第65話
結果。離れるのを嫌がり続けたので、俺の膝の上で食事を取ることに。あ、コアラはやめてちゃんと顔はテーブルのほうに向いてるよ。さすがに対面で食事とか服が無駄に汚れるのでそこだけは死守。このあと風呂に入るとしても気分的に、な。
「ほら、飯だぞ」
「あう?」
俺のほうへ振り返りながら首を傾げる。見たことない食べ物なんだろうな。難しい顔してらっしゃる。とりあえず食べ方もわかってないようだし見本として先に食べるか。
「フォークで絡めて口に運ぶんだよ。あむ。むぐむぐ。お前もやってみ」
「……」
「って待て待て」
無言で俺が食ってたカニトマトに手を伸ばすので慌てて止める。
「それ俺の。お前はこっち。あと素手ダメ。ノー素手」
「やぁー!」
どうしても俺が食べたほうじゃないと嫌らしい。なぜだ?
「恐らく毒味に近いものではないか? 森では親が食べた物しか口にしない子もいたぞ」
なるほど。つまり俺が先に手つけないとこいつも食べないと。めんどくせぇな。
「わかったよ。先に食えばいんだろ」
両方目の前で食べてみせると心なしか安心した様子だ。ケツから力が抜けただけだから確証はないけど。
「これで食えるだろ。さっさと食っちゃえ」
「ん」
「だから素手はダメ」
「あう~……」
不満そうな声出してんじゃねぇ。つか言葉はわからなくとも感情は流れてくるから不満タラタラなのはわかってんだからな? あんま調子乗んなよクソガキ。さっさとそこな文明の利器フォーク様を使え。
「にゃーにゃー。あ~」
袖を引っ張りながらこっちに向かって口を開ける。入れろってこと? え? ふざけろ? 甘えんな。と、言いたいところだが早く風呂入って寝たいので今日のところはあーんを受け入れてやろう。……今日だけだからな!
「あーん」
「んあ~……あむ。んふ~♪」
コロナはカルボナーラを口に入れ咀嚼しながら体を横に揺らし足をプラプラさせる。気に入ったみたいだな。両方手つけちまったしどうせなら好みを探るか。今度はカニトマトのほうを食わせてやる。
「あむあむ。んふ~♪」
ご機嫌な鼻息とゆらゆらプラプラ。……若干カルボナーラのときのがテンション高かったかな? その後も何度か交互に食わせてみるが、やっぱカルボナーラのがゆらゆらとプラプラのストロークが大きいな。
「けぷっ」
全体の七割を食うと満足そうにお腹をポンポンする。チビのくせによく食うなぁお前も。リリンほどじゃないけど。さて、コロナの食事も終わったことだし余ったぶんを食べて風呂に入るか。
「改めていただきまー……って。コロナお前口の回りベタベタじゃねぇか……。ったく」
気を付けてたつもりだがそれでも食べ方が下手なのか口の回りが白と赤のソースで汚れてるのでティッシュで拭き拭き。
「むー……! むー……!」
嫌がってるように聞こえるが、実のところ抵抗はほぼない。俺がどういう意図で何をしてるかも伝わってんのかな? 大人しくしてるので別になんでも良いけど。
「これでよし。綺麗になったぞ」
「ん。にゃーにゃー」
……にゃーにゃーってのは俺のことか? なにその可愛い呼び方。やめてほしいんだけど。
「ん~……ん~……んっ」
食事も終わり口も拭き終わると体を半回転させて抱きついてくる。これから俺も飯だし別に好きにさせておいて良いか。邪魔したら容赦なく叩き落とすけどな。
俺の心配は杞憂に終わり、食事が終わるまで大人しくコアラってたコロナ。しまったな。これならコロナじゃなくてコアラって名前のが良かったかもしれない。ごめんな。思い付きでつけて。思い付き以外の名付けなんてねぇだろって話だけど。
「にゃーにゃー♪ にゃーにゃー♪」
俺の小さな後悔など露知らず。ただしがみついてるだけなのに常時上機嫌のコロナ。なんか俺のことが好きで安心してるのはわかるんだが……理由がわかんねぇんだよな。縁があるせいか? ま、気にしても仕方ない。大人しく良い子にしてるぶんには問題ない。ずっと引っ付かれてると邪魔で仕方ないけど。初日だし目を瞑ろうじゃないか。
