第82話

「……」

「……」

「あうあう」

 現在午後二時。場所はファミレス。俺とロッテは席につくなり突っ伏していた。あの雑貨屋の店長にそれはもうしつこくしつこ~くプレゼンやら注意やらを受けましてね。俺とロッテはげんなりですよ。コロナは途中で絶対嫌気差して不機嫌になるなって思ったからさすがに抱っこしてた。お陰で今元気に俺にかまってほしくて隣からぺしぺし背中を叩いてくる。うっとうしいからやめてほしい。

「にゃーにゃー……」

 あ~。コロナの腹がくぅ~っとなってやっとわかった。ぺしぺししてたのはかまってほしいのではなく飯の催促か。気づかなくて悪かったよ。

「はいはい。何食いたい? とりあえず選んでみ?」

「ん」

 注文用のタブレットを見せるとメニューを吟味し始める。何度も最初から見返して慎重に選んでるよ。

「ん!」

「これか? あいよ。……ロッテ。お前先に選べ。選んだらまとめて注文するから」

「ではこれを」

 はやっ。まるで最初から決めていたかのよう。いや決めていたのかもだけど。えっと……。コロナがラザニア。ロッテがまんぷくグリルセット。そういやリリンも頼んでたなまんぷくグリルセット。あの日も酷い目にあったなぁ~……。なんだか懐かしいわ。おっと、俺がまだ決めてなかったわ。え~っと。ガーリックステーキライスで良いや。疲れたからスタミナつけよ。あ、女連れでもニンニク食べます気にしません。気にする相手でもねぇしこいつら。あとは……どうせ食べるだろうからデザートも注文しとくか。コロナはプリンアラモードで良いだろ。俺は甘さ控えめなレアチーズケーキ。ロッテは……ティラミスでも食わせとこ。

「おまたせしました~」

 頼んだ物が届く。その際、店員が俺たちを何度もチラチラと見てきたよ。まぁ気持ちはわかる。普通の若い男と背は高いがモデルみたいな美人に背は小さいが胸は大きい銀髪銀眼の幼女が一緒にいるんだもん。どんな面子だよってなるよ。親子でもないしそもそも血縁を感じないだろうし。なのにやたら幼女はなついてるし。わけわかんねぇよな端から見たら。わざわざ説明する義理もないから存分に疑問に思ってくれってことでよろしく。俺は他人のことなんぞよりも今目の前にある飯を冷めないうちに食べたいんですわ。

「じゃあ食うか。いただきます」

「いただきます」

「ん~♪」

 店員以外。つまりは他の客からもチラホラ視線を感じるが、気にせず食事に手をつける。慣れたくはなかったが、周りの視線なんて最早気にならないね。だって俺の周りにいるヤツらが目立つのばかりだからな。慣れざるを得なかった……。なんだか悲しいね……。

「にゃーにゃー。あ~」

 俺が軽くアンニュイになってるとコロナが食わせろとせがんできたよ。もう少し浸らせろ空気読め幼女コロナ

「お前一人で食えるんだろ? なら一人で食ってみ?」

 ロッテから一人で食べていたと報告を受けてから何度か食事の機会はあった。あったんだが、結局俺に食べさせてもらってたんだよなこいつ。昼はロッテに預けてたから、コロナと一緒に食べるのって必然的に朝とか夜とか時間のないときだったからめんどくさくて食わせちゃってたけど。休日の外ってなったら話は別だ。今日こそ俺の目の前で一人で食ってもらうぞ。さぁ!

「やっ。……あ~」

「……」

 ですよねー。だわ。もうね。わかっていたよねこの流れ。だが折れん。折れんよ。コロナの成長のためにも甘やかしてばかりではおれんのだよ。

「自分で食え」

「あ~」

「……」

「あ~」

「……」

「あ~……」

「……」

「……」

「……」

「すぅ~……っ!」

「駄々こねたらわかってんだろうなテメェ」

「むぐっ」

「……自分で食べれるところ見たいなぁ~?」

「むぅ~……」

 うっし勝った。渋々ながらもスプーンを手に取って食べ始めたぞ。スプーンでくり貫くという力業で食っているが細かいことは良い。自分で食べる。それが重要だからな。

「やればできるじゃないか。よしよし」

「っ!? むふ~♪」

 労いも兼ねて頭を撫でてやると上機嫌に。誉められるという味を覚えて色々やるようになってくれると良いんだけどなぁ~。そしたら楽なんだが。さすがに高望みだろうか?

「にゃーにゃー♪」

 あ、食事の手を止めてなでなでに集中しだした。自分の手で食わせたいのに俺が止めたらダメだわ。本末転倒。

「はいおしまい。あとは……そうだな。最後まで食えたらな」

「……フン! あむ! フン! あむ!」

 一瞬考えたあと鼻息荒くせっせこ食い始めた。くり貫いては口に運び、くり貫いては口に運び。勢い良く平らげてく。おおう。それはなでなでされたいのか誉められたいのかわからんが、味をしめてくれてなにより。さて、俺も手が空いたことだし自分のぶんを終わらせるかね。

「ふぅ……ご馳走さま」

 コロナとなんやかんやしてる隙にロッテがもう食い終えてる。リリンほどじゃないけどお前も大概食うの早いよね。こぼしてもないし口も汚れてないところを見ると人間の体に完全に慣れたって感じだな。

「食い終わったならデザート頼んであるから先に食ってて良いぞ」

「ん? そうか。ありがたくいただく」

 タブレットでデザートを運んでもらうように指示を飛ばしておく。コロナは張り切って食ってるし、俺もそこまで時間かけて食うタイプじゃないから一緒に運んできてもらう。

「これは……始めてみるな」

「ティラミスな。無理そうなら俺のと変えるか?」

「……いや。独特の匂いだが嫌いじゃない」

 少し緊張しながらもフォークで小さく切り取り口に運ぶ。うん。改めて見るが違和感がない。むしろお上品。元々犬とは思えないなぁ~。

「うん。香りと同じく複雑な味だが美味い」

「そりゃよかった」

 適当に頼んだ物だから苦手だったらどうしようかと思ったよ。地味に不安でしたわ。やっぱ小さくともサプライズは俺には向かないな。次からちゃんと聞いてからにしよ。

「にゃーにゃー!」

「ん? 食い終わったか」

 呼ばれたので目を向けると、完食していた。ちゃんとソースも綺麗にすくいとってて偉いぞ。その代わり口の周りにソースがついちまってるけどな。仕方ないな。このくらいはしてやるか。

「コロナ。じっとしてろ」

「んっ」

 テーブルナプキンで口を拭いてやる。俺に何かをされるってことがもうコロナにとっては良いこと。らしいからすごいおとなしく拭かれてるよ。子供ってこういうの嫌がりそうだけどコロナは本当こういうときは良い子。

「うん。綺麗になったな。プリン食って良いぞ」

「……」

「あ~……。一人で食べれて偉いぞ~」

「ん♪」

 頭を撫でると満足げになりプリンアラモードに手をつける。おいおいそのスプーンはラザニアに使ってたやつ……。まぁ良いか。うまそうに食ってるし。俺も自分の食お。

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