第72話
いずれと言ったなあれは嘘だ。時はすぐに訪れた。どれくらいすぐかというと夕食後。今俺は布団の上でコロナと対面している。もちろん抱っこじゃなく、だ。
「良いかコロナよく聞け」
「あ~あ~♪」
両手をこちらに伸ばすので俺も伸ばすとペチペチ叩き始める。抱っこの代わりにじゃれることで甘えてるんだろう。……話聞いてんのかなこれ? ……とりあえず続けよう。
「明日からお前はこの部屋で留守番か、預託所に預けることになるんわけなんだが」
「にゃーにゃー♪ にゃーにゃー♪」
「はいはい。つまり一時的にだが離れ離れになる」
「……」
コロナの動きがピタッと止まる。そして珍しく表情筋が少しずつ動いて絶望を全面に押し出した顔になったな。うん。ちゃんとお話聞いてたんだな。偉いぞ。
「あとお前は俺に頼りすぎ。別にそれは悪いことじゃない。ただあまりにも拘束されすぎると俺が困るんだよ。だからせめて他のヤツにも慣れていこう」
「…………」
お、お前……。そんな顔→(´🔘◇🔘`)できんのか。おもしれぇな。最早どんな感情かわからねぇよ。
「コロナ、わかってくれるか?」
「……やっ! やーっ! やーっ! やっ! やぁーっ!!!」
「おっと」
やーやー喚いた後胸に飛び込んでへばりついてくる。カタカタ震えて涙目で訴えかけてくる。まぁ、そうなるよな。わかってた。だがここで折れるわけにはいかない。俺の平和の為にも。だって俺離れしないとまた風呂に入ることになるんだぜ!? 無理無理無理無理。本当に無理。あんなもん続いたら精神疲労でぶっ倒れるぞ。だからせめて少しでも俺から離れるようになってもらわないといけない。死活問題なんだよ。
「コロナよ……。別にずーっと離れるわけじゃない。ちょっとの間。他の人に甘えようなって話でな?」
「やっ!」
頑なだな。この頑固者め。体は柔らかいのに芯はカッチカチかよ。
「あのな? お前が常にへばりついてると俺が困るんだよ」
例えばだが、用足すとき。俺がどんな気持ちだったかわかるか? 幼女を個室トイレに連れ込むところを見られるんだぜ? しかもコロナを抱えたままアレを見られないよう触れられないようにしながらシテる音を聞かれるのがどんなに恥ずかしいか……! さらにそれで終わりでもない。連れ込む。つまり入るってことは出るってことだ。幼女と共に個室トイレから男が出てきてみ? どう思う? もう事案としか思えないだろ? そんな目に晒されてみ? 死にたくなるから。
「コロナ……。お前は俺を困らせたいのか?」
「……っ」
ブンブンと頭を振る。よしよし。これで頷いてたら問答無用でおしりペンペンだったぞ。
「じゃあ、わかってくれないか? な? 頼むよ。これからは他の人とも触れあっていこう」
「……」
コクりと頷くコロナ。直前にこんな顔→(ー"~"ー)しなきゃ百点だったぞ。
「よし。良い子だ。ってわけで早速。手始めにロッテと風呂に入ってこい」
今度はこんな顔→( ´・ω・`)をするコロナ。無表情かと思ってたけど、思ったよりかは色んな顔するな。お前。
「というかやはり風呂役は儂なんだな」
「あぁこら! 暴れるな!」
「やーあーっ!」
風呂場からロッテの奮闘する声とコロナの抵抗する声が聞こえる。お~お~。元気なこって。風呂で騒ぐなんて若いねぇ。良いねぇ若いって。コロナの実年齢は知らないが少なくともロッテは年上だけどな。
「才以外に触られるのが嫌なのはわかるが我慢しろ。これからはたぶん毎日儂が風呂に入れるんだから。早く慣れてくれ」
「うぅ~……」
察しが良いなロッテ。その通りだ。コロナ風呂入れ係りはもうお前で固定するつもりだよ。大変だろうが励めよ。入れるほうも入れられるほうも。
「やっ!」
「って言ってるそばから暴れるな!」
