第85話

「というわけなんだが。なんか良い案ない?」

 部屋に戻り憐名との賭けについてリリンに相談してみる。コロナがなんかめちゃめちゃやる気になっててこのままだと本当に演習に出さざるを得ない。まだコロナが戦えるかわからないし、そんな状態だからできれば出したくない。つーわけでこいつならきっとなにか思いつくはずと期待してのことだ……ったのだが。

「クハハ! 別に良いんじゃないか? 本人がやる気なのだろう? 面白そうだから我も当日見に行くとしよう」

 んんんんんんん……! 期待はずれ! クソ! なんで重要なときに意見を出してくれないんだ! いつもなら振らなくてもポロッとこぼすのに! いざってとき使えねぇな!? 仕方ない。なぜか憐名としゃべってるときまったく口を挟まなかったロッテにも意見を聞いてみよう。ロッテは俺の味方だと信じてる。

「コロナ。しっかりやってくるんだぞ。やるからには勝って来い。しかし怪我をしたら才が悲しむだろう。なので圧倒的に叩き潰してくるんだ」

「ん! フンスフンス!」

 犬畜生テメェもか!? つかコロナ煽ってんじゃねぇよ! そして珍しく俺以外と会話っぽいことしてるな? この数日で仲良くなってくれたようで嬉しいよ!(怒)

「もぅ~……なんでお前らそんなに乗り気なんだよぉ~……。俺貞操の危機なのわかってるぅ~?」

「客観的な話をすれば危機なのはお前だけで我らほぼ害ないからな。コロナだけは戦闘経験の機会でもあるが負ければお前との関わりが減る可能性もあるから半々といったところだが」

 はっはーん。ごもっとも。それでも俺はお前らに優しさを期待していたよ。はずれたけどな。冷静な分析よりも温かい慰めがほしかったよ。

「コロナの経験は後日で良いじゃん……。なにもリスキーな場面でやらなくても……」

「本人がやる気になってしまったんだから仕方あるまい?」

「フンスフンス!」

「……」

 ……そうなんだよなぁ~。そこなんだよなぁ~。この頑固者。一度言ったら中々聞かないんだよなぁ~……。一応俺を取られないようにしてでのことだから怒るに怒りづらいし。どうにかしてやる気を削ぎたいんだけど……。無理そうなんだよなぁ~……。

「そう悲観するな。思い出してみろ。コロナは儂を近づけないほど膨大な熱を発していた。制限されていたとはいえリリンを力で押し潰していたんだぞ? その気になればそうそう負けないだろう」

「そりゃそうだけど……。今使える力なのか、また制御できるかが問題だろ。……つかなんでお前はお前でコロナが戦うのにノリノリなんだよ?」

 な~んか妙にコロナが戦うということに対して積極的に見えるんだが? 気のせいじゃないよな?

「群れの子供にはなるたけ早く狩りに参加させていた。若いうちから経験を積んだ方が良い勘を持つようになる。長い事生きてるからこその経験談だよ」

 あ~……ゴールデンエイジみたいなやつ? 幼い頃は特にセンスを磨ける時期で、その間に良い経験させろ。みたいな。なんでお前急に群れの長的考え持ち出したよ。この数日で母性に目覚めたかこの雌犬。

「気持ちはわかるけどよ……。なにも今回じゃなくても……」

「やる気がある時だから良いんじゃないか。やる気。モチベーションがなければ身に付くものも身に付かんよ。リスクがあるからこそ得られるモノもあるし」

 言ってることはわかるんだけど一番リスク負ってるの俺ってわかってんのかな? 俺基本的に安全第一ですよ? こう見えて。

「それに主にとっても良い機会だろう」

「……というと?」

「普段戦闘……演習はリリンや儂主導。主はマナを送るのみ。これはイカン。所謂練習だから通っているが、実戦では話にならんだろ。力の供給源が思考せずにいたら叩かれた時点で終わりだからな。供給源であれば余計に逃げや迎撃くらいはしてもらわんと前にいる者は安心できん。せめて戦闘に必要な思考だけでも磨いてもらいたいと思っている」

 おおう。ド正論。たしかに俺のマナが主なリソースだし、実戦で安全エリアなんて存在しないから危ないときは自分の判断で逃げる必要も出てくるだろう。ロッテ。お前の言ってることは正しい。正しいよ。……でも良いか? 今回じゃなくても良いじゃん!? コロナなら俺が言えばやる気出すよ!? たぶん!

「クハハ! 言いたい事が手に取るようにわかるぞ! 案ずるな。反論は尽く論破してやる。甘んじてコロナと心中してくると良い」

 はぁ~……。詰んだ。もう何を言ってもダメだ。リリンが本気で口を出したら俺のちっぽけな脳みそじゃ勝てるわけない。唯一正論を述べられるとしても一つだけ。心中したらダメだろ! これだけだよ。え~もうどうしよう……。

「まぁ追い詰めるだけでは憐れだしな。助言はくれてやる。……そうさな~。まずコロナの戦力分析をしてくると良い」

 助言つかそれ普通に必須なだけじゃん。お前に言われなくてもそうするつもりだったんだけど。もっとなんか役に立つこと言えよ~……。

「あとは……他人を参考にするのも良いんじゃないか? お前の周りには面白いのが転がってるだろう?」

 参考にできそうなヤツ……となるとあの面子か。まぁ参考になるかは置いといて話くらいは聞いてみたほうが良いか。やれることつったらそんなもんだし。できるだけのことはしないとな。なにせ俺の貞操の危機なんだもん。下手したら処女の危機だもん。是が非でも勝たなくてはならぬ!

「うっし。腹くくるか。コロナ。やるぞ」

「フンス! フンス!」

 ……本当に大丈夫かな。マジで頼むぞコロナ。お前はヤればできる子って信じてるぞ。

 あとできることは……うん。とりあえず、預託所に預けるのは延期することくらいか? しばらく授業中もコロナと一緒にいられるよう小咲野先生に頼んでみよう。……承諾してくれっかなぁ~。



「本当にお前はよく指名されるな? 一体何をそんなに目の敵にされる事があるんだ」

「ええまぁ……。自分ではよくわかりませんけど。そういう星のもとってことで納得してください」

 早速授業が始まる前に職員室を訪ねる。経緯を説明して呆れた顔をされたところ。先生。俺は別に好んで絡まれてませんので、そこだけは勘違いしないでくださいね。

「まぁ、演習への対策。という名目だし。構わん。授業の邪魔をしないならしばらく目を瞑ってやる」

「あ、ありがとうございます……! それと午後の授業なんですが……」

「わかっている。しばらくそれの把握に回って良い。そもそも自由参加だ」

「助かります」

 良かった。とりあえずこれでコロナと行動は共にできる。その間にコロナの情報をできるだけ得ないとな。いんや~話をしたらちゃんとわかってくれる先生で良かったよ。幼女リリン雌犬ロッテとは偉い違いだ。尊敬します先生!

「遅れた分も気にしなくて良い。来週からはお前だけハードにしといてやる。他の連中に置いていかれないようにな」

「……」

 ……そんな気遣いはいらなかったかな!? 尊敬すべき先生様よ! あ~……演習も憂鬱だが、終わっても憂鬱になるようなことが待ってるなんて。僕はとっても憂鬱です。憂鬱三重奏。だけどあとのことはあとで考えようまずは最初の問題から片付けないとな。……はぁ。しんどい。

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