第67話

 ……苦しい。息が……できない……! なんだ……何が起こっている? なんか柔らかいナニかが顔に押しつけられて……。

「……」

「すぅ……すぅ……。にゃーにゃー……」

「……」

 お前かぁコロナ! お前の豊満おっぱいが犯人か! わざわざ寝てるときに人の顔抱えるとかいうお約束かましやがって! 男としては幸せな起こされ方かもしれんが俺は例外だぞ。俺は自分の意思の弱さを重々承知してるからな。大人の性を知れば歯止めなんて絶対効かなくなる。ドライに見えるのは暗示みたいなもので、必死で我慢してんだよマジで。だから二度とこんな起こされ方はしたくない。柔らかい上にミルクっぽいねっとりとした甘い香りまで漂わせられたら朝ということもあってアソコが大変なことになるからね。いやもうなってるけど。

「んむぅ~……にゃーにゃー」

「むぐ……っ!」

 むぎゅうっと俺の頭を強く抱き締めるコロナ。あ~顔が埋まる。超低反発の柔らかおっぱいにより完全に呼吸器が塞がれ意識が若干遠退く。おっぱいに顔埋めて死にたいみたいな話は聞いたことある。たしかに感触は素晴らしいが、これ普通に窒息なわけで、非常に苦しい。もうおっぱい楽しむ余裕とかないから。初めからそんな余裕持ってもねぇし。早く脱出しないと二つの意味で限界が来ちゃうぞ。

「ぶふー……! ぶふー……!」

「あう……ふが!」

「うぶ!」

 塞がれた口から無理矢理息を吐きつつ脱出を図るが、コロナはそれを許さない。寝ぼけていてもガッチリホールド。ぐぬぬ……。やるな……。しかし俺も命がかかっている。ここで諦めるわけにもいくまい。気が引けるが。こうなったらくすぐってコロナを起こすしかない。いい加減酸欠でもう苦しすぎる。なりふりかまってられない。死ぬ! 息できなくて死ぬ! というわけで悪く思うなよコロナ。俺のくすぐる攻撃!

「すぅ……すぅ……」

 効果はないようだ! くすぐり耐性マックスかよお前!? あ、ヤバイぞ。息できなくて本格的に意識が……。

「おい。いつまで遊んでる。そろそろ起きろ」

「ぐぶっ」

 リリンに蹴られコロナごと転がる。

「んっ!?」

「ぶはっ!」

 そしてベッドにぶつかり、コロナは目を覚ます。突然の衝撃で驚いたのか手足をピーンっと伸ばし、お陰で俺も解放された。た、助かった。

「はぁ……はぁ……。リリン。ありがとう……。マジで死ぬかと思った」

「ん? よくわからんが……。良かったな。生きてて」

 いやまったく。リアルにおっぱいで窒息死しかけるとは思わなんだ。二度とこういうことが起こらないよう諸々後でコロナに言い聞かせないと……。だがまずは……。

「ん~……っ!」

 頭をぶつけたまま涙目で微動だにしないコロナを慰めないとな。もう少しで涙腺決壊寸前っぽいし。鳴き叫ばれたら洒落にならないし急がなくては。

「おーよしよし。良い子だから泣くなよ~」

「にゃーにゃー……。ぐすっ」

 抱き抱えて背中をポンポンっと軽く叩いてやると少しずつ落ち着いてくる。こうしてるとやはり赤ん坊のようだ。でも俺はもう二度とお前を侮らない。なぜならお前のおっぱいはつい先程人一人の命を奪いかけたのだからな。



 シャツ一枚のコロナを食堂に連れていくわけにも行かないので、部屋で軽く朝食を済まして被服部へ向かう。本来あまり朝は集まらないらしいんだが、リリンが連絡を取り部長の久茂井先輩だけが顔を出してくれてるらしい。なんだかんだお世話になっちまってるな。まぁあの人の場合リリンと関わることがもう大きなメリットらしいから気を遣う必要皆無だけど。

「さて、ヤツはもう中にいるだろうが……。フム。我の勘だが盛大に血を噴くだろうから気を付けろよ」

 あ、それはなんとなくわかる。リリンのときもそうだったし、後から聞いたんだがロッテのときも鼻血を噴いてぶっ倒れたらしいからな。コロナなんてもうなんというか絶対その手の人たちの心を刺激するタイプだもんな。と、そうだ。一応コロナは下ろしとこう。あの人のことだ。「銀髪美幼女が抱っこされてブハァッ!」とか言ってぶっ倒れるに決まってる。コロナが目に入った時点で血を噴くのはわかりきってるが、せめて刺激は抑えてやらねば。