本当賑やかだな。まぁなんだ。そのまましばらくコロナの相手をしててくれや。暴れてるってことは滞ってるってことだろ? つまりそのぶん時間がかかるわけだ。俺はその間に休ませてもらうよ。たった数十分でも仮眠をとらせてくれ。結局コロナにもてあそばれて眠れなかったからよ。すこぶる眠いんだよ。ってことでおやすみ……。
「……くぅ~」
「わざとらしく寝息立ててるところ悪いんだが」
元祖ロリ……じゃない。リリンが相変わらずゲームをしながら話しかけてくる。なんだよゲーム廃人。俺は眠いんだおとなしくゲームしてろや。
「バスタオルを用意……。二枚用意するのを推奨するぞ」
なにをわけのわからないことを。ちゃんとロッテは着替えもタオルも持っていってたぞ。俺が余分に出す必要ないだろ。
「ぐーぐー」
「フム。無視か。我はそれでも構わんがな。だが無視して困るのはお前だぞ~」
「……」
……自分には被害はないだろうが、俺にはあるので忠告だけしてやったってことですかい。ご丁寧にどうもなクソ。そこまで気をつかうならついでに用意してくれよ。まぁせっかくの忠告なので一応バスタオルを出しに行く。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「あ、こら逃げるな!」
「うぉう!?」
ナイスタイミングというべきかなんというか。びしょ濡れのおっぱ……コロナが風呂場から飛び出してきた。走ってるせいで躍動感がすごいです!
「……!? にゃーにゃー!」
俺を見つけると一目散に突撃してくる。そして俺の手にはバスタオル。なるほど。これを予知していたのかリリン貴様!
「にゃあーにゃあー!」
とりあえず突っ込んできたコロナをタオルを広げてキャッチ! 包み込んで捕縛!
「にゃーにゃー! にゃーにゃー!」
バスタオルで捕縛されたコロナを吊るすように持つ。体を拭く前なんだろうな。びしょ濡れだわ。これは普通に抱っこするの抵抗があるぞ。
「す、すまない! 少し目を離した隙に逃がしてしまった!」
「あぁ別に良い……よぉ!?」
慌てて追いかけて来たロッテ。もちろん包み隠さず全裸でござる。コロナ以上のすごい躍動感です! 何がとは言わないけどな! なるほど二枚目はこれか! ロッテは元々犬。裸での羞恥心はない。いくら教えたとしてもとっさのときは気に留めることはないだろう。リリンお前ここまで予測してたのかすげぇな!? その未来予知のごとき聡明な脳みそあるんだったら未然に防いでほしかった気持ちもあるぞ。
「と、とりあえずこれ!」
「あ、あぁ。すまない咄嗟のことでついこんな……」
持っていたバスタオルを投げてやる。ロッテは自分の今の状態に気づいてくれたのか申し訳なさそうな顔をする。お前だけだよそうやって心から優しい気持ちで気遣ってくれるのは……。たとえ今は犬じゃなくても俺の心の安らぎはお前だけさ。
「床がこんなにも濡れてしまった。すぐに拭く」
「床は良いから隠せ!」
「え? あ、あぁそうか!」
やっと俺の意思を汲んでくれたようで前を隠す。やっと目のやり場には困らなくなった……。わけでもないけど。安心できるようにはなったな。うん。
「コロナ。体拭いて服着てこい。そしたら抱っこしてやるから」
「……………………ん」
なんだその長い間は。抱っこ取り止めてやろうか。
「じゃあロッテを仕上げ頼む。床は俺が拭いとくから」
「すまないな。任されたのに余計な仕事を増やして」
「いや、別に良い。さっさとお前も服着るなり犬に戻るなりしてくれ」
「わかった」
濡れた美女とか艶かしすぎる。思春期には強すぎる刺激です。前屈み一歩手前やで俺。
コロナをロッテに渡して俺はまた新しいタオルを取りだして後処理開始。範囲はそこまでだが結構な量の水だな……。はぁ……めんどくせぇ……。
そういえばなんだが……。ロッテって人型だとつるつるなんだな……。犬なのに。狙ってたわけじゃないんだが契約者全員のあそこを見てしまった。正確な部位は言うまい。
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