか。
「先輩。どうやらコロナがお腹を空かせてるみたいなんでマジで帰ります。不機嫌になると騒ぎ出すかもなんで」
「ぬぅあに? それは一大事。コロナちゃんを空腹のままにするわけにはいかない。今日のところは帰してやろう。だが、これは忘れるな」
「……」
いつの間にかさっき渡そうとした服を全部紙袋に突っ込んでやがる……。抜かりなさすぎないか? 今これ以上揉めると本格的にコロナが不機嫌になるだろうからおとなしく受けとるけど。……どうしよこれ。着せないから無駄にスペース取るだけなんだよなぁ~。最悪かぼちゃパンツははかせても良いとして、ベビードールは……着せることは絶対にないから、本当に扱いに困るな……。捨てられないゴミをもらってしまった。どうしよう。
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