第84話
「それで、お前いつまでついてくんの?」
「はぁ……はぁ……。どうせ、学園に戻るんでしょ? だった、ら。帰り道一緒だから気にしなくて、良いよ。っていうか、なんで息上がってないの……?」
「E組は午後の授業ほぼ体力作りだからな。多少は体力ついてるんだよ」
帰途につく中。憐名は未だに呼吸を整えてる。逃げ切った後、歩き始めてからもう十分は経ってると思うんだが……。いくらなんでも体力なさすぎじゃね?
「……なんで?」
ものすんごい眉間にシワを寄せてわけがわからないって顔をしてるな。うん。まぁ気持ちはわかる。
「知らん。うちの担任に聞け」
わざわざ教えてやる必要もないので詳細はごまかしておこう。本音を言えば説明がダルいだけなんだがな。
「ふ~ん。E組は午後の授業やってないと思ってた。よく寮に帰ってる人たち見かけるし」
「うちは自由参加なんだよ。出なくても欠席扱いにならないし」
「え、なにそれズルい」
その代わり土日の演習で勝ち星上げてるのは俺含め六人だけだけどな。なんだかんだあの授業無駄になってないよ。……同時に役に立ってるかって言われたら夕美斗以外微妙なところだが。まぁそのうち目に見えた成果も出てくるだろ。
「……ねぇ、天良寺くん。どうして助けに来てくれたの?」
「……」
急だな。さっきまで特に聞きもせず世間話を始めたから流したのかと思ってたけど。機会でもうかがってたのか?
「天良寺くんって僕のこと嫌いか苦手だと思ったんだけど」
「間違ってないな」
「ひど。ポーズでも否定してほしかったな~」
無理。俺、お前苦手。会話してるのは居心地悪いからってだけだし。なんならロッテと話しててくれよ。俺に意識を向けるな。
「でもそんな僕を助けに来てくれたわけじゃん? ねぇ、どうして?」
……マナの流れ的にやらかしそうだったから。とか言えないしな。どうごまかしたもんか……。う~ん。無難にありきたりな感じで言い訳するか。
「知り合いが絡まれてんの見てほっといたら寝覚めが悪いから割って入っただけだ。ま、穏便に済ませられなかったけどな」
「……天良寺くん。今の台詞はダメだよ」
「は?」
なにがだよ。今の言葉のどこがダメだかさっぱりわからんのだが。
「今のは誘ってるって思われても仕方ないかなぁ~」
いやなんでだよ。どこにそういう要素あった? マジでわからん……。
「もしかして天良寺くん。ツンデレなのかな? 僕のこと嫌いなの否定しないのに助けてくれたりするし。それならちょっと納得できちゃうかな」
「ち…………お前がそう思いたいんならそうしろ」
思いっきり否定したかったけど。逆にツンデレっぽいからやめる。叫びかけたから危なかったぜ。
「じゃあそう思い込むことにしちゃお♪ 天良寺くんがツンデレって思ったらさらにそそって来た。あ~……犯したい……」
物騒! お前なんでそんな突発的に肉体関係作ろうとすんの? え? ビッチ? ビッチなの? 俺ビッチさんはちょっと怖いので今すぐ逃げたいんですが。
「ふふっ。そんな怯えた顔しないで? 天良寺くんが心の底から嫌がってる間はするつもりないから。……自分から求めるようにはできるけど」
妙にエロい舌なめずりに紅潮した頬にトロンとした目がさらに恐怖をかきたてる。普通こんな美人にこんなことされたら性的な気持ちになるはずなんだが……。あ、一般論じゃなく俺自身の話な。俺も別に女に興味ないわけじゃない。むしろ興味津々なくらいだし。ただ今はもっとやりたいことがあるから自制してるだけ。で、そんな一般的な男子並みに性欲のある俺なんだが、どうしてか憐名にはまったく欲情しない。自分でも疑問に思うわ。
「う~ん。やっぱり天良寺くんって僕にまったくそういう気持ちにならないね? 枯れてる?」
「枯れてねぇよ。生理的に無理なんじゃねぇの」
「うっわ~。今の本格的に傷ついた。僕これでもモテるのに。責任取って一晩かけて慰めて。性的な意味で」
いやなんでだよ。たった今生理的に無理って言われてなんでそんなこと言えんの? 絶対傷ついてないじゃん。鉄のハートか貴様。
「一回シちゃえばきっと僕のこと好きになるよ♪ 絶対上手って言われるの。僕以外じゃ気持ちよくなれなくなったって」
……ドラッグみてぇなヤツだな。僕は健全なんでそんな危ないモノに手を出したくないです。
「ね? 一回だけ? お試しでシてみよ?」
「俺初めての相手は同じ初めてって決めてるんで諦めてください」
「……天良寺くんが望むなら良いよ? 処女散らしてあげる。大丈夫。僕もソッチは初めてだから♪」
ふざけんな。初体験でなんで俺が掘られる側なんだよ。しかもなんですげぇワクワクした顔してんの? 絶対嫌だからな!?
「冗談は置いといて」
……どれが冗談なんだ? まさか掘るのは初めての部分じゃないだろうな? クソ。怖くて聞けねぇ。
「天良寺くんは処女厨ってのはわかった。でも経験者相手にするのも良いと思うの。食わず嫌いは良くないよ?」
俺も別にこだわってねぇよ。どうにかしてお前から逃げようとしてるだけですぅ~。
「ね? 一回だけ? 口だけ! 先の方だけ!」
必死か。俺のどこにそんな必死に肉体関係作りたいほどの魅力があるよ……。
「どうしたらシてくれるの? ねぇ~え~」
「……しつこいぞ。もう諦めろよ」
「それは無理な相談かな。天良寺くんの悶える姿が見たいんだもん。僕の体に溺れる姿が見たいんだもん」
うわっ。背筋に悪寒が! こいつと話してると定期的に来るゾクッとするの本当嫌。
「もう~。またそんな嫌な顔して。ま、それがまた興奮しちゃうんだけど」
え、そういうことなの? だからわざわざ俺が嫌がることを言ってたわけか!? 俺が本気で嫌がることしないとか言ってたのに! この嘘つきめ!
「はぁ~。でもしつこいっていうのは自覚あるし~。といっても会ったときに積極的に押してるだけなんだけど」
その会ったとき三回中二回がドギツいんだよなぁ~。二回でうんざりさせるってどんだけだよ。
「本当は僕もゆっくり何度かお話ししてから徐々に仲良くなってそういう関係にしたいんだよ? でも天良寺くんがムラムラさせるからこういうこと言っちゃうの。積極的になっちゃうの。いい加減に僕を誘惑するのやめて!」
「えぇ~……」
俺のせいなの? お前言ってる無茶苦茶だと思うんだけど俺が間違ってるの?
「と、言われても天良寺くんは納得しないと思うので」
うん。納得しないな。今んところお前の頭がおかしいってことしか理解できてないくらいだぞ。
「妥協点を探しました」
おお。それは是非聞きたいものだ。なんとなーく流れ的に何を言うかわかってきちゃったけども。聞いてやるよ。
「僕と勝負しよ。僕に勝てたら天良寺くんの嫌がることはやめるよ。でももし僕が勝ったら一日だけ僕の好きにさせて?」
はぁ~そうなりますよね~。わかってました。あ~もう。なんでこう俺って月一くらいで格上から指名受けなきゃいけないの? え? 呪いですか? だけどまぁ。うん。手っ取り早いし。良いか。リスクはあるけど。ロッテやリリンが相手すりゃ負けないだろ。
「わかった。その賭け受ける。俺が勝ったときちゃんと約束守れよ?」
「もちろん♪ 天良寺くんも守ってね? あ~来週が楽しみ!」
「……まるでもう勝ったみたいな言い方だな」
「天良寺くんがA組二人に勝ってるのは知ってるけど。天良寺くんが証明しちゃったからね。クラスと強さは別物って」
「……」
まぁそうだな。最弱の俺が最強クラスに勝ってしまったので。否定できるわけもない。
「それに~。賭け事をするのに勝ったときのことを考えないなんてことないでしょ?」
「た、たしかに……」
「ね? だから僕は勝ったときのことを考えるの。一晩あれば十分。一晩あれば天良寺くんは僕から逃げられなくなる。僕以外考えられなくなる。他のことなんて手がつかないくらい徹底的に体に刻み込んであげるね♪」
今までで一番良い顔してやがる……。怖い……。一晩でそこまで依存させられる自信あつるってお前、本当に危ない薬とかやってないだろうな? 違法ダメ絶対。
「やっ」
「ん?」
憐名の言葉に反応したのは俺だけじゃなかったようで。いつの間にか目を覚ましていたコロナが憐名を睨みつけていた。
「やっ!」
「お、おいコロナ……?」
「やあああっ! がううううっ!」
きゅ、急にどうした? 人見知りするコロナが初めて他人に敵意をむき出しにしてるぞ!? 拒絶することはあってもここまであからさまに自分から威嚇するなんて……。
「あらら? もしかして自分が相手にされなくなるってこと。理解しちゃったかな? へ~。思ったより賢いね」
あ~。なるほど。憐名が勝った場合憐名にしか関心がなくなって他が手につかない。つまりコロナのことも放置って流れか。お前よくそこまで考え回ったな。お利口だな。偉いぞ。でもあんまり威嚇するのやめてな? 抱えづらいから。
「落ち着け~。コロナ、どうどう」
「やあっ! やあああああっ!」
「あはは♪ か~わいい。そんなに天良寺くんのこと好きなんだ? じゃあ貴女が僕の相手する? 取られないように勝てるよう頑張ってね」
「は? おいそれって……」
つまりコロナが演習でお前と戦うってこと……だよな? おいおいまだコロナの現在の戦闘力測れてないのにリスキーなデビュー戦なんてさせられるか。
「フンスフンス!」
なんでお前もやる気になってんだよぉ!? やらないよ? やらないからな!? 絶対お前は演習にはまだ出さないから!
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