第97話

「じゃあ今日もお願いします」

「は~い。コロナちゃん。今日もよろしくね」

「……ん」

 教室に行く前にまずは預託所へコロナを預けに来た。リリンが倒れてからロッテは付きっきりになってもらってるし、予てから一度は預けるつもりだったからな。一度じゃなくかれこれ二週間預けてるけどもね。リリンが目を覚まさないから仕方ないんだが、なんだかんだコロナも馴染んでるみたいで良かったよ。

 ちなみにこの預託所いくつか種類があり、俺たちが来ているのは児童科。読んで字のごとく子供の契約者を預かってくれる場所。働いてる人も幼稚園の保母さんって感じの人ばかりだ。

「今日はなにして遊ぼっか? って、いつもコロナちゃんはボーッとしてるだけだったね~。先生、一度くらいコロナちゃんと遊びたいなぁ~?」

「……っ」

 コロナ担当の保母さん――瓶津知みかづち睦歩むつほ先生はコロナに目線を合わせて微笑むも、コロナは俺の後ろに隠れて抱きついてくる。瓶津知先生はコロナのことをいたく気に入ってるようだが、コロナは未だに俺以外になつかないし、俺とロッテ以外の世話を基本的に受け付けない。瓶津知先生の言うとおり授業が終わるまでずーっと邪魔にならない場所でボーッとしてるそうだ。……うん。馴染んだというのは嘘だったなすまん。

「あ~ん。またフラれちゃった。天良寺くん。どうしたらコロナちゃんと仲良くできるかな?」

「さぁ?」

 そんなこと俺に言われても。最初から好感度マックスだったしわかるわけねぇです。

「そっか。じゃあ気長に頑張ろっかな」

「そうしてやってください。一応俺以外の接触を許すこともあるのは実証されてるんで」

「言い方的にすごい希な例を聞いてるようだけど。わかりました。いつかコロナちゃんを抱っこできるよう努力させていただきます」

 堅い言葉とは裏腹におどけた様子で言うあたり気安く接せれる感じがあるよな。ノリが良いっていうか。コミュ障の俺でもこの人とは話しててあんまり苦じゃない。俺以上のコミュ障コロナさんともなると受け付けないみたいだけどな。なにが気に入らないんだ? ってより俺以外気に入ることがほぼないんだなお前。俺に依存しまくりだな。将来が心配だよマジで。

「ほら。いつまでも引っつくな。授業に遅れる」

「……ん」

 ちょっと前までは頑なに離れようとしなかったけど、今では一言で素直に離れる。聞き分けの良い子にはなってて嬉しいよ。そのまま自立できること増やしておくれ。

「じゃ、また昼に」

「はいは~い。コロナちゃんもお兄さんにあいさつしましょうね~」

「にゃーにゃー……」

 悲しそうな顔で手を振ってる。よく毎日飽きずにその顔向けやがるな? 悪いことしてる気持ちになって良心が痛むからやめてほしい。

「……昼になったらすぐ迎えに来るから。そんな顔すんなよ」

「……っ」

 コラ。首を横に振るんじゃない。変なところにこだわり持ちやがって。そんなに俺を責めたいか。

「まったく……」

 時間も差し迫ってきたことだし今は追及しないでおいてやるが、いつかその面やめさせてやるからな。覚えてろよ?



「くたばれこのペド野郎がぁ!!!」

「クキャアッ!」

「相も変わらず物騒なこと言ってんじゃねぇぞ変態ちんちくりん!」

 ひっどい悪口と共に飛んでくる伊鶴とハウラウランの爆撃を影で防ぎつつ、俺も罵倒で応戦。幼稚だと思うが俺にとってはコミュニケーションの練習なんだよこれでも。いつまでもコミュ障はいけねぇなぁって最近思うようになっちゃったし。ただ伊鶴がやたら目の敵にしてからかったり悪口言ったりするから俺も釣られちゃうだけなんだよ。本意ではないんだよ本当だよ。

 で、なぜ爆撃されてるかというと、七月に入ってから体力作りは各々勝手にやれというスタンスになり、今はひたすら室内訓練場で実戦的なことしかしてない。体力はもう無理して体を使わない限り無尽蔵になったから実戦オンリーなのは俺にとってありがたい。

 しかも俺とコロナの戦闘力が高いってことで、午後の後半は今みたく一対一だが、前半は多対一のグループを二つ作って俺とコロナが一側をやらされる機会が多いのも助かる。コロナはどうか知らないが、俺はもっと経験を積みたいからな。なんなら全員対俺でも良いくらいだわ。

 ……ごめんちょっと盛った。せめて三対俺くらいじゃないと影も回避もたぶん間に合いません。俺、蜂の巣か消し炭になります。

「おらぁ! 誰がちんちくりんじゃドラァ! 貴様の目は節穴かぁ!? この豊満なおっぱいが目に入らんかおぉん!!?」

「クケケケケケケケケ……ッ!」

「っと」

 爆撃から連射にシフトしてきたので影を納めて回避に専念。広範囲の面での攻撃は影で防がなきゃいけないが、複数の点なら辛うじて影を使わずにかわせる。というか今の俺だと影を使いながらかわしたり接近したりとか同時になにかを行うことができない。だから一度影は閉じないと攻めに転じることができないんだよな。コロナがいれば役割分担ができるんだが、今は一人だし。コロナが参加するのは前半までで今は隅っこで休憩中。さっき買ってやったいちご牛乳をチューチュー飲んでるよ。ってわけで俺一人でなんとかするしかない。ただ、この連射へのシフトは恐らく誘いなんだよな。あっちも影を出されてたら決定打を当てられずマナを消費するだけだし、俺が動く隙をわざわざ作ってる気がする。ま、それに乗るしかないから突っ込むんだけどな。生憎と俺には遠距離の攻撃手段がないんでね!

 つかスルーしかけたけど、豊満なって……。たしかに膨らみは大きく見えるけどそれ背が小さいからだろ? お前あってもD寄りのCくらいじゃないか? 少なくとも言うほどではないと思うぞ。

「閉じた! ここだぜやっちゃえハウちゃん!」

「クゥッキャアアアアアア!」

 やはり誘いだったようだな。グリモアに指五本当てて全力でマナを注いできやがった。今になってわかるが本当すげぇ量のマナ。密度も結構濃い。それでも俺ほどじゃないけどな(ドヤ)。

 さて、結構近づいてしまってからの広範囲を爆破。だが、俺も誘いとわかってたし、日々影の扱いに慣れていってる。初めて使ったときよりもスムーズに展開できるので影を再展開し軽々防御。がやんだタイミングで身体能力を底上げして踏み込み、伊鶴の後ろに回り込んで羽交い締め。

「きゃー! お~か~さ~れ~るぅ~!」

「いやあの。タイプじゃないんで」

「逆にひど!?」

 ルックスは悪くないけど中身がなぁ~……。萎えるんだよなぁ~なんか。もちっと落ち着きを持ったら琴線に触れるぞたぶん。俺に好かれたところでお前全然喜ばないと思うけどな。

「そこまで。お前らはもう上がれ」

「うぃ~っす。じゃ、おつかれさん」

「次は絶対に五体散々バラバラにしてやるからなぁ~? 覚悟しとけよさっちゃん。あ、ペド野郎」

 わざわざ言い直してんじゃねぇ。絞めるぞ。この状況で力入れたらお前の関節いくつかぶっ壊せるんだぞ。やらないけど。

「やれるもんならやってみろちんちくりん」

 軽口を返しながら伊鶴を解放してやり、コロナを回収しに行く。リリンの様子も気になるし、変わってないようならちょっと事情がわかりそうな人に連絡を取ってみようかな。そんなの一人しかいないけど。ある意味一番ぶっ飛んでるから気は進まないけど、背に腹は代えられんよね。

「ところでさぁ。さっちゃん」

「あ?」

 コロナのほうへ歩き始めると伊鶴に話しかけられる。用があるなら羽交い締めんときか離した直後にしろよ。わざわざ呼び止めんな。

「さっちゃんこの前からめ~っっっっちゃ強くなっちゃってさ。あ、いや前から演習とか負けなしだったけどさ。そういうんじゃなくてさっちゃんが強くなったって話ね。そんでまた先に行ってんだなぁ~って思ってたけど。なんか、今のが近い気がする。今のほうが良い感じだよさっちゃん」

「……」

 反応に困ること言うなよ。でも、そうだな。お前の言うことが嘘じゃないんなら、俺の脱コミュ障の意識改革が少しは上手くいってるってことだな。これからも続けていくわ。夕美斗との会話がヒントになったように、いつかはお前からもヒントをもらえるかもだし、な。

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