第54話
「た、ただいま戻りましたぁ~……」
なんだかんだ圧勝してきた八千葉がいまいちピンと来てないようなぽやや~んとした雰囲気をかもし出しながら戻ってきた。ずぅ~っと目をつぶってたから実感ねぇんだな?
「やっちゃん! よくやった! よく勝った! とうとう努力が実を結んだね……!」
「初白星おめでとう。やったね」
「ここからミス八千葉の快進撃が始まっていくんだね」
「え、えっと。ありがとうございます。でも私はただセッコにマナを送ってただけで、あとは全部任せてたから……」
召喚魔法ってそういうものだろ……。まぁ他の連中はタイミングとかも合わせてたみたいだし、息を合わせるとかそういう面ではたしかになにもしてないからその部分を気にしてるんだろう。ただそうなると普段からリリンに丸投げしてる俺ってどうよ。八千葉の基準じゃダメダメなヤツってことじゃね? ……いや、別に良いけどさ。丸投げでも俺気にしないし。
「学園内では契約者はマナを使えない。そういう制約があるからな。つまり八千葉さんだけのマナでしかセッコは戦っていないんだ。だから少なくとも半分は八千葉さんの力で勝ったということだろう?」
「そ、そうですかね?」
「あぁ。だからもっと胸を張って。勝利を誇っても良いと思う」
「……夕美斗さんに言われるとなんだが自信を持っても良いような気がしてきます。ありがとうございます! また良い結果が残せるようにこれからも精進していきたいと思います!」
八千葉、なぜかピシッと敬礼。精進うんぬんよりまず戦闘中に目をつぶるのやめるところから始めろよと思わなくもない。
「心配ないさ。八千葉さんならこれからどんどん勝率を上げていくよ。……それよりも私の方が問題だな。これでこの六人で唯一一勝もできていない事になる」
そういえば、夕美斗は授業での対人戦だとミケよりも強い。ミケが女と密着することに抵抗感だか罪悪感を感じているのを差し引いても、体の使い方は抜群だ。……ただこの演習試合。自分じゃ戦わないんだよな。だからまったく成果を出せていないのか? あ、あと本番に弱いとも言ってたっけ。
「だ、大丈夫ですよ! 合宿ではちゃんとできてましたし!」
「……あれこそ完全にニスニル頼りだよ。私がマナを送る前にほとんど片付けられてしまっていたし」
「あ、あぁ~……えっと。なんと言ったら良いんでしょう……」
「お、おおう。それはなんか。どんまいだね」
「契約者が優秀すぎると成長の機会が減っちゃうってことかな? あ、こんなこと言うとジゼルに怒られちゃうかな?」
何度も思うが、その理論だと俺はどうなる……。全部任せきりの成り行き任せだぞ……。マナだって前まで自分の意思じゃまったく出せていないし。出したら破裂するから。基礎代謝的に垂れ流されてるやつで戦ってたからなリリンのヤツ。なんかもうお前ら色々気にしすぎだよ……。俺の肩身が狭くなるだろ……。
「大丈夫! 皆に続くのだゆーみん! 辛かった合宿を思い出せ! こうなったらさっちゃん含め全勝じゃあ!」
「あ、あんたはまた懲りずにそうやってプレッシャーかけて……!」
「ぬぅおおおおおおお!!?」
八千葉に続いて夕美斗にまでやらかした伊鶴にとうとう多美の鉄槌が下る。後ろから頭を掴み背中を無理矢理のけ反らせる。続いて多美は伊鶴の頭を脇に抱えられ締めつける。これで腕まで脇に挟んだらドラゴンスリーパーだな。
「あはは……。たしかにちょっとプレッシャーだな。でも、私だって勝ちたいと思ってるから。ニスニルに頼りきりだったけど。私だって秘策はあるからな」
「あ、夕美斗さんもしかして……」
「はっは~ん。早速あれやるんだね。じゃあ心配はいらないかな?」
「フハハハハハ! ゆーみんの凶悪にて邪悪な力が今ここにぃぃぃぃいっ!?」
「あんたはちょっと黙ってなさい!」
頭を締めつけられながらもふざけた口を叩くので膝でさらに背中を反らしにかかる。さりげなく俺にも勝てと言った罰だ。甘んじて受けてろ。つか夕美斗が秘策と言ったら全員急に気が抜けたな。秘策なのに内容知ってんのかよ。それ秘って言う?
