第81話

「待たせたな……って、どうした?」

「いや、ちょっと疲れただけ……」

 なんとか座れる場所を見つけ休んでいると、飲み物を持ったロッテが合流。この人混みでもよく見つけられたもんだ。疑ってたわけじゃないがさすがの嗅覚。

「……? 何があったかは知らないが丁度良かった。才の分も買っておいたぞ。飲むと良い」

「気が利くな。もらうわ。……あれ? お前のは?」

「儂は喉が乾いてるわけじゃないから。気にしなくて良い」

 ……察するに。自分のぶんだけど疲れてる俺を見て譲ってくれた? なんだよマジで気が利くな。良い女にもほどだぞ。

「紅茶だが良かったか? コロナにはスイーツジュースプリン味だ」

 なにそれ!? そんなもんあんの!? めっちゃ甘ったるそう! 甘い物は嫌いじゃないが、俺なら絶対飲みたくない……って。

「にゃーにゃー……?」

 そうでした。こいつ俺が手をつけないと自分からは物を口に入れない子でした。つまり俺がまず毒味をしないといけないんだねぇ~。えぇえぇ飲みますよ飲めば良いんでしょ。クソ。今のところ外に出て良いこと一個もないぞ!

「……コクコク」

 あんまぁ~……。超あんまぁ~……。市販のプリンってカラメル部分も甘いやつが多いんだけど、これはそのカラメル部分とごちゃ混ぜて飲んでる感じ。うん。こんなもん飲み物じゃない。固めたらただのプリンだよこれ。毒味は済ませたしやることはやった。二度と飲まねぇ。

「ほら、大丈夫だぞ」

「ん」

 コロナに渡すと足をぷらぷらさせて飲み干していく。マジか。よく一気飲みできるな。どんだけプリン好きなんだよ。

「ぷはっ」

 目を細めて余韻に浸っておられる。その間に俺もお茶飲も。買ってきてくれたのがストレートだから良い口直しになるわ。

「……んく」

 うん。プリンジュースが甘すぎたせいで紅茶の味がまったくしない。香りだけだわ。お茶の香りがする水だわこれ。でも今の俺には丁度いいよ本当。ミルクティーだったら甘さの上塗りで軽く悶絶してたかもしれない。ナイスだロッテ。犬に戻ったら撫で回してやる。

「ふぅ……。さんきゅ。お前も飲むか?」

「へ? へ!? い、いや良い! ぜ、全部飲んでくれ! 儂は平気だから!」

 顔を真っ赤にして全力の拒絶。元はロッテが飲むための紅茶だと思うから少し飲んで返そうと思ったんだが、またうろたえてるよ。普通の女相手なら飲みかけ渡すなんてしないけど。ロッテは元々犬だしそういうの平気かと……。でもこのうろたえようを見るに先入観だったようだな。ごめんよ。

「本当に良いのか?」

「あ、あぁ……。大丈夫。大丈夫……」

「そっか。じゃあ全部もらうわ」

 一応確認を取ってから残りをいただく。……ちょっと名残惜しそうにしてたのは見なかったことにしよう。どっちの意味でかを考えたくないからな。



 休憩を終えて、とりあえず適当に歩くと雑貨屋が目に入った。外観からして女性向けだな。櫛とかブラシもたぶんあるだろうからちょっと行ってみるか。一人ならともかく、今は女二人連れてるし恥ずかしくないぞぉ。

「ロッテちょっとあの店に入ろう」

「あぁ。わかった」

「いらっしゃいませ~」

 店の中に入ると色々あって結構ゴタゴタしてるな。雑貨屋とか滅多に入らないけどこんなもんなのか?

「入ったわ良いが、何か欲しい物があるのか?」

「お前とコロナの櫛があるんじゃないかと思って……。お?」

 見つけたのはちょっと装飾の凝ったブラシ。……犬用の。しまった。人型のときのことばかり考えてた。犬型のときのロッテのブラシも考えなくちゃいけなかった。

「う~ん……」

 ロッテの綺麗な毛並みを傷つけない繊細な毛足のブラシがほしいんだが……。犬用ブラシにそんな細かい区分があるのだろうか……。ブラシを触って感触を確認してみるが、いまいちわからん。

「あの……お客様……?」

「ん? はい」

 ロッテのブラシを吟味してると、店員に話しかけられる。なんか難しい顔をしてる。俺なんかしちゃったかな……?

「えっと、その。それはわんちゃん用のでして……」

 えぇ、わかってますがそれがなにか?

「恐れながらそちらの女性用に櫛、もしくはヘアブラシをお求めかと思うんですけど……」

 そうですね。まさしく。何が言いたいんだ……? あ、そっか。そういうことか。人間用と犬用の区別がついてないと思われてたのね。それなら納得できる。

「あぁ~。えっとですね。この二人のもなんですが犬を飼ってまして……」

「あ、そうだったんですか……! 申し訳ありません早とちりを……」

「いえいえ」

 大丈夫ですよ気にしてません。飼い犬と言われてロッテがちょっと苦笑いをしてるだけなんで。あ、内容はどうあれ話しかけられたことだし、ついでに何が良いか聞いてみよう。自分から聞きにいくのはハードル高いけど、流れで聞くほうがまだやりやすい。

「あの、なにかおすすめってありますかね? この二人綺麗な髪してるんでできるだけ良いのほしいんですけど。あと犬用のも」

「……! たしかにお二方ともお綺麗な髪ですね! これはたしかにお手入れはちゃんとしませんと! 普段どんなシャンプーを? あとリンスも。それから――」

 お、おおう。怒濤の質問攻めが始まった……。話を聞いてわかったことだが、どうやらこの店個人経営らしく。この店員さん……いや、店長が趣味でやってるらしい。で、自分の好きな物を集めて売っているんだとか。それで商売できてるんだから大したもんだよねぇ。

「あ、えっと……。すまん。あるものを適当に使ってるから何をと言われても……」

「それはいけません! こんなに綺麗なのに適当にするなんて……! もったいない! この髪質からして合うブランドは……。ちょっと待ってくださいメモしますから!」

 このあと、この趣味に生きる元気な店長さんの質問攻めとおすすめを数時間に渡り聞く羽目になりました。リリン連れてこなくて結果的に良かったかもしれない。質問が一人分増えただろうから。……あ、いや。あいつだから論破して早々に切り上げてたかもしれないか。

「え? そんなこと言われても……。なぁうちにこの人が言ってる物ってあるのか?」

「その言い方……。もしかして同棲してらっしゃる!? わーっ! わーっ! お若いのにまぁ! 詳しくお話をうかがっても!?」

 店長さんのパワフルが増した。ロッテ貴様余計なことを言いやがって。これはまた話が長引くぞ……。はぁ……本当今日はアンラッキーだな。

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