「あ、コロナ。念のため降りてろ」

「やっ」

「頼む。じゃないとこれから会う人が大変な目に合うんだ……」

「んぶぅ~……」

 まっすぐ目を見つめて頼み込むと、渋々ながら降りてくれた。代わりに足に抱きついてきたけどな。せめて手を握るまで妥協してほしいんだが……。まぁ抱えるよりはマシだし。なにより眉間にシワを寄せて口をMの形にしながら頭をブンブン横に振り、全力で拒否るので今度は俺が妥協。実はコロナ声とか行動には感情乗るけど表情筋はあまり動かないんだよな。それがこんなにわかりやすーく嫌そうな顔するってことは相当なんだな。悪かったよ。

 さて、コロナの準備も整ったところで。魔境への扉を開けるとしよう。……先輩。死なないと良いけど。

「失礼しまーす」

「来たぞ。服は用意してるんだろうな?」

「いらっしゃーい。もちろん用意したけど髄分とまぁ特殊なサイズだったね? まるでロリきょにゅっ!? ゲバァッ!!?」

 コロナが視界に入った瞬間派手に散っていった。あ~あ~やっぱりこうなるか。

「身長137㎝でバストは少なくとも80㎝以上!? お、男物のシャツ一枚姿。しかも背に似合わぬおっぱいで押し上げておられる……。付け加えて冷たい印象を抱かせる瞳。なのに足に抱きついて甘えている。これはまさにギャップの二重奏……。こんな逸材を連れてくるなんて。フフフ。たまにしか来ないのに相変わらずやりおるわこの幽霊部員」

 あんたが幽霊部員で良いつったんだけどな。俺はそれに甘えてるだけです。つか身長を見ただけで当てるのやめてください気持ち悪い。

「にゃーにゃー……」

 珍獣を前にして不安そうにキュッと手に力が入るコロナ。だがそれがこの先輩へんたいにはさらなる刺激だったようで。

「知性を感じさせるお顔からの逆に生まれて間もないベビー感ある独特な呼び方!? ギャップの三重奏だとぉ!!? カフ……ッ!」

 久茂井先輩が口からも血を出して倒れる。たぶん鼻血が口に回ったんだな。可哀想に。

「先輩。リアクションはそのくらいにしてコロナの着替え手伝ってもらえませんかね? このあと授業もあるし早くしたいんですけど」

「コロナちゃんって言うんだね……。あと後輩よ。授業があるのは私も同じだからね……? 暇ではないからね? わざわざ時間作って朝来てるわけなんだけどその辺わかってる?」

 ヨロヨロと生まれたての小鹿よりも足をガクガクさせながら立ち上がる先輩。両手を左右にピーンっと伸ばしながらバランス取っておられる。

「まぁ、良いけどさ。目の保養させてもらってるし。それじゃあ、まずは服を選ぼうか。カジュアルなのも良いけどやっぱり顔立ちからしてクラシカルロリータが良いかな? 色は……青系統にしよう。銀髪には青派なんだよね私」

 いや知らねぇし。お好きにどうぞ。服のことは全部お任せしますわ。世話にもなってるし。趣味で選んで良いですよ。どんな奇抜な服でも。全裸よりかはマシだしな。リリンもコロナも裸でも顔色一つ変えないし。何気にロッテが人型のときは露出のある服とかだと恥ずかしそうにしてる。なんでも毛がないから落ち着かないらしい。

「うん。とりあえずこのあたりなんてどうかな?」

 選び終わったようで見てみると、色は白と青だけだしフリルも少ない。落ち着いた印象の服。うん。ロリータファッションにしては地味だし俺は好感持てるわ。

「他にもアイテムはいくつかあるけど。まずはこれ着てもらおうか」

 久茂井先輩がヨタヨタしながら近づくと、コロナは俺の後ろに回り込み改めて抱きつく。それだけならまだ良かったのだが……。

「やっ……」

「はぅあ!?」

 口に出したのがダメだった。久茂井先輩が後ろに反り返って首ブリッジの体勢になってしまったぞ。床に思いっきり頭ぶつかってたけど大丈夫なのか? 元々おかしい頭さらに痛めてないか心配だわ。

「がわいい……。なにこの生き物。超がわいい~……」

 大丈夫そうだな……。

「えっと。先輩。こいつ俺以外に触られたりするのも嫌みたいなんで。でも女だし俺が着替えさせるわけにもいかないし。お手数ですが拒否られながら手伝ってもらえませんかね?」

 拒否られながら手伝えって大分酷いこと言ってる気がするが、背に腹は代えられない。俺の心の平穏のためにも先輩には犠牲になってもらおう。

「え? 全然良いよなにそれご褒美ですか?」

 拒否がご褒美はちょっと理解しがたいんですが? まぁこの人のことなんて最初から理解するつもりもないから良いけど。ノリノリならそれはそれで良いしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る