「おっと。そろそろ時間だ。いってくる」
「いってらっしゃい」
「頑張ってね」
「もう心配はいらないだろうけどさ。しっかりね」
「緊張なんて力でねじ伏せてしまえ! ぐお!?」
「まぁ、なんだ。ふぁいとー」
各々の激励の言葉に笑顔を返し準備に向かう。なんか去り際の今の顔めっちゃイケメンだったな。本人は意識してないだろうけども。キリッとした顔は自信の現れか? よっぽど秘策ってのがすごいのかね。
「さっちゃん。ゆーみんの戦いをよーく見とくと良いよ。たぶん今の学園にいる中で一番ユニークだからさ」
いつの間にか解放されていた伊鶴が意味深なことを言う。ほう。そこまで言うなら期待を胸に見させてもらいますよ~。
『一年B
バトルパート
和宮内夕美斗&ニスニル
VS
透谷藤風&アーダーリュベット
「はぁ……ダルい……」
アナウンスが入ってもすぐに準備を始めることもなく言葉の通り気だるそうにしている藤風。夕美斗は困惑しつつもとりあえずニスニルを喚び出す。
「あぁ~……もう喚んじゃうの? もう少し粘りたかったのになぁ~……ダルいよぉ~……帰りたい~……」
「あ、あの。もしかして私がE組だからやる気が出ないのだろうか……?」
「別に。相手なんてどうでも良いよ。ただ外出全般が嫌いなだけ。ずっと部屋でお人形遊びでもしていたい……」
「……」
反応に困る夕美斗。いっそ自分のせいと言ってくれた方がまだ気持ち的には楽であったくらいだ。
「はぁ……ぼやいてても仕方ない。下手に時間かけてたら不戦勝になるかもだし。よくて内申点下がったり? そうなったら親うるさいだろうなぁ……。ここで負けてもうるさいんだろうなぁ~……。私別に魔法師目指してるわけじゃないのに……」
「む」
今の言葉には少しイラついてしまった。夕美斗は親の反対を押しきって学園に入っている。どんな形でも魔法を学びたい一心でだ。もちろん人それぞれ事情はあるだろう。しかしそれでもいい気はしない。
「とりあえずどんな形でも。さっさと終わってくんないかなぁ~……。ねぇ? そうしてくれる? アーダーリュベット」
ゲートから足の生えたボロ布が現れる。藤風の契約者だ。雰囲気が不気味すぎて夕美斗は少々たじろいでしまう。
「夕美斗、気を付けて。あの契約者は手強い」
ニスニルが夕美斗に注意を促す。夕美斗は改めて気を引き締める。
「ニスニル……」
「わかってる。あれをやるのでしょう? きっと貴女にはそっちのが合ってる。存分にやってきなさい」
「あぁ……!」
夕美斗はシャツとスカート脱ぎ、スポーツインナー姿になる。そして、安全エリアから服だけを置いて出てしまう。
「……なにしてるの? 今から始めようかなって思ってたんだけど。今度はそっちが時間稼ぎ? それとも肌出して前に出て目立ちたいだけ? はぁ……ダル……。せっかくやらなきゃあってなってたのに。萎え」
夕美斗の奇行とも言える行為に藤風は苦虫を噛み潰したような嫌悪丸出しの顔をする。夕美斗は対照的にやる気に満ち溢れた顔で返す。
「勘違いしないでほしい。体を張って戦うのはニスニルじゃない。私だ」
「……」
驚きのあまり声も出ない。なんとか普段使わない頭を回して言葉をひねり出そうとするが、それでも一分を要してやっと口を開く。
「えっとさ。安心エリアってなんのためにあるかわかってるよね? そこから出たら命の保証はないんだけど。一度出たら敗けを認めるか意識不明の重体になるかしないといけないわけで」
「それか、勝つか。だな」
「……はぁ。頭おかしいのに当たっちゃったかぁ~……だっる。自分で戦いたいなら人域魔法を学べば良いのに……。無理だったからここにいるんだろうけども。……で? 本当に本当の本気なんだ?」
「無論。出なければ動きやすい格好になって安全を捨てたりはしない」
「……わかった。じゃあ……ヤっちゃって」
コクりと頷くような仕草を見せアーダーリュベットは布の内側からボトボトと小さなデッサン人形のような物を落とす。その一つがおもむろに立ち上がり、夕美斗の方へ走っていく。
「すぅ~……っ」
夕美斗はゆっくり、深く呼吸をする。酸素を体に循環させてから戦闘体勢を取る。右手は右頬の近くに。左手は肘を少し曲げて力を抜いておく。足は肩幅よりやや広く保ち相手の出方を窺う。夕美斗が構える間に人形は足元まで接近していた。そして突然大きくなり夕美斗を捕らえようと両手を伸ばしてきた。瞬間――。
「……!?」
「……は?」
人形は大破していた。突然人形の腹部は
「ふぅ……。驚いた。人形を操る能力と思ったら大きさまで変えられるのか。すごいな」
(いや。いやいやいやいやいや。驚いたのはこっちなんだけど……! ど、どうやってマナで硬化させた木偶人形を砕いたっての!?)