「さて、飯も食ったし。ロッテ。コロナを風呂に入れてやってくれ。服は……リリンの部屋着とかパジャマとかで良いだろ」
「貸すのは構わんがサイズが合わんぞ。胸の」
「お、おう。そうか……なんかごめん」
「ん? どこに謝る要素があったんだ?」
「いや、なんとなく」
リリンは胸にコンプレックス抱いてないから良かったけど。他のヤツなら
「じゃあ服は俺のシャツで良いか。ロッテの服はまだ数も少ないだろうし。……なんか嫌なデジャヴだが」
うっ。リリンとのあの出来事を思い出してしまった。ちんちくりんのつんつるてん……。コロナも実はつんつるてん……。イケナイイケナイ。想像するだけでも絵面がダメだ。犯罪的背徳的過ぎる。
「儂も服は貸しても良いんだが……。風呂はなぁ……」
「あれ? お前人型で風呂入ってるよな? なんか問題でもあるのか?」
そら子供風呂に入れるのは初めてだろうから苦労もあるだろうが。器用なロッテならすぐ慣れそうなんだが。
「いや、入るのも洗うのも大丈夫だと思う。ただ……離れるのか? それ」
「あ~……」
だよなぁ……。そこ気になるよなぁ~……。俺もすんごいどうしようか迷ってたところ。
「無理矢理ひっぺがしてとか……」
「剥がれたとしても激しい抵抗を受けそうだな」
うん。同意。俺もめっちゃ暴れると思う。だからといって風呂に入らないという選択肢はないわけで。ロリ巨乳と青少年が一緒に風呂に入るのもヤバイわけで。絵面的にも倫理的にも。リリンに任せると影で拘束しそうだから最終手段としては良いがそんな風呂にトラウマ植えつけるような真似もしたくないし。意外と面倒見の良いロッテに任せたいんだよなぁ~……。
「コロナ。ロッテと風呂入ってこいよ。そのために一度離れ――」
「やっ!」
「汚れとか落とした――」
「やっ!」
「俺も風呂くらいゆっくりした――」
「やーっ! あーっ!」
ギューッと抱きつく強さが増し、さらにまた鼻をグリグリ擦ってくる。痛いからやめろって。
「もうどうしたら良いんだよ……」
「共に入れば良かろうがよ」
リリンがゲームをしながら横槍を入れてくる。おい滅多なこと言うな。そんな犯罪臭漂うことできるかボケ。
「じゃあお前が入れろよ。影使って良いから」
「フム。良いぞ」
「え、マジで」
この際コロナのトラウマは仕方ないとして俺のメンタルを守るという意味で非常に助かるんだが。
「ただし剥がすのは面倒だからお前も入れ」
「ふざけんな」
それが嫌だから頼んでんだよ。つかお前とコロナと俺で入ったら余計に危ない絵面だろうがぶっ飛ばすぞ。
「じゃ、じゃあ儂も……」
感化されてんじゃねぇ。俺とお前なら若干合法に見えるかもしれないが俺の理性が暴発するわ。
「諦めてお前らで入ってこい。開き直ってしまえ。ほれ、早くせんと明日に差し支えるぞ~」
「ぐぅ~……」
明日の授業も絶対キツいのは目に見えてる。今日はコロナの件で疲れてるし明日に疲労は残したくない。だからといって一緒に風呂って……。
「なんなら我が影で全員まとめてひんむいてしまおうか? 仲良く皆で裸の付き合いでもしようではないか。クハハ」
笑ってんじゃねぇよ! それ一番ヤベェやつじゃねぇか!
「そんなことになるくらいなら俺が入れてきたほうがマシ――」
「そうか。ならいってこい。我は後で良い」
「儂も才達の出た後で構わんぞ。ゆっくりしてくると良い」
「……」
なんか、上手く誘導された……? ロッテのほうは善意だろうけど。もう口に出しちゃったし、俺はしぶしぶ脱衣所に向かう。……釈然としない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます