第108話

「かぁ~っ。本当どうなってんだよさっちゃんよ~」

 平日の昼食。唐突に伊鶴がきったねぇ前置きと共にフォークを向けてくる。イカリングをくぐらせて回してるのが腹立つな。

「なにがだよ?」

「いやね? 最近に限らずさっちゃんって演習での勝率良いじゃん? 一回だけ未参加はあるけど、参加したのは全勝。最近に至っては自分で戦い始めるし。午後の授業でも一対全員でも歯が立たないしさ。どんどん差が開いてるわけなんだけど」

「……で?」

「ぶっちゃけこんなのはあ~仕方ないなぁ~ってなるんだよ。さっちゃんのA組との試合でやった暴発覚悟のマナ供給見せられたりリリンちゃんみたいなバッカみたいに強い契約者との縁もあるわ。裏でコソコソ秘密特訓的なこともしてんだろうな~ってのもなんとなくわかるし納得できるんだよ」

「伊鶴……。結局あんた何が聞きたいの?」

「最初は強さの秘訣とか聞こうとしてるのかと思いましたけど。違うみたいですしね。前置きが長すぎるので早く本題に入ってほしい感あります」

「あと行儀も悪いね。いくらガサツでも食事中は控えたほうが良いんじゃない?」

「そうだな。私も食べ物でふざけるのはどうかと思うよ」

「おう……。女の子に優しいミケちゃんにも注意されてしまった……。さーせん。もろもろさーせん」

 (´・ω・`)っとしながらイカリングをモムモムと処理する伊鶴。飲み込むと改めてフォークを向けられる。

「そんでだよ。もうね。さっちゃんが激強いのはもういんだよ。これからもっともっとガンバっていつか一泡吹かせるつもりだから。こんなのは後々でいんだよ。そんなことよりも今一番気になってることは――そのお肌! あむっ」

「「「は?」」」

 空いた手で俺を指差しながら別のフライを口に運び咀嚼する。あれは鱈かな?

 他の連中は……俺含めてだけど。予想外過ぎてハモったわ。

「えっと伊鶴……それ、重要?」

 いち早く回復した多美が伊鶴に逆質問。うん。皆同じ気持ちだ。よく聞いてくれた。さすが伊鶴の親友。こういうとき頼りになりますわ。

「だってさタミー! 最近のさっちゃんのお肌綺麗過ぎない!? 美白にもほどなんだけど! は? なに? スキンケアとかしてんの? 意識高い系女子かよ」

 なんでちょっとキレ気味なんだよ。意味わからねぇ。別に良いじゃん肌綺麗になっても。第一望んでなってるわけでもねぇし。リリンの存在が混ざった影響でこうなっちまっただけだっての。肌はただの副産物だわ。なんなら別にいらねぇ副産物だし。

「やっぱあれなの? 爛れた生活送ってっから肌も綺麗になるってか? ハハ。ウケる」

「ケアもしてねぇし爛れた生活も送ってねぇよ。コロナがいるからまずそんな隙ができるわけねぇだろ」

 俺に下心があるとして。まぁ普通に思春期男子程度にはあったし。今はちょっと落ち着いたけどそれは置いといて、ヤれるもんならヤりてぇって気持ちはあるにはあった。でも絶対溺れるだろうからと控え、そしてコロナが来てからは基本的に引っ付いてるから隙なんて皆無だよ皆無。この体になってからは理性で抑え効くし、逆にむしろ一発くらいヤっても問題ないまである。発情した獣のごとく盛って他が手につかなくなることは二度とないだろうからな。

「ケアも女も知らねぇでそんなバチクソ綺麗な肌になってたまるか! 吐け! どんな化粧水を使ってる!? 乳液は!? クリームは!? 誰を抱いたぁ!?」

「知るか! ってかケアはともかくお前どんだけセッ○○に妙な信頼置いてんだよ! いやまぁどんな効果あるか細かいことは知らねぇけどさ!」

「○ック○したら美人になるってビッチなお姉さんが動画で言ってたんだよぉ! 肌も綺麗になるしスタイルも良くなるって! ○ッ○スなめんな!?」

「最早俗説ですらねぇじゃねぇか! せめてもっと確かなソースはなかったのかよ! そんな不確かな理由でセッ○○しただろとか良く言えるな!?」

「セック○○ッ○スうるせぇなぁ!? 学食だよここ!? 弁えなよ! 一緒にいる私らか恥ずかしいわ!」

 ハッとなり周りを見渡すとすんごい目で見られてる。ま、まぁどんな感情が込められてるかは察してくれ。

 俺も伊鶴も一度深呼吸をはさみ心を落ち着ける。

「なんかすまん。つい熱くなっちまって」

「本当だよさっちゃん。こんな場所で声高々に○ッ○スなんてお下品よ?」

「あんたは反省することを覚えろ……っ」

「ぐぶっ!?」

 胸に逆水平チョップを食らい悶える伊鶴。ざまぁ。

「あ、あはは……。で、でもあれですね。さっきチラッと話題に上がったというか。伊鶴さんがスルーしたお話ですけど。才くんの強さの秘訣のほうは気になります」

 苦笑いを浮かべつつ話題を変えにかかる八千葉。苦笑いの理由はわかるので申し訳ないと思うわ。ごめんな。

「たしかに気になるね。才ってば急に強くなっちゃったよね。あのレディの能力は同調を重ねていけば僕らでも契約者の能力は使えるようになるって聞いたけど。才の場合はなんかもっと根本から違う気がするよ」

「マイク君の言ってる事には同意する。才君は身体能力や戦闘の勘まで身につけている節がある。勘は長年の経験から来るもののはずだから急に冴えるのは解せない」

 ミケの言ってることは正しい。マナの感覚を掴むための循環も、同調での感覚共有も、同調の先にある簡易融合は全部一時的なもの。

 逆に俺が行ったのは自分の存在を作り変える侵食と投影。これらは永続的なもの。投影は工夫したら疑似だが一時的にできるかもだけど、少なくとも俺は永続的な変化しかやってない。

 簡単に言えば俺は人間よりも強い生物に変わってるわけだから、強くなって当たり前なんだよ。しかも結構ハイペースで変化したようだし。それで急に強くなったように思うんだろ。実際その通りだし。憐名んときに一気にやっちまったからな。証拠にリリンは未だに目を覚ましてない。もう起きるのは時間の問題だろうからあんまり気にしてないけども。

 っと、夕美斗たちが俺を見てる。答え待ちだったな。

「……フム。言えることは、特にないな」

 俺がやったことはめちゃめちゃリスキー。成功したところで人間をやめることになる。そんなもん易々と教えられねぇよ。下手に興味持たれても責任持てないし。人間やめるのは俺だけで良いだろ。

「え~。もったいぶっといて秘密かよぉ~。せめてお肌だけでも」

「適当な男捕まえて抱かれてこい」

 不満タラタラな面で非難されたもんで俺も適当な返答。こんな返し伊鶴にしかしねぇけど。

「あ、自分、ビッチじゃないんで」

 真顔で言うな。つかそれならなんで秘訣は○ック○だろとかのたまったよ。羨ましがってたクセによ。仮に俺が良い女抱いてるからとか言ったらどうするつもりだったんだお前。どうせ罵詈雑言並び立てるだけとは思うけどな!

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