普段ローテンションの藤風でさえも頭の中はパニック状態。それはそうだろう。アーダーリュベットの人形はマナを一定量吸う毎に巨大化する特性を持つ。最初は小さいまま送り出し、目の前でサイズを変える事での奇襲を潰されるだけじゃなく、破壊を認識させなかった。もしかしたらニスニルが何かをしたのかもしれないが、動く素振りは全く見せていない。謎は深まるばかり。しかし、幸運と言うべきか。観覧席からは辛うじて様子が見えていた。
「はぁ~。何度見てもすごいですね」
「人形相手だから良いけど。あれを生身でもらったらどうなるんだろ?」
「死ぬでしょ。普通に」
「あっはっは。今のミス夕美斗とはさすがに対人訓練はしたくないなぁ」
「あいつ……本当に人間か?」
(か、考えても仕方ない。わからないものはわからない。とりあえず今は怒られないために勝ちにいかなきゃ)
無理矢理気持ちを立て直した藤風はアーダーリュベットにマナを送る。送られたマナを使い今度は三体の人形を最初から大きくした状態で動かす。夕美斗の動きを見るため、背中で夕美斗の姿を隠さないよう人形たちは左右に散り別方向から迫る。
(考えたな。手の内はもう少し隠しておきたかったが、仕方ないか)
夕美斗はまず左から襲ってきた人形を腰を切る動作で左腕を鞭のようにしならせ打ち出す。人形の左肩を粉砕されるが夕美斗は腰と膝を反対方向へ切り手刀で斜めに両断。次に右から迫る一体には右爪先を内側に捻りながら頭部、胸部、腹部に右ジャブを叩き込み破砕し、追撃で左手の掌底を入れ、その後ろに隠れていた三体目を怯ませる。
「……フッ」
夕美斗は短く息を吐き踏み込む。右手を野球投手のように振りかぶって二体まとめて胴体を破壊した。流れるような一連の見事な動き。見ている者全てが一瞬思考を止める。
「あ、あんた。本当に人間……? いや魔法を使ってるならわかる。でもそれは……」
人域魔法の領域。のはずだ。しかし夕美斗は人域魔法を使うことができない。だから召喚魔法の学校にいる。ではなぜ夕美斗は自身の肉体で戦うことができるのか。答えは二つ。
一つ。夕美斗の実家は大昔からあらゆる戦闘法を求めていた一族の末裔。表舞台には一切出ないし、これといって口では言いづらい稼業をしてきたわけでもない。ただ、現代古代問わず武術や魔法などを学び家に伝えてきただけの趣味に生きる家系。今ではいくつもの種類のスポーツジムを開いているくらい世間に馴染んでいるほどだ。そのせいもあり夕美斗は子供の頃からあらゆる格闘技を学んできている。だからあそこまで見事な動きができた。が、それだけでは硬化された木偶人形を破壊した説明がつかない。その理由は二つ目にある。
二つ目の理由。それは至極単純。夕美斗は人域魔法を使ってはないが、魔法で破壊している。夕美斗は一度マナをニスニルに送り、ニスニルは魔法で夕美斗の手足に空気の膜を付与。あとは夕美斗の動きに合わせてニスニルが膜の性質を変え夕美斗の打撃を底上げしているのだ。
(今の私では手足の末端だけの分しかマナを送れないがな。だがいつもと比べればずっとやりやすい。私も戦えるぞ……!)
夕美斗は演習試合で初めて手応えを感じ、高揚していく。
(ここにたどり着くまで一ヶ月もかかってしまった……。いや、たった一ヶ月でこれたと言うべきなんだろうな……)
「く……っ! うぅ……っ!」
森の中。夕美斗は一人皆と離れていた。特になんの成果も上げていないのが悔しくて、感情を抑えきれなくなっていたのだ。
(伊鶴さんも。多美さんも。八千葉さんも。マイク君も。皆それぞれ契約者達の力を引き出している。私だけニスニルの力を引き出していない。いつもニスニルだけで全てを終わらせてしまう。学園では緊張してしまってマナを送ることもできなくて。力を引き出せないニスニルを悪戯に傷つけている……! なんで! 私は! こんなにも!)
「酷いん……だろうか……」
普段は毅然として振る舞っている夕美斗も一人になると子供のように涙を流す。それでも拭えない悔しさ。夕美斗は近くにある木を軽くトントンと叩き始める。少しずつ叩く力は強くなり、やがて右手を大きく振りかぶる。
「夕美斗」
「……っ!?」
拳が木に触れる瞬間。ニスニルは空気の膜で拳が触れるのを防いだ。夕美斗はゆっくりと拳を下ろし力を抜いた。
「焦っているのはわかってる。貴女がどんな手を使っても強くなりたいと思ってる事も知ってる。でも。自分の身を傷つける事は目的を達するのに妨げになるだけよ」
「……わかってる。すまない。助かった。……戻ろう」
「えぇ」
夕美斗は歩きながら先程振り上げた拳を見つめる。そして思いきってニスニルに一つ。頼み事をする。
「ニスニル。貴女が私を大事に思ってる事は知っているし。ありがたいと思っている。だからこそ言う」
「……何?」
「次から後ろに控えていてくれ。私がやる」
この時。夕美斗はあの戦闘法を考えていたわけではない。ただ、がむしゃらになっているだけだ。そんな自暴自棄とも言える行為をニスニルが許すわけもない。
「ダメよ。ここの生き物は貴女よりもずっと強い。貴女を殺させるわけにはいかない」
「頼む……! 私はもう……これ以上。自分を誤魔化せないんだ……。もう、許せなくなってきているんだ……」
思い詰めたような夕美斗の顔を見て、ニスニルは自分の行いを恥じる。
(つい、過保護になるのは悪い癖ね。この子を守りたいあまりに私は力を使いすぎていた。それではこの子の成長を妨げるだけなのに……。でも、やっぱり貴女だけを戦わせるわけにはいかない)
「……わかった」
「……ほ、本当か?」
「一つ条件を飲むなら。前に出るのを許すわ」
「……内容を」
「そうね……じゃあ」
ニスニルの出した条件とは、夕美斗の体の周りに空気の膜を張る事。先程夕美斗の拳を守ったように全員に風の鎧を纏わせるイメージだ。
「……しかし、それでは相手を倒せないのでは」
「さっきはただ守るだけだったから……。見せた方が早いわね。もう一度何かを叩いてみて」
言われた通り夕美斗は近くの木を殴りつける。
「!?」
守るのではなく攻撃に転じた結果。夕美斗の見に纏わせた空気の幕は、風の鎧は、容易く木をえぐるように破壊した。
「どう? 貴女の世界の生き物にも出来る者がいると思うから。言うなれば疑似人域魔法といったところかしら? これを纏うのを条件に前に出すのを許します。これ以上は譲歩できない」
ニスニルにとっては夕美斗を守る為の妥協案。しかし夕美斗にとっては違った。
「……いや、これで良い。これが良い」
偶然とは恐ろしいもので。ある意味でニスニルの提案したモノは夕美斗が最も求めているモノ。自分の身で戦う手段だった。疑似人域魔法。夕美斗にとってこれは願ってもない最高の贈り物。
(これはもしかしたら。見つかったかもしれない。私が先に進む道が)
一つ、疑問が生まれると思う。あがり症のはずの夕美斗が何故緊張を見せないのか、という疑問。別に夕美斗はこの場に置いても緊張していないわけではない。ただ、緊張の種類が違う。夕美斗は緊張を練習などで埋めてしまうタイプ。格闘技などの試合でも夕美斗は練習量で不安から生まれる緊張を消す。しかし召喚魔法では基本的に契約者が戦う。マナの扱いなんて練習する機会はほぼないし、そもそも不慣れで下手な事もあって夕美斗は不安感からまったくニスニルにマナを送る事が出来ず力を発揮させてやれなかった。でも今は夕美斗が前に出ている。自分の身で戦っている。自身の体と技で戦うという慣れ親しんだ空気。そこで生まれる緊張は不安以上のやるかやられるかの独特の緊張。ただ見ているだけよりも、夕美斗は自分で戦った方が断然合っている。
「フゥ……ッ!」
通算二十六体目の木偶人形を倒してもまだ、夕美斗は呼吸をほとんど乱さない。戦いで高揚する気持ちを見事にコントロールし、体力もマナも温存できている。
「……化物」
藤風は思わず口にしてしまう。それはそうだろう。パッと見素手で自身の戦力のことごとくを壊されているのだから。そもそもやる気がないのにこの仕打ちは藤風にとっては精神的苦痛の他ならない。
(あ~……E組に苦戦したとか知られたらまたグチグチ言われるんだろうなぁ~……)
圧倒的にやられているはずなのに、未だ負ける気だけはない。かくし球はまだ残している。
「アーダーリュベット。千兵」
「……」
アーダーリュベットは藤風の指示を受けるとボトボトと人形を出していく。その数実に百体。一体一体が動きだし、一定まで距離を詰めると大きくなり、夕美斗に襲いかかる。
「ハッ! セェッ!」
これまで通り夕美斗は近づいてくる木偶人形を叩き壊していく。だが倒しても倒しても木偶人形の勢いは止まらない。
「第二波」
やっとの思いで百体程倒すと、さらに同じ数をボトボトと落とし向かわせてくる。さすがの夕美斗もこれには血の気が引く。
(先程の言葉通りなら。今のがあと九回来るのか!?)
循環によりマナの操作は多少マシになっているが、元々夕美斗はE組に入ってしまう程度のマナ量。しかし相手はB組。マナの量は夕美斗の比ではない。物量戦になれば夕美斗に勝つ術はない。才能の差がこのような形で夕美斗に襲いかかる。
(こ、これは勝負を仕掛けなくては)
「ニスニル! 全て足に!」
戦い慣れしてる為見切りの早さは抜群。夕美斗は手に集中させていた空気の膜を足のみに集中させ、跳び上がる。木偶人形達を足場にしてアーダーリュベットへ一直線に駆けていく。
(本体を倒せば勝ち……! このまま駆け抜けて討つ!)
途中体勢を崩しても空気の膜が密集した木偶人形を吹き飛ばし、その勢いでまた夕美斗を宙に打ち上げて立て直させる。夕美斗は木偶人形を踏み壊し進み続ける。
「や、やっとわかった……! あの馬の魔法かぁ!?」
夕美斗が迫る直前発した言葉でやっと答えにたどり着く。しかしもう夕美斗は半分距離を詰めている。
「あ、あの馬を止めて……! 倒してしまえば勝ちも拾える!」
「……!」
アーダーリュベットは木偶人形を数十体ニスニルに向かわせる。だが夕美斗もニスニルも動じない。動じるはずもない。
(なめられたものね。こんな玩具でどうにか出来ると思われるなんて)
ニスニルは能力を最低限自分の体に展開。そしてゆっくりと前へ進む。
「な、なにあれ……」
小さな小さな。けれども強い力でニスニルの表面を駆け巡る乱気流。さながら圧縮された台風。そんなものに触れようとすれば硬化してあるとはいえ所詮は木の人形。ひとたまりもない。
「余所見は! いけないぞ!」
「……!」
「しまっ!」
ニスニルに気を取られてる間に距離を詰めた夕美斗。アーダーリュベットは咄嗟に大量の人形を出そうとするが、接近された時点でもう勝負は見えている。
「ハァァァァァァア……ッ!」
地に足をつき、空気の膜で弾き、体を前方に回転させてあびせ蹴りを叩き込む。
「……ッッ!」
いくつもの小さな木偶人形を砕かれながら蹴り飛ばされ動かなくなる。藤風は一呼吸置いてから宣言した。
「……私達の負け」
『透谷藤風の敗北宣言により演習試合を終了します。勝者は和宮内夕美斗』
「……っ! や、やったぁ……!」
初めての勝利に子供のような満面の笑みを浮かべる夕美斗。その笑顔に心を奪われた男女数知れず。この後少々あらゆる人間関係を崩してしまう事になったのだが、それはまた別の機会に